この1年のエントリをいくつか読み返して、自分の文章の冗長さに嫌気がさした。「~だった」を「~だと思ったのだった」とか、「~と思う」を「~のように思うのである」とか、やたらと文章を長くしている。バカじゃないのか。こんなヘタクソな文章を全世界にさらしていたのかと、自己嫌悪に陥った。穴があったら入りたい気分である。
とにかく私の文章力は、将棋でいえばアマ1級程度ということがハッキリした。まだまだ文章修業が足りないと痛感した次第。
しかしそんな中にも、気に入ったエントリがいくつかあった。今日は平成21年度エントリの中から、自選ベスト5を記してみたい。
第1位 9月13日「金曜サロン・船戸陽子女流二段⑥+A氏の奥さん」
昨年7月に、将棋ペンクラブ幹事のA氏夫妻、H氏と飲みに行った。その際、「みんなで金曜サロンに行きましょう」という話になり、A氏夫妻が初めて金曜サロンを訪れたのが、昨年の8月21日だった。
この日の担当は大庭美樹女流初段と船戸陽子女流二段。船戸女流二段のいでたちはピンクのチャイナドレス風ワンピースで、私は完全に悩殺された。ちょうど石垣島から帰京した週の金曜サロンで、まだ南国にいるのではと錯覚したことを思い出す。
A氏の奥さんは両女流に指導対局を受けたが、船戸女流二段のときは奥さんが私の対面にいた。緊張のあまり、恐ろしい形相で指していた。
私は船戸女流二段(の服装)と奥さんを交互に見ながら将棋を指すという目まぐるしさで、その際の描写が、気持ち悪いぐらい粘着的に描かれている。船戸女流二段には、不快な思いをさせてしまった。ここであらためてお詫びしたい。
A氏の奥さんはあの緊張感がよほど堪えたのか、それから一度も姿を見せていない。奥さんがサロンに行くことはもうないと思うが、また将棋界の話題を肴に、酒を酌み交わしてみたいものである。
(このエントリのみ、文末に再掲してあります)
第2位 6月29日「LADIES HOLLY CUP・熊倉紫野女流初段VS山口恵梨子女流1級」
このころ私は、金曜朝は女流棋士会の「スーパーサロン」にお邪魔していた。指導対局のあと、引き続き道場で将棋を指していると、午後2時少し前に、道場の後方で若い女性が将棋を指し始めた。それがLADIES HOLLY CUPの公開対局で、熊倉女流初段と山口女流1級(当時)との一戦だった。山口女流1級のファンだった私には思わぬプレゼントで、このあたりまでが前日(6月28日)の記述。
29日はその観戦記。というか観察記。そのとき私はおっちゃんと対局中で、女流棋士おふたりが気になって仕方がなかった。これはエントリ第1位の、船戸女流二段と奥さんを交互に見る展開と似ている。
その後こちらの将棋も終わり、女流棋士の将棋の観戦に専念するのだが、私は将棋そっちのけで、対局者のふたりばかりを観察する。このあたりの描写は微に入り細に入り、その変質者的行動は、我ながら気味が悪い。
この何週かあと、金曜日に再び山口女流1級の対局を観戦できるチャンスがあったが、LPSA金曜サロンで、藤田麻衣子女流1級(当時)との指導対局を優先させた。もしあのとき山口女流1級の対局を再び観戦していたら、私はどんな行動に出たか想像もつかない。冷静に金曜サロンへ向かったのは正着だったと思う。
第3位 6月15日「村山聖九段からの挑戦状」
6月15日は、故・村山聖九段の生誕日。私はヒトからエントリのテーマのリクエストは受けないのだが、金曜サロン常連氏から「6月15日は村山九段の誕生日だから、何か書いてよ」とリクエストされ、書きあげた1本。
村山九段が入院中、うわ言で「2七銀」とつぶやいた話は有名である。本文では、それにまつわる手について、私はある提案をする。
第4位 8月10日「龍王」
私は夏に八重山諸島を旅行するのが定番になっているが、昨年は台風が襲来し、八重山入りが3日も遅れてしまった。8月9日朝の飛行機でやっと石垣島に着いたのだが、その日も台風の余波で、離島行きの高速船は全便欠航となっていた。
そこで港近くの「あやぱにモール」をぶらぶらしていたら、「子供将棋大会」のチラシを見つけた。それがこの日だったため、私はふらふらと将棋大会会場へ向かう。するとそこには、高田尚平六段がいたのだった…。
第5位 7月16日・17日「マイナビ女子オープン予選抽選会に行く」「マイナビ女子オープン第3局と、その周辺」
マイナビ女子オープンを主催する毎日コミュニケーションズは、毎回斬新な企画をする。一般将棋ファンが予選対局の組み合わせを行う、というのもそうで、これは史上初の試みであった。
私も野次馬がてら見に行ったが、余裕で抽選に参加できると思いきや、平日にもかかわらずけっこうギリギリで、女流棋士の人気の高さを実感した。16日のアップ分では、山口恵梨子女流1級と奇跡の対面を果たすところで(つづく)となっている。私は女流棋士会会員ではないので、つづきはもちろん翌日にアップした。
17日分では、そこへ思わぬ邪魔が入る。その邪魔した女性を私はオバチャン呼ばわりし、あとで別の女流棋士から大目玉を喰らった。女流棋士を怒らせると恐い。
なおこのエントリでは、「私がサイン色紙を欲しい女流棋士」の名前を、欲しい順に書いている。これが1ヶ月後に発表する「女性ファンランキング」の原型になった。
今年度はもう少し文章の腕を磨いて、1年後にどのエントリを選ぶか迷うくらい、マシなものを書いてみたいと思っている。
平成21年度ベストエントリ
「金曜サロン・船戸陽子女流二段⑥+A氏の奥さん」
8月21日のLPSA金曜サロン、夕方の部は船戸陽子女流二段の担当だった。以前記したとおり、この日の船戸女流二段のいでたちは、チャイナドレス風のピンクのワンピースだった。R氏のブログによると、髪留めの花の髪飾りや耳のピアスもピンクで統一されていたとのこと。さらに画像をよく見ると、腕時計のベルトもピンクであった。
またこれも以前記したことだが、私は自身の服装には無頓着だ。だから女流棋士にもそれは求めない。しかしそれなりに気合を入れてくる女流棋士がいれば、私は喜んで観賞させていただく。それがエチケットでもあると思うからだ。今回の船戸女流二段は、昼の用事でその服装をする必要があったのかもしれないが、ピンク一色の衣装はすこぶる艶やかで、目を奪われっぱなしだった。
船戸女流二段は、例によって6面指し。私は凹字型に設置されたテーブルの、左奥に座った。
指導対局開始。私はこの5日前に石垣島から帰京したが、船戸女流二段のチャイナドレス(と言い切ってしまおう)がアジアンテイストなので、まだ八重山諸島にいるような錯覚を覚えた。
この日は扇子サイン勝負であった。過去のサイン勝負2回は私が陽動三間飛車を採り、船戸女流二段得意の居飛車穴熊を封じたのが功を奏して、いずれも幸いしている。通常対局の相居飛車戦は3局あるが、いずれも完敗。船戸女流二段の猛烈な攻めにこちらが一方的に潰されてた形だ。
今回はノーマルな三間飛車で、船戸女流二段に挑むことにした。
船戸女流二段の指し手はいつものように早い。1手指し、サッとその場を去るが、つい船戸女流二段の容姿を追っかけてしまう。そのうしろ姿は、カラダの線が何というかこう、腰のあたりでキュッと…あっ……私の対面(右奥)で指していた、将棋ペンクラブ幹事・A氏の奥さんが、私の視界に入ってきた。
奥さんは、金曜サロンはもちろん、将棋道場は初体験だった。先日居酒屋でご一緒したのだが、そのときとは一変して、真剣な表情である。
そうだった…と思う。私は将棋の鍛錬に来ているのだ。船戸女流二段を観賞している場合ではない。奥さんを見習わなければならない。
私は反省して、局面を考える。上手の作戦はやはり穴熊だった。船戸女流二段が戻り、ビシッと指す。その腕が白い。またもや、船戸女流二段を追いかけてしまう。
コカコーラの190ml瓶は、女性のカラダの線を模したものだと聞いたことがあるが、きょうの船戸女流二段はまさに……うわっ! 奥さんがまたも視界に入ってくる。その表情は真剣というより深刻だ。局面を窺うと、下手の飛車がしっかり成り込んでいるようである。教わった定跡どおり指して優勢なのに、なぜにそんな暗い表情なのか。もっと気楽に指せばいいのにと思う。
しかし私も奥さんに「あなたもちゃんと指しなさい!」と諭されているような気がして、また視線を盤面に戻す。
船戸女流二段がビシッと指す。やっぱりその服装に目がいってしまう。指導対局の多面指しは、上手に考慮時間がないのが下手にいいハンデになっているのだが、今回は例外である。なぜなら私も自分が指したあとは、さして局面を考えず船戸女流二段を観賞しているからだ。
あらためて書くが、ノースリーブのチャイナドレスである。衣服は膝上までだが、わずかながら側面にはスリットが入っている。
もし足首まで衣服があり、そこからズズズズーッとスリットが入っていると、よけいセクシーなのにな、と思う。そのほうが脚の露出度は低いのだが、男の心理は不思議なもので、そちらのほうがそそられるのだ。しかしこれも何とも…ウワワッ!! お、奥さん、なんでそんな表情をしてるんだ! コチコチにしゃちほこばって、いまにも泣き出しそうではないか!
盤面は、飛車に続いて角も成り込んで、勝勢に近い。船戸女流二段は初心者講習に定評がある。下手がふつうに指せばうまく負けてくれるはずだが、奥さんは息をするのも忘れているかのようだ。なんだか萎えてしまう。勘弁してほしい。
船戸女流二段が戻ってきて、1手指す。そっと見上げてみる。船戸女流二段の視線は鋭い。なんだか女王様に責められているようだ。この感じ、嫌いではない。そうか、相居飛車戦では、攻め合ってしまうからいけないのだ。船戸女流二段の責めを有難く味わう、このくらいの気構えのほうがいいのかもしれない。
また船戸女流二段が半周する。このプロポーション、コーラの瓶というか、ボウリングのピンというか…。しかしここまで来ると、A氏の奥さんが気になってしようがない。
こっそり視線を注ぐと、ついに、この世の終わりのような顔になっていた。完全に固まってしまっている。別にイノチを取られるわけでなし、そんなにマイナスのオーラを発しなくてもいいではないか。
やっぱりサロンに誘ったのはムリだったのかな、と反省しつつ、自分の将棋を見てみる。すると意外なことに、船戸女流二段の責めが息切れしているように思えた。自分の中でムラムラしていたものが、A氏の奥さんの必死の形相で鎮まってしまい、攻め合わないで冷静に受けたことが、結果的に功を奏したようだ。
最後は☖3一飛に☗3二金と打って、船戸女流二段の投了となった。
「あれえ? おかしいなあ。一公さんにはこのところ勝率が良かったはずなのに。悔しい~!」
まあ指導対局なんだから、下手に星を譲ってもいいではないか。
今回は、チャイナドレスの船戸先生からサインをいただきたいという私の執念と、A氏の奥さんの真摯な対局姿勢に胸を打たれて、幸いした。奥さんには感謝の一語である。また時間に余裕ができたら、奥さんの棋力向上に非協力的なご主人と一緒に、駒込サロンに遊びに行ってほしいと思う。
そして何といっても今回は、船戸女流二段の衣装とサービス精神に、あらためて感謝する次第であった。
とにかく私の文章力は、将棋でいえばアマ1級程度ということがハッキリした。まだまだ文章修業が足りないと痛感した次第。
しかしそんな中にも、気に入ったエントリがいくつかあった。今日は平成21年度エントリの中から、自選ベスト5を記してみたい。
第1位 9月13日「金曜サロン・船戸陽子女流二段⑥+A氏の奥さん」
昨年7月に、将棋ペンクラブ幹事のA氏夫妻、H氏と飲みに行った。その際、「みんなで金曜サロンに行きましょう」という話になり、A氏夫妻が初めて金曜サロンを訪れたのが、昨年の8月21日だった。
この日の担当は大庭美樹女流初段と船戸陽子女流二段。船戸女流二段のいでたちはピンクのチャイナドレス風ワンピースで、私は完全に悩殺された。ちょうど石垣島から帰京した週の金曜サロンで、まだ南国にいるのではと錯覚したことを思い出す。
A氏の奥さんは両女流に指導対局を受けたが、船戸女流二段のときは奥さんが私の対面にいた。緊張のあまり、恐ろしい形相で指していた。
私は船戸女流二段(の服装)と奥さんを交互に見ながら将棋を指すという目まぐるしさで、その際の描写が、気持ち悪いぐらい粘着的に描かれている。船戸女流二段には、不快な思いをさせてしまった。ここであらためてお詫びしたい。
A氏の奥さんはあの緊張感がよほど堪えたのか、それから一度も姿を見せていない。奥さんがサロンに行くことはもうないと思うが、また将棋界の話題を肴に、酒を酌み交わしてみたいものである。
(このエントリのみ、文末に再掲してあります)
第2位 6月29日「LADIES HOLLY CUP・熊倉紫野女流初段VS山口恵梨子女流1級」
このころ私は、金曜朝は女流棋士会の「スーパーサロン」にお邪魔していた。指導対局のあと、引き続き道場で将棋を指していると、午後2時少し前に、道場の後方で若い女性が将棋を指し始めた。それがLADIES HOLLY CUPの公開対局で、熊倉女流初段と山口女流1級(当時)との一戦だった。山口女流1級のファンだった私には思わぬプレゼントで、このあたりまでが前日(6月28日)の記述。
29日はその観戦記。というか観察記。そのとき私はおっちゃんと対局中で、女流棋士おふたりが気になって仕方がなかった。これはエントリ第1位の、船戸女流二段と奥さんを交互に見る展開と似ている。
その後こちらの将棋も終わり、女流棋士の将棋の観戦に専念するのだが、私は将棋そっちのけで、対局者のふたりばかりを観察する。このあたりの描写は微に入り細に入り、その変質者的行動は、我ながら気味が悪い。
この何週かあと、金曜日に再び山口女流1級の対局を観戦できるチャンスがあったが、LPSA金曜サロンで、藤田麻衣子女流1級(当時)との指導対局を優先させた。もしあのとき山口女流1級の対局を再び観戦していたら、私はどんな行動に出たか想像もつかない。冷静に金曜サロンへ向かったのは正着だったと思う。
第3位 6月15日「村山聖九段からの挑戦状」
6月15日は、故・村山聖九段の生誕日。私はヒトからエントリのテーマのリクエストは受けないのだが、金曜サロン常連氏から「6月15日は村山九段の誕生日だから、何か書いてよ」とリクエストされ、書きあげた1本。
村山九段が入院中、うわ言で「2七銀」とつぶやいた話は有名である。本文では、それにまつわる手について、私はある提案をする。
第4位 8月10日「龍王」
私は夏に八重山諸島を旅行するのが定番になっているが、昨年は台風が襲来し、八重山入りが3日も遅れてしまった。8月9日朝の飛行機でやっと石垣島に着いたのだが、その日も台風の余波で、離島行きの高速船は全便欠航となっていた。
そこで港近くの「あやぱにモール」をぶらぶらしていたら、「子供将棋大会」のチラシを見つけた。それがこの日だったため、私はふらふらと将棋大会会場へ向かう。するとそこには、高田尚平六段がいたのだった…。
第5位 7月16日・17日「マイナビ女子オープン予選抽選会に行く」「マイナビ女子オープン第3局と、その周辺」
マイナビ女子オープンを主催する毎日コミュニケーションズは、毎回斬新な企画をする。一般将棋ファンが予選対局の組み合わせを行う、というのもそうで、これは史上初の試みであった。
私も野次馬がてら見に行ったが、余裕で抽選に参加できると思いきや、平日にもかかわらずけっこうギリギリで、女流棋士の人気の高さを実感した。16日のアップ分では、山口恵梨子女流1級と奇跡の対面を果たすところで(つづく)となっている。私は女流棋士会会員ではないので、つづきはもちろん翌日にアップした。
17日分では、そこへ思わぬ邪魔が入る。その邪魔した女性を私はオバチャン呼ばわりし、あとで別の女流棋士から大目玉を喰らった。女流棋士を怒らせると恐い。
なおこのエントリでは、「私がサイン色紙を欲しい女流棋士」の名前を、欲しい順に書いている。これが1ヶ月後に発表する「女性ファンランキング」の原型になった。
今年度はもう少し文章の腕を磨いて、1年後にどのエントリを選ぶか迷うくらい、マシなものを書いてみたいと思っている。
平成21年度ベストエントリ
「金曜サロン・船戸陽子女流二段⑥+A氏の奥さん」
8月21日のLPSA金曜サロン、夕方の部は船戸陽子女流二段の担当だった。以前記したとおり、この日の船戸女流二段のいでたちは、チャイナドレス風のピンクのワンピースだった。R氏のブログによると、髪留めの花の髪飾りや耳のピアスもピンクで統一されていたとのこと。さらに画像をよく見ると、腕時計のベルトもピンクであった。
またこれも以前記したことだが、私は自身の服装には無頓着だ。だから女流棋士にもそれは求めない。しかしそれなりに気合を入れてくる女流棋士がいれば、私は喜んで観賞させていただく。それがエチケットでもあると思うからだ。今回の船戸女流二段は、昼の用事でその服装をする必要があったのかもしれないが、ピンク一色の衣装はすこぶる艶やかで、目を奪われっぱなしだった。
船戸女流二段は、例によって6面指し。私は凹字型に設置されたテーブルの、左奥に座った。
指導対局開始。私はこの5日前に石垣島から帰京したが、船戸女流二段のチャイナドレス(と言い切ってしまおう)がアジアンテイストなので、まだ八重山諸島にいるような錯覚を覚えた。
この日は扇子サイン勝負であった。過去のサイン勝負2回は私が陽動三間飛車を採り、船戸女流二段得意の居飛車穴熊を封じたのが功を奏して、いずれも幸いしている。通常対局の相居飛車戦は3局あるが、いずれも完敗。船戸女流二段の猛烈な攻めにこちらが一方的に潰されてた形だ。
今回はノーマルな三間飛車で、船戸女流二段に挑むことにした。
船戸女流二段の指し手はいつものように早い。1手指し、サッとその場を去るが、つい船戸女流二段の容姿を追っかけてしまう。そのうしろ姿は、カラダの線が何というかこう、腰のあたりでキュッと…あっ……私の対面(右奥)で指していた、将棋ペンクラブ幹事・A氏の奥さんが、私の視界に入ってきた。
奥さんは、金曜サロンはもちろん、将棋道場は初体験だった。先日居酒屋でご一緒したのだが、そのときとは一変して、真剣な表情である。
そうだった…と思う。私は将棋の鍛錬に来ているのだ。船戸女流二段を観賞している場合ではない。奥さんを見習わなければならない。
私は反省して、局面を考える。上手の作戦はやはり穴熊だった。船戸女流二段が戻り、ビシッと指す。その腕が白い。またもや、船戸女流二段を追いかけてしまう。
コカコーラの190ml瓶は、女性のカラダの線を模したものだと聞いたことがあるが、きょうの船戸女流二段はまさに……うわっ! 奥さんがまたも視界に入ってくる。その表情は真剣というより深刻だ。局面を窺うと、下手の飛車がしっかり成り込んでいるようである。教わった定跡どおり指して優勢なのに、なぜにそんな暗い表情なのか。もっと気楽に指せばいいのにと思う。
しかし私も奥さんに「あなたもちゃんと指しなさい!」と諭されているような気がして、また視線を盤面に戻す。
船戸女流二段がビシッと指す。やっぱりその服装に目がいってしまう。指導対局の多面指しは、上手に考慮時間がないのが下手にいいハンデになっているのだが、今回は例外である。なぜなら私も自分が指したあとは、さして局面を考えず船戸女流二段を観賞しているからだ。
あらためて書くが、ノースリーブのチャイナドレスである。衣服は膝上までだが、わずかながら側面にはスリットが入っている。
もし足首まで衣服があり、そこからズズズズーッとスリットが入っていると、よけいセクシーなのにな、と思う。そのほうが脚の露出度は低いのだが、男の心理は不思議なもので、そちらのほうがそそられるのだ。しかしこれも何とも…ウワワッ!! お、奥さん、なんでそんな表情をしてるんだ! コチコチにしゃちほこばって、いまにも泣き出しそうではないか!
盤面は、飛車に続いて角も成り込んで、勝勢に近い。船戸女流二段は初心者講習に定評がある。下手がふつうに指せばうまく負けてくれるはずだが、奥さんは息をするのも忘れているかのようだ。なんだか萎えてしまう。勘弁してほしい。
船戸女流二段が戻ってきて、1手指す。そっと見上げてみる。船戸女流二段の視線は鋭い。なんだか女王様に責められているようだ。この感じ、嫌いではない。そうか、相居飛車戦では、攻め合ってしまうからいけないのだ。船戸女流二段の責めを有難く味わう、このくらいの気構えのほうがいいのかもしれない。
また船戸女流二段が半周する。このプロポーション、コーラの瓶というか、ボウリングのピンというか…。しかしここまで来ると、A氏の奥さんが気になってしようがない。
こっそり視線を注ぐと、ついに、この世の終わりのような顔になっていた。完全に固まってしまっている。別にイノチを取られるわけでなし、そんなにマイナスのオーラを発しなくてもいいではないか。
やっぱりサロンに誘ったのはムリだったのかな、と反省しつつ、自分の将棋を見てみる。すると意外なことに、船戸女流二段の責めが息切れしているように思えた。自分の中でムラムラしていたものが、A氏の奥さんの必死の形相で鎮まってしまい、攻め合わないで冷静に受けたことが、結果的に功を奏したようだ。
最後は☖3一飛に☗3二金と打って、船戸女流二段の投了となった。
「あれえ? おかしいなあ。一公さんにはこのところ勝率が良かったはずなのに。悔しい~!」
まあ指導対局なんだから、下手に星を譲ってもいいではないか。
今回は、チャイナドレスの船戸先生からサインをいただきたいという私の執念と、A氏の奥さんの真摯な対局姿勢に胸を打たれて、幸いした。奥さんには感謝の一語である。また時間に余裕ができたら、奥さんの棋力向上に非協力的なご主人と一緒に、駒込サロンに遊びに行ってほしいと思う。
そして何といっても今回は、船戸女流二段の衣装とサービス精神に、あらためて感謝する次第であった。