一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

「第1回・将棋ランド最強戦」に参加する(中編)・歴史的一局の始まり

2010-04-20 01:49:43 | 将棋イベント
対戦相手は30代半ばと思しき男性。1回戦は熱戦だったようで、2回戦は若干遅めの対局となった。
A級(フリークラス)は、持ち時間15分、使い切ったら30秒。私が駒を振り、先手。私は先手が欲しいタイプなので、まずは幸先よい結果となった。
☗7六歩☖3四歩☗2六歩☖4四歩。
最近の後手番の作戦は、ゴキゲン中飛車が圧倒的に多い。☖4四歩からの振り飛車は絶滅状態で、今回指導にお越しの永瀬拓矢四段が愛用はしているが、孤軍奮闘の感さえある。本局も、ふつうの振り飛車にはならないだろうと思いきや、案の定後手は☖4二銀~☖6二銀と矢倉模様できた。
私は矢倉は好きではないが、仕方ない。後手は玉を左に寄せたあと、☖4三銀と立つ。ちょっと作戦が分からない。さらに☖6三銀から☖7三桂と跳ねてきた。これ、☖4三歩・☖4四銀なら米長流急戦矢倉だが、☖4四歩型では次の狙いがないと思う。
私はすでに飛車先の歩を交換し、☗4六歩と突いている。ここでは作戦勝ちだと思った。
しかし後手は構わず、☖6五歩と開戦してきた。☗同歩☖同桂☗6六銀☖6四銀に、あまり指したくはないのだが、☗9八玉と寄った。後手は騎虎の勢いで☖4五歩~☖6六角と強襲にきた。以下☖5七銀とブチ込み、一段落した局面の符号を以下に記す。

先手・一公:1六歩、1九香、2九桂、3六歩、4五歩、4七銀、5六歩、5七飛、6六金、6九金、7六歩、8六歩、8九桂、9七歩、9八玉、9九香 持駒:角、銀、桂、歩4
後手:1一香、1四歩、2一桂、2三歩、3一王、3二金、3四歩、4二金、4三銀、5二飛、5四歩、6四銀、7四歩、9一香、9三歩 持駒:角、歩

☗5七同飛と成桂を取ったところ。先手陣はバラバラだが、現実の桂得は大きく、有利と見ていた。ここで後手はほとんど時間を使い果たし、☖5五歩ときた。これに☗4四桂の攻め合いも考えたが、私は大人しく☗同歩。
しかし☖6五歩に☗5六金が、次の一手を軽視した大悪手だった。
後手は読み筋通り☖5五銀と出る。これを☗同金と取ると☖6六角があり、金が入れば先手玉はハラ金で詰む。
私は☗5二歩からの連打で先手を取ろうとしたが、☗5四歩に☖同銀と、4三の銀に働かれて、一遍に形勢を損ねてしまった。
戻って☗5六金では、じっと☗6七金と引くのだった。そこで☖5五銀なら、詳しく調べるのも不愉快だが、何かワザがかかりそうである。
以下は4六に据えた桂を3四に跳ばず、☗2二歩と打つ「大悪手」(O氏)を指し、4六の桂を只取りされたうえ、飛車まで取られてボロボロになり、無念の投了となった。
逆転負け、とまでは言わないが、後手の桂損の攻めが通るはずがなく、この将棋を負けたのは痛かった。局後は例によって放心状態。後手氏も感想戦をする気はないようで、二言三言交わしただけで、後手氏は席を立った。
私が本局を勝っても、次はA山T郎氏だから、100%勝てない。しかし1回ぐらい勝ちたかった、と思う。こういう時、女流棋士の誰かに慰めてもらいたいが、敗者は孤独である。
対局中、O氏だったと思うが、山口恵梨子女流初段が見えた、と教えてくれた。私も一応振り向いたが、姿は確認できなかった。
ここで私は席を立ち、指導対局スペースへふらふらと出向く。確かに山口女流初段の姿があった。ミルク色のワンピースに、デニムのジャケットを着ている(「デニム」という名称は、会場に来ていた美しい若奥様に聞いた)。7ヶ月ぶりに拝見する山口女流初段は相変わらず可憐である。少し大人びた気がする。それも道理で、山口女流初段は、今年高校を卒業したのだ。
そんな感慨に耽っていると、第1回目の指導対局の抽選が終わりました、とのアナウンスが入った。抽選? そうだろうなあ。無料で指導対局をしていただけるのだから、希望者が殺到したに違いない。
私は次も指導対局があることを確認し、またふらふらと食事に出た。
「松屋」で牛丼を流し込むように食べ、またまたふらふらと会場へ戻る。午後1時40分ごろだったろうか。A級はミニトーナメント(敗者戦)が始まったばかりだった。ああ、A級にはそれがあったのだ。しかしこれはエントリー制だったらしく、私はタッチの差で不参加となってしまった。なんだか知らぬが、今日は物事が後手後手に回っている感じだ。
指導対局は? 指導対局はどうなったのだろう。広瀬章人五段、永瀬四段、山口女流初段は、3面指しの指導対局の真っ最中である。
受付で確認すると、指導対局希望者の中に、いつの間にか私の名前が記されていた。O氏だろうか…誰かが気を利かしてくれたのか、代わりに申し込んでくれていたようだ。
年配の係氏が私を見て、ニッコリ笑う。どうも私のいない間に、すべての手筈が整えられていた感じだった。
指導対局は空席がいくつかできていて、山口女流初段と対局しているのは、右端のオジサンだけになっていた。そのとき、第2回目の指導対局を申し込んだ方は、こちらへお越しください、とのアナウンスがあった。
子供たちも含め、6人ほどが集まった。それぞれ指導棋士を希望できるようだ。
「広瀬先生!」
とか叫ぶ子供がいる。よいよい。広瀬先生、大いに結構である。若い係氏が私を見る。
「や、や、ヤマグチ先生をお願いします!」
私は上ずりながら山口女流初段を指名する。もちろんOKが出る。ついに…ついにこの瞬間が訪れた。ついに私は、山口女流初段に将棋を教えていただけるのだ。私は年配の係氏にコッソリ言われたとおり、真ん中の席に座る。
と、椅子に座りながらオジサンと対局していた山口女流初段が私に気づき、
「失礼しました」
と立ちあがり、駒を並べ始めた。大橋流である。私もそれに倣い、1枚1枚祈るように駒を並べる。しかし「歩」だけは、真ん中に近いところから適当に並べてしまった。
チラッと山口女流初段の顔を窺う。あれ? 真正面から拝見するのはこれが初めてだが、いままで拝見したときと、ちょっと印象が違う。違う…。
「手合いはどうしますか?」
口調が事務的である。まあ、実質これが初対面なのだから仕方ない。
「せっかくですので、平手でお願いします」
「先手と後手、どちらですか?」
「はああ? も、もちろん私が先手でお願いします」
私は一礼すると、☗7六歩、と指した。歴史的一局の、始まりだった。
(つづく)
コメント (6)
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