以下の局面は、きのう9日のLPSA金曜サロンでの、サロン一の強豪・O氏との終盤である。ここではどちらが勝ちか、お考えいただこう。手合い係の植山悦行七段が、これはブログに掲載する価値がある、とまで言った名場面である。
先手・一公:1六歩、1七玉、1九香、2二銀、2七歩、2九桂、3二竜、3六歩、4二と、5五桂、5七歩、6八香、7五歩、8六歩、9六歩、9九香 持駒:金、桂、歩
後手・O氏:1二香、1四歩、2一桂、2三歩、2四王、3三銀、3四歩、3七馬、3八金、5三歩、5八成銀、6五金、8四角、8九と、9四歩 持駒:飛、金、銀、歩3
(☗2二銀☖2四王まで。先手番です)
9日はLPSA金曜サロンである。一応仕事は戻ってきているのだが、金曜は将棋を指しに行くことをオヤジも理解してくれ、早退けを黙認してくれている。将棋は日本の文化である。大手を振って、金曜サロンに行っていいのだ。ありがたいことだと思う。
常駐棋士は、大庭美樹女流初段と松尾香織女流初段。先月に引き続き、イケル口のコンビである。
この日も室内は閑散としている。金曜サロン初期の常連である、M氏、T氏の姿がないのがさびしい。また金曜サロンの顔ともいえるW氏が、まさかの仕事で休み。準レギュラーの面々もほとんど休みで、静かだった。
最初にリーグ戦を指した後、大庭女流初段に指導対局をいただく。将棋の恐さを教えられたあと、また1局リーグ戦を指す。
それが終わると、大盤解説の時間となった。教材は先日指された倉敷藤花戦、古河彩子二段と松尾女流初段の一戦。松尾女流初段には「マッカラン」の懸かった、皮切りの1局だ。
将棋は先番・松尾女流初段の誘導で相矢倉となった。しかし古河女流二段の巧妙な構想で、松尾女流初段が非勢に陥る。私が対局者で体調が悪かったら、投げているかもしれない。このとき松尾女流初段は、なぜか私のことを思い出していたらしい。きっと私が松尾女流初段の脳裏に現われ、ニヤケながら
「マッカランはいらないの?」
とでも言ったのだろう。
ここから松尾女流初段が踏ん張る。☗5五歩と戦線を拡大し、容易に決め手を与えない。とはいえ最後まで分が悪かったが、最終盤、古河女流二段が相手に駒を渡してから受けに回ったのがまずく、松尾女流初段が古河玉を即詰みに討ち取った。お見事。
松尾女流初段の次の相手は、現在絶好調の甲斐智美女流二段である。強敵だが、絶対に勝ってほしい。もし勝ったら、ベスト16だが「マッカラン」を進呈しよう。ただしこの位置では、12年物とする。
…と書くと、中倉宏美女流二段が
「私は清水さんと当たるのに…松尾さんだけなんだ…」
とか言いそうである。ま、まあいい。中倉女流二段にも、次勝ったら「マッカラン10年」を進呈しよう。
…と書くと、中倉彰子女流初段が
「ひろみだけなんですねー。私はどうですかー?」
とか言いそうである。わ、分かった。中倉女流初段も、次の上田初美女流二段に勝ったら、何か見つくろってプレゼントしよう。
…と書くと、船戸陽子女流二段が
「みんないいなー。私は…」
とか言いそうである。ふ、船戸先生はニッカウヰスキーがあるでしょう? ここは我慢してください。
うん…? なんで私は挑戦権獲得が条件なの!? と言う中井広恵女流六段と石橋幸緒女流四段の声が聞こえたような気がする。空耳だ。あのふたりの声は無視しておく。
大盤解説会のあとは、再びリーグ戦。サロン一の強豪・O氏とだ。
O氏との対戦成績は3勝9敗。初めての対局は昨年のバレンタイントーナメントの準決勝で、このときはO氏の強さを知らなかったのが功を奏し、幸いすることができた。このトーナメント戦は準優勝まで、担当女流棋士の寄せ書き色紙がいただける特典があった。私の昇段の決め手になった将棋でもあり、この勝利は10勝分の価値がある。よって私は、対O戦12勝9敗と思うようにしている。
将棋は私の角交換四間飛車。角銀交換から6筋に飛車が飛び出したが、☖4五歩のスジもあり、思ったほど良くならなかった。しかしどこかで逆転していたようで、最終盤ではこちらの勝ちになっていた。ここでその局面を示す。
先手・一公:1六歩、1九香、2七歩、2九桂、3二金、3六歩、3七銀、3八金、4二と、5五桂、5七歩、6八香、7五歩、8六歩、9六歩、9九香 持駒:飛、銀、桂、歩
後手・O氏:1一王、1二香、1四歩、2一桂、2二銀、2三歩、3三銀、3四歩、4八金、5三歩、5八成銀、5九角、6五金、8四角、9四歩 持駒:飛、歩3
この直前、☗4二歩成を☖同銀と取られていたらこちらが容易でなかった。本譜は☖4八金と張りついたので、☗3二金と詰めろ(☗2一金~☗3二銀~☗2一飛以下)をかけたところである。
ここでO氏は☖3八金☗1七玉を見たあと、「一応受けとこう」と☖2二金と打った。私の☗1七玉では☗3八同玉もあったが、☖4七金☗同玉☖4八飛、あるいは☖3七角成からの殺到が見え、指し切れなかった。とはいえここでは私の勝勢。
しかし残り少ない時間を割き、☗3一飛と打ったのが大疑問手。ここは横で見ていた植山七段の指摘どおり、☗3一銀と打って、後手王は受けなしだった。次の☗2二銀成~☗2一金~☗3二金~☗2一飛。または☗2二金☖同銀☗同銀成☖同王☗3二飛☖1三王☗2二銀☖2四王☗3五金☖同歩☗同飛成までの詰めろが受からない。
だからそう指せばよかったのだが、この手がまったく見えなかった。考えてみればふつうの手だ。いつも私は金曜サロン常連W氏の終盤の弱さをケラケラ笑っているのだが、これでは私も同類だ。時間がなかったとはいえ、このくらいは「形」で指さないといけない。
☗3一飛は詰めろっぽいと思って指したのだが、読みが足りなかった。当然後手に☖3七角成と指され、あらためて上手王が詰まないことに気づき、愕然とした。以下☗2二金☖同王☗3二飛成☖1三王☗2二銀☖2四王、と進む(注:O氏から、☖1三王では☖1一王だった、との指摘をいただいた。言われてみればたしかにそうで、これなら後手王はまったく詰まない。ということは、先の☗3一飛は疑問手を通り越し、敗着だった。将棋の終盤は厳しい)。これが冒頭の局面である。私もすでに秒読みに入っている。容赦なく減る対局時計の数字。7、6、5…。
「負けました…」
ここで私は力なく投了した。そう、冒頭の局面は私の投了図でもあったのだ。
終わりましたね…とばかり、植山七段が外へ出ていく。
ここまで強豪を追いこんでおきながら、なんてぇザマだろう。終盤の弱さに、我ながら呆れた。中盤の感想を一通り述べたあと、
「この王は詰みませんよね」
と、投了後の手順を並べてみる。
すると☖2四王以下、☗3三銀不成☖同桂☗同竜☖同王☗4三桂成☖2四王☗3三銀☖2五王☗3七桂☖3六王☗2五角☖4六王☗4七金☖5五王☗5六金☖6四王☗6五金☖7三王☗7四金☖8二王…と、かなり手が続くのだ。
途中☗3七桂では、☗2六金☖同馬☗同歩☖3六王と逃げられて不詰みと判断したのだが、この局面になれば☗3七桂と指しただろう。
☖5五王に☗5六金が、室内に戻ってきた植山七段が「いい手だねえ」と感心した一手。後手は☖5六同金と取ると、☗同歩☖同王☗4七金☖5五王☗5六歩☖5四王☗4六桂、までピッタリ詰み。
☗5六金以下、相手の金を取りつつ☗7四金まで迫る。忘れられていた☗6八香、☗7五歩が攻めに参加している。しかしここで次の手が分からない。と、O氏が☗8三金と捨てる鬼手を発見した。☖同王に☗4七角!☖7二王☗8三金☖7一王に☗3八角と取った手が、詰めろ逃れの詰めろになっているのだ。後手はずいぶん持ち駒があるが、先手玉は☖2八銀☗同玉☖3九銀に、再び☗1七玉と逃げ、ナナメに利く駒がないからわずかに詰まない。
私のチカラでは、30秒で☗8三金捨てから☗4七角は浮かばなかったと思う。しかし☗3一飛の疑問手のお陰で、創ったような変化が生じていたことに、私は小さからぬ感動を覚えたのだった。
「でも☗3一銀と打たなきゃね」
とは、放課後の植山七段の言葉であった。
こんなグロッキー状態の中で、松尾女流初段との指導対局。松尾女流初段は、今年の指導対局で私に全勝しても「マッカラン」が貰えることになっている。
なんだか妙に気合が入っていて、わずか62手で吹っ飛ばされた。松尾女流初段は、ほかの指導対局でも好調だったようだ。
このオンナに酒をチラつかせたらまずい。
「松尾先生、先生の洋服のセンス、いいですよねぇ…」
「えーっ? 一公さんからそんなこと言われるのは初めてー」
松尾女流初段は嬉しそうだ。ここで相手の闘志を鈍らせておくのがよい。次回の指導対局は、すでにもう始まっているのだ。
先手・一公:1六歩、1七玉、1九香、2二銀、2七歩、2九桂、3二竜、3六歩、4二と、5五桂、5七歩、6八香、7五歩、8六歩、9六歩、9九香 持駒:金、桂、歩
後手・O氏:1二香、1四歩、2一桂、2三歩、2四王、3三銀、3四歩、3七馬、3八金、5三歩、5八成銀、6五金、8四角、8九と、9四歩 持駒:飛、金、銀、歩3
(☗2二銀☖2四王まで。先手番です)
9日はLPSA金曜サロンである。一応仕事は戻ってきているのだが、金曜は将棋を指しに行くことをオヤジも理解してくれ、早退けを黙認してくれている。将棋は日本の文化である。大手を振って、金曜サロンに行っていいのだ。ありがたいことだと思う。
常駐棋士は、大庭美樹女流初段と松尾香織女流初段。先月に引き続き、イケル口のコンビである。
この日も室内は閑散としている。金曜サロン初期の常連である、M氏、T氏の姿がないのがさびしい。また金曜サロンの顔ともいえるW氏が、まさかの仕事で休み。準レギュラーの面々もほとんど休みで、静かだった。
最初にリーグ戦を指した後、大庭女流初段に指導対局をいただく。将棋の恐さを教えられたあと、また1局リーグ戦を指す。
それが終わると、大盤解説の時間となった。教材は先日指された倉敷藤花戦、古河彩子二段と松尾女流初段の一戦。松尾女流初段には「マッカラン」の懸かった、皮切りの1局だ。
将棋は先番・松尾女流初段の誘導で相矢倉となった。しかし古河女流二段の巧妙な構想で、松尾女流初段が非勢に陥る。私が対局者で体調が悪かったら、投げているかもしれない。このとき松尾女流初段は、なぜか私のことを思い出していたらしい。きっと私が松尾女流初段の脳裏に現われ、ニヤケながら
「マッカランはいらないの?」
とでも言ったのだろう。
ここから松尾女流初段が踏ん張る。☗5五歩と戦線を拡大し、容易に決め手を与えない。とはいえ最後まで分が悪かったが、最終盤、古河女流二段が相手に駒を渡してから受けに回ったのがまずく、松尾女流初段が古河玉を即詰みに討ち取った。お見事。
松尾女流初段の次の相手は、現在絶好調の甲斐智美女流二段である。強敵だが、絶対に勝ってほしい。もし勝ったら、ベスト16だが「マッカラン」を進呈しよう。ただしこの位置では、12年物とする。
…と書くと、中倉宏美女流二段が
「私は清水さんと当たるのに…松尾さんだけなんだ…」
とか言いそうである。ま、まあいい。中倉女流二段にも、次勝ったら「マッカラン10年」を進呈しよう。
…と書くと、中倉彰子女流初段が
「ひろみだけなんですねー。私はどうですかー?」
とか言いそうである。わ、分かった。中倉女流初段も、次の上田初美女流二段に勝ったら、何か見つくろってプレゼントしよう。
…と書くと、船戸陽子女流二段が
「みんないいなー。私は…」
とか言いそうである。ふ、船戸先生はニッカウヰスキーがあるでしょう? ここは我慢してください。
うん…? なんで私は挑戦権獲得が条件なの!? と言う中井広恵女流六段と石橋幸緒女流四段の声が聞こえたような気がする。空耳だ。あのふたりの声は無視しておく。
大盤解説会のあとは、再びリーグ戦。サロン一の強豪・O氏とだ。
O氏との対戦成績は3勝9敗。初めての対局は昨年のバレンタイントーナメントの準決勝で、このときはO氏の強さを知らなかったのが功を奏し、幸いすることができた。このトーナメント戦は準優勝まで、担当女流棋士の寄せ書き色紙がいただける特典があった。私の昇段の決め手になった将棋でもあり、この勝利は10勝分の価値がある。よって私は、対O戦12勝9敗と思うようにしている。
将棋は私の角交換四間飛車。角銀交換から6筋に飛車が飛び出したが、☖4五歩のスジもあり、思ったほど良くならなかった。しかしどこかで逆転していたようで、最終盤ではこちらの勝ちになっていた。ここでその局面を示す。
先手・一公:1六歩、1九香、2七歩、2九桂、3二金、3六歩、3七銀、3八金、4二と、5五桂、5七歩、6八香、7五歩、8六歩、9六歩、9九香 持駒:飛、銀、桂、歩
後手・O氏:1一王、1二香、1四歩、2一桂、2二銀、2三歩、3三銀、3四歩、4八金、5三歩、5八成銀、5九角、6五金、8四角、9四歩 持駒:飛、歩3
この直前、☗4二歩成を☖同銀と取られていたらこちらが容易でなかった。本譜は☖4八金と張りついたので、☗3二金と詰めろ(☗2一金~☗3二銀~☗2一飛以下)をかけたところである。
ここでO氏は☖3八金☗1七玉を見たあと、「一応受けとこう」と☖2二金と打った。私の☗1七玉では☗3八同玉もあったが、☖4七金☗同玉☖4八飛、あるいは☖3七角成からの殺到が見え、指し切れなかった。とはいえここでは私の勝勢。
しかし残り少ない時間を割き、☗3一飛と打ったのが大疑問手。ここは横で見ていた植山七段の指摘どおり、☗3一銀と打って、後手王は受けなしだった。次の☗2二銀成~☗2一金~☗3二金~☗2一飛。または☗2二金☖同銀☗同銀成☖同王☗3二飛☖1三王☗2二銀☖2四王☗3五金☖同歩☗同飛成までの詰めろが受からない。
だからそう指せばよかったのだが、この手がまったく見えなかった。考えてみればふつうの手だ。いつも私は金曜サロン常連W氏の終盤の弱さをケラケラ笑っているのだが、これでは私も同類だ。時間がなかったとはいえ、このくらいは「形」で指さないといけない。
☗3一飛は詰めろっぽいと思って指したのだが、読みが足りなかった。当然後手に☖3七角成と指され、あらためて上手王が詰まないことに気づき、愕然とした。以下☗2二金☖同王☗3二飛成☖1三王☗2二銀☖2四王、と進む(注:O氏から、☖1三王では☖1一王だった、との指摘をいただいた。言われてみればたしかにそうで、これなら後手王はまったく詰まない。ということは、先の☗3一飛は疑問手を通り越し、敗着だった。将棋の終盤は厳しい)。これが冒頭の局面である。私もすでに秒読みに入っている。容赦なく減る対局時計の数字。7、6、5…。
「負けました…」
ここで私は力なく投了した。そう、冒頭の局面は私の投了図でもあったのだ。
終わりましたね…とばかり、植山七段が外へ出ていく。
ここまで強豪を追いこんでおきながら、なんてぇザマだろう。終盤の弱さに、我ながら呆れた。中盤の感想を一通り述べたあと、
「この王は詰みませんよね」
と、投了後の手順を並べてみる。
すると☖2四王以下、☗3三銀不成☖同桂☗同竜☖同王☗4三桂成☖2四王☗3三銀☖2五王☗3七桂☖3六王☗2五角☖4六王☗4七金☖5五王☗5六金☖6四王☗6五金☖7三王☗7四金☖8二王…と、かなり手が続くのだ。
途中☗3七桂では、☗2六金☖同馬☗同歩☖3六王と逃げられて不詰みと判断したのだが、この局面になれば☗3七桂と指しただろう。
☖5五王に☗5六金が、室内に戻ってきた植山七段が「いい手だねえ」と感心した一手。後手は☖5六同金と取ると、☗同歩☖同王☗4七金☖5五王☗5六歩☖5四王☗4六桂、までピッタリ詰み。
☗5六金以下、相手の金を取りつつ☗7四金まで迫る。忘れられていた☗6八香、☗7五歩が攻めに参加している。しかしここで次の手が分からない。と、O氏が☗8三金と捨てる鬼手を発見した。☖同王に☗4七角!☖7二王☗8三金☖7一王に☗3八角と取った手が、詰めろ逃れの詰めろになっているのだ。後手はずいぶん持ち駒があるが、先手玉は☖2八銀☗同玉☖3九銀に、再び☗1七玉と逃げ、ナナメに利く駒がないからわずかに詰まない。
私のチカラでは、30秒で☗8三金捨てから☗4七角は浮かばなかったと思う。しかし☗3一飛の疑問手のお陰で、創ったような変化が生じていたことに、私は小さからぬ感動を覚えたのだった。
「でも☗3一銀と打たなきゃね」
とは、放課後の植山七段の言葉であった。
こんなグロッキー状態の中で、松尾女流初段との指導対局。松尾女流初段は、今年の指導対局で私に全勝しても「マッカラン」が貰えることになっている。
なんだか妙に気合が入っていて、わずか62手で吹っ飛ばされた。松尾女流初段は、ほかの指導対局でも好調だったようだ。
このオンナに酒をチラつかせたらまずい。
「松尾先生、先生の洋服のセンス、いいですよねぇ…」
「えーっ? 一公さんからそんなこと言われるのは初めてー」
松尾女流初段は嬉しそうだ。ここで相手の闘志を鈍らせておくのがよい。次回の指導対局は、すでにもう始まっているのだ。