今回は少し固い内容を書かせて頂きます。
人が心身共に健康で情緒豊かに育つためには、
幼少期の親子間(特に母親)での暖かな交流が重要と考えられています。
親子間の暖かな交流とは、何も特別なことではありません。
母親から母乳やミルクを与えられ
愛情のこもった語りかけ、触れあい、抱っこしたりすることで
親子間に喜びや安心、そして、深く暖かな結びつきが生まれます。
ハーリー・ハーローと言う学者がアカゲザルの赤ん坊を
母ザルから離して代理母で育てる実験を行いました。
【実験2】
一体の代理母は、針金で作られたものに哺乳瓶が取り付けられ、
もう一体の代理母は、針金が柔らかい布で覆われ
ヒーターで体温と同じ温度に保たれている代理母が用意されました。
実験前には、幼いアカゲザルは栄養を与えてくれる方に
愛着を示すと考えられていましたが、
愛着を示したのは、柔らかな布で覆われ暖かみを感じる方でした。
お腹が減るとミルクを飲むために針金の代理母に近づきますが、
飲み終わると直ぐに柔らかで暖かみを感じられる代理母の方に戻り
多くの時間を暖かみを感じられる代理母の方で過ごしました。
【実験3】
そして、恐ろしい人形を飼育スペースに入れて
怖がらせた時にどのような行動を取るか調べてみたところ
恐ろしい人形が現れると柔らかで暖かみを感じられる代理母の方に
一目散に飛びつきしがみ付きました。
この実験結果からハーローは、幼いアカゲザルにとって
栄養を与えれば良いわけではなく暖かなスキンシップによる交流が
無くてはならないものだと考えました。
【実験4】
次にハーローは、針金の代理母と玩具を入れたスペースに
幼いアカゲザルを入れてみたところ、幼いアカゲザルは、
不安の様子を見せて玩具に混じって置かれている布に
しがみ付くだけで玩具には興味を示しません。
ところが、暖かみを感じる代理母が用意されていると
同じように不安の様子を見せた幼いアカゲザルは
直ぐに代理母にしがみ付きますが、しばらくすると代理母から離れて
初めて観る玩具に興味を示し遊び始め、
そして代理母にしがみ付き、また遊び始めます。
初めて見る玩具、環境への不安や恐怖を
安心出来る基地があることで気持ちにゆとりが生まれ、
その分だけ玩具への好奇心が生まれ遊ぶようになったと思われます。
【実験1】
最初の実験では、作り物の代理母で飼育されたアカゲザルは、
生きるために重要な好奇心が育たず短命でしたが、
【実験2~4】によって
暖かみを感じられる代理母で育ったアカゲザルは、
短命でもなく好奇心も育つことが確認されました。
【実験5】
暖かみのある代理母によって成長したアカゲザルを
群れに入れてみると思わぬ問題が発生します。
他の猿への攻撃性が強かったり、
ストレスから自分の指や腕を噛み千切ってしまう猿が多く、
中には子供を産んだ猿もいましたが、
自分の子供を踏みつけたり噛みついたりして
普通に育った猿のように子供を育てることが出来ません。
【実験6】
そこで普通に育った猿との違いを調べ、
生育の過程に普通に育った年齢の猿との遊びを取り入れてみた所、
時折喧嘩をしながらも次第に群れの中で
仲良く過ごせるようになったそうです。
このハーローの実験は、あくまでもアカゲザルが情緒豊かに育ち、
集団の中で求め求められ群れの仲間として溶け込めるために
どのような成育過程が重要なのかを実験したものです。
人間の場合、アカゲザルよりも遥かに知能、思考力、創造力が高く、
栄養を与え、暖かみのある接触をしさせすれば心が安定して
将来において心の問題や悩みで苦しむことがないとは限りません。
しかし、将来において何かが起きた時に
容易く心がひしゃげてしまわないタフさと柔軟さを
我が子が備えるための重要なことが何かを
ハーローの実験から学べるのではないでしょうか。
Harlow's Studies on Dependency in Monkeys