ケイの読書日記

個人が書く書評

太宰治 「親友交歓」 新潮文庫

2022-03-13 15:00:48 | 太宰治
 いやぁ、久しぶりに笑いました。太宰のような有名人になると、こういう事もあるだろうね。

 昭和21年9月の初め(つまり終戦後1年ちょっとたった頃)太宰は、青森・津軽の自分の生家に妻と子を連れて滞在していた。東京の自宅から焼け出されたのだ。そこに、太宰の小学校時代の親友と称する男がやって来る。
 顔にうっすら見覚えがあるから、クラスメートだったことに間違いはないだろうが、どういう相手だったか全く思い出せない。
 それでも、太宰は地元の人と揉めたくないと思い、精一杯、話を合わせ愛想よくふるまう。
 そのうち話は、「クラス会を開こう」となり「酒は無いのか」となった。どうも相手は酒好きで、酒が飲みたいが手に入らないので、太宰の所に行けば酒が飲めると踏んだのだ。この終戦後のモノ不足のなかでも、酒類はとりわけ手に入らず、酒好きオヤジがメチルアルコールを飲んで失明することがよくあった。実際、太宰は押し入れの中にウイスキーの角瓶を数本隠していた。
 よせばいいのに、外面が良いい太宰は、湯のみ茶碗にウイスキーをついで相手に渡す。相手は「かかはいないか。お酌をさせろよ」と要求する。どこまで増長するんだよ!こいつは!!
 で、太宰は、押し問答の末、女房を連れてきてお酌をさせるのだ。
 相手は、それから奥さんに自分の自慢話を喋りまくって一人で大いに盛り上がる。ここら辺のところ、よく分かるなぁ。私も酔っ払った父親の戯言には、ほとほとうんざりしたからなぁ。酔っ払いって、どうしてあんなに何度も同じ話を繰り返すんだろうね。

 そして最後、去り際に相手は太宰の耳元でこう囁いた。「威張るな!」

 いやぁ、本当にすごい人だね。でも、相手は酔いがさめるとキレイに自分の傍若無人ぶりを忘れてしまうか、都合のいい思い出にすり替えてしまうんだよね。
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