ケイの読書日記

個人が書く書評

米澤穂信 「真実の10メートル手前」  東京創元社

2018-04-10 17:07:44 | Weblog
 米澤穂信は売れっ子だけど、実は私、いままで1冊しか読んでいない。『儚い羊たちの祝宴』…だったかな? すごく女性的というか繊細な印象で、続いて読もうとは思わなかった。
 でも、この短編集、タイトルが良いよね。『真実の10メートル手前』って、真実にほんの少しの所で到達できなかったんだろうか? なぜ? などと思い読みたくなってくる。

 フリーライターの大刀洗万智が、まだ東洋新聞の記者だったころの事件。20代後半か。ベンチャー企業の若き経営者と広報担当のその妹が、企業の経営破綻にともない姿を消した。大刀洗万智は、以前、その妹を取材したことがあり、好印象を持っていた。最悪の結果になるのを防ごうと、彼女を追う。
 本当に僅かな手がかりから、大刀洗は妹の居場所を推理する。一見、神がかっているように見えるが、よく考えてみるとスジが通っている。すごいね。

 松本清張の短編『地方紙を買う女』を思い出すね。一見、なんの犯罪性も見いだせない普通の出来事なのに、恐ろしい犯罪が隠されていた。嗅覚の鋭い万智のような人が、それを見つけ出すのだ。

 ほか、社会人になりたての万智の話が1話、あと4編は新聞社を辞めてフリーライターになった万智の話。
 たしかにサラリーマンでは、自分の興味のあるテーマに取り組むこともままならないだろうから、小説としてはフリーライターになった方が良いだろうが、社会的信用と彼女のフトコロ具合が気になる。
 新聞社の名前の入った名刺は(フリーターより)絶大な効果を発揮するだろうし、給料の他に必要経費などは支給されるだろう。フリーライターは、すべて自腹で、出来上がった記事をどこかの雑誌社が買ってくれなければ1円にもならないんだ。キビシーーーーイ!!! 
 自分で本が出せるような知名度がある人じゃないと、生活できないよ。それか、親か配偶者が生活を支えてくれる人。

 文章の単価がどんどん下がってる。それはイラストや写真でも同じようで、クラウドソーシングなどでプロの仕事をどんどんアマチュア(orセミプロ)が奪っているからね。
 だから本当に質の高い記事を書かなきゃ、やっていけない。大刀洗万智は、それができるんだ。

 『王とサーカス』は大刀洗万智の1人称でつづった作品だそうだ。これもぜひ読まなくっちゃ!

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