ケイの読書日記

個人が書く書評

山本周五郎 「赤ひげ診療譚」

2016-09-08 17:25:41 | 時代物
 長崎遊学から戻った保本登は、本当なら幕府の御番医という出世街道を歩むはずだったが、江戸を留守にしている間、婚約者は他の男と駆け落ちし、御番医という話もうやむやになって、くさっていた。
 やけになっている保本を、小石川養生所の医長・赤ひげが呼びつけ、医員見習い勤務を命じる。

 小石川養生所は幕府が運営していて、貧しい人々を無料で診察していた。最下層の人間の現実を目の当たりにして、保本はここから逃げ出す事ばかり考えていたが、赤ひげの強靭な精神に次第にひかれていく。


 ずいぶん前、NHKのドラマで、この『赤ひげ』をやっていて、何回か見た事があった。赤ひげは小林桂樹、保本はあおい輝彦が演じていたなぁ。評判は良かったと思う。
 勧善懲悪、悪人はあまり登場せず、最後はまるく収まる短編ばかりなので読みやすい。

 江戸時代に、無料で病人を診る小石川養生所という所が存在していた、という知識はあったが、これってスゴイ事だよね。こういう無償の病院というのは、世界的にみると宗教団体が運営することが多いのだが、日本の坊主は何をやってたんだろうね。この短編集に収録されている『おくめ殺し』という作品には、さびれた寺の坊主たちが、近郊の地主たちとグルになって長屋の住民を追い出し、岡場所を作ろうとする話があった。
 有名な寺と花街というのはセットになっている。精進落としに花街でぱあっとやろう、という事らしい。とにかくこの小説の中には、名僧と言われる人は一人も出てこない。

 江戸幕府も色々な問題や矛盾を抱えていたと思うけど、なんせ15代・270年続いたのだ。それなりに、しっかり政治をやろうという人たちが多かったんだろう。

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