昨年の夏頃から、新薬企業であるノバルティスファーマが、治験を担当する医師(多くは大学教授)に研究費などをサポートしながら、都合の良いデータに改ざんしていた、と言うニュースが度々報道されている。
今日、ノバルティスファーマが出している「慢性骨髄性白血病」の治療薬「グリベック」に関する副作用などの報告を怠っていた、と言う報道があった。
朝日新聞:ノバルティス、重い副作用2579件報告せず 死亡例も
この「グリベック」という治療薬は、がんの治療薬の中でも比較的新しい考えの基で作られた「薬」で、「分子標的薬(または「抗体薬」)」と呼ばれている(ちなみに、肺がんの治療薬「イレッサ」も分子標的薬である)。
「ある特定の抗体を狙い撃ちすることで、がんの成長を抑制する」ことができる、と言うタイプの薬だ。
がんそのものの成長が抑制されることで、「がん=死ぬ病気」から「がん=慢性疾病」と言われる様になった、切っ掛けを作った薬でもある。
何より「グリベック」が登場したことで、「慢性骨髄性白血病」で亡くなる患者さんが減った。
この「グリベック」が承認されたのが2001年。それから10年以上経過して初めてこの様な「副作用」が報告された、と言うことになる。
新薬というのは、とても厳しい「治験」を経てから承認される。
例え承認された後に「重篤な副作用」が判れば、その時点で「治験」の見直しがされるはずだ。
にも関わらず、今回は「重篤な副作用」について、報告をしなかったために起きたと言うことになる。
ここで考えるのは「ノバルティスにとって、顧客は誰だったのか?」という点だ。
違う言い方をするなら、「誰に一番利益を与える必要があったのか?」という視点が、あったのか?と言う疑問なのだ。
「薬などの医療とクルマや家電、一般小売などと一緒にはできない」と思われるかも知れない、が、視点を変えると、薬や医療機器メーカーのビジネスは「B to B」のビジネスだというコトがわかるはずだ。
医薬品、医療機器メーカーからすれば、それらの商品を直接購入するのは、病院であったり薬局というコトになる。
しかし、実際にはそれらの医薬品によって利益を得るのは、患者なはずだ。
医療機器に関しても、それらの機器を使う検査を受けるのは、患者であったり健康診断の受診者だ。
そう考えると、今回のノバルティスファーマの事件は、「B to B 」までしか考えず、本当のユーザーである患者のことは眼中にはなかった、と言うことだと思う。
「重篤な副作用」が起きて一番ダメージを受けるのは、処方をした医師では無く患者だ。
製薬企業のMRと呼ばれる営業担当者は、「自分の顧客は医師である」と決めつけていたために、本当の顧客である患者を見過ごした、と言う見方もできる。
マーケティングの勉強会などで時折言われる、「B to Bの顧客は誰か?」という視点は、実はわかり難い。
「クルマの部品メーカーの顧客は、クルマを製造するメーカー」同じ発想だったのが、今回のノバルティスだ。
実際には、それらの部品を組み立てて作られたクルマを利用するユーザーが、顧客であるべきなのだ。
すなわち「B to B」の先にある「C」の存在を、一番知るコトが重要なのだ。
「B to B」のビジネスだからこそ「顧客は誰なのか?その顧客利益とはなにか?」というコトをしっかり考える必要がある、と言うことをノバルティスの事件は教えているように思う。