22日(日)の午前は所用があり、NHK杯将棋トーナメント・佐藤紳哉六段と豊島将之六段(当時)の一戦は、ビデオに録画した。
午後、大野教室に行くと、紳哉六段の話題で持ちきりである。対局前のインタビューで、紳哉六段がパフォーマンスをしたらしい。前週の予告で、紳哉六段の頭がリニューアルされていたので、私も「何か」を期待していたのだが…。
誰かがYOU TUBEを再生する。私も何気なく見たが、紳哉六段、まさに「やってくれた」。これは家でビデオを観るのが、楽しみになった。
そしてその対局を再生したのが、23日(月)の夜だった。
司会の矢内理絵子女流四段が対局者を紹介し、NHK杯恒例の、対局前インタビューが流れる。もう、ビジュアルから衝撃的だ。別人のようである。
矢内女流四段「豊島六段の印象はいかがですか?」
紳哉六段「トヨシマ? 強いよね。序盤・中盤・終盤、スキがないと思うよ。だけど、オレは負けないよ」
矢内「本局への抱負をお願いします」
紳哉「えぇ、駒が、駒たちが躍動するオレの将棋を、皆さんに見せたいです」
出た! 改めて観たが、やっぱり面白い。NHK杯で対局前に棋士インタビューを始めたのは数年前からだが、当たり障りのないコメントを残す棋士ばかりの中で、これは久々にウケたコメントだった。少し噛んで、緊張気味の紳哉六段が微笑ましかった。
これを聞いた解説の佐藤天彦六段(当時)も、
「なかなかこう、斬新な抱負でしたよね」
と感心していた。
紳哉六段はデビュー時、「歌って踊れる棋士」を目指していた。それは志半ばで頓挫したようだ。しかし昨年7月に行われたマイナビ女子オープンの一斉予選対局では、解説場にカブリモノをかぶって登場し、その一端を見せてくれた。
将棋のほうは、竜王戦は2組まで上ったが、順位戦はいまだにC級2組。棋士になって14年、まだこのクラスでくすぶっているとは思わなかったろう。
それ以上にショックなのが頭だったはずで、これは人生設計において、大きな誤算だったに違いない。しかしこればかりは神様のいたずらなので、どうしようもない。まあそれはともかく、今回はついに本業で踊る、というわけである。
紳哉六段の先手で対局開始。しかしその手つきが、若干素人っぽい。この手つき、全然記憶にないがそれもそのはずで、紳哉六段は何と11年ぶりのNHK杯出場と、のちに矢内女流四段が語っていた。
将棋は豊島六段のゴキゲン中飛車となった。紳哉六段は超速▲3七銀から二枚銀を繰りだす。
対局場が映る。いつもだったら、棋譜読み上げの藤田綾女流初段に目がいくところだが、今回ばかりは紳哉六段の頭に目がいってしまう。
矢内女流四段「きょうも、ふだんとちょっと、姿がネ、違う部分がありまして、こう…なんていうんでしょう、オシャレに気を遣っているというかこう、見られてる意識っていうのがひじょうに強い方なんですよねえ」
やうたん、そこに触れてしまうのか? さすが司会者である。私たちの期待を裏切らない。
すると天彦六段が、
「まあちょっとこーう…まあジャケットもこーう…黒ですし、まあ、シャツじゃないじゃないですか。―――そういうのはちょっと珍しいかなと」
と応じた。
そっちですか? 別でしょう。頭でしょう? と私は、テレビにツッコミを入れた。
局面は、△4五歩▲同銀△6五歩▲7七銀△5五歩▲9七角△4二角で、早くも後手が指し易くなった。この順でゴキ中がよくなるなら、ラクなものだ。
しかし苦戦に陥ってからの、紳哉六段の表情がすごい。仁王様のようで、実に絵になっている。テレビカメラは、よくこの表情を捉えた。
だが局面はいよいよ芳しくない。天彦六段の解説は小気味よく、「豊島優勢」と明快だ。
△3四歩と角取りに打たれて、私なら投了するところだが、紳哉六段は▲4三銀成と指し続ける。しかし豊島六段の追及は厳しく、紳哉六段、無念の投了となった。紳哉六段、駒を踊らせるどころか、踊らされてしまったようだ。
しかし紳哉六段、指し手以外の部分で、大いに魅せてくれた。ニュースタイルで、新たなファンを開拓できたのではないか。私もいっぺんに、紳哉六段のファンになってしまった。
晩年の芹沢博文九段や神吉宏充七段のように、パフォーマンスが目立つ棋士は往々にして勝ち星が伴わないものだが、紳哉六段は毎年安定した成績を残している。これはニュータイプの棋士といえる。
紳哉六段の、さらなる活躍を祈るものである。
午後、大野教室に行くと、紳哉六段の話題で持ちきりである。対局前のインタビューで、紳哉六段がパフォーマンスをしたらしい。前週の予告で、紳哉六段の頭がリニューアルされていたので、私も「何か」を期待していたのだが…。
誰かがYOU TUBEを再生する。私も何気なく見たが、紳哉六段、まさに「やってくれた」。これは家でビデオを観るのが、楽しみになった。
そしてその対局を再生したのが、23日(月)の夜だった。
司会の矢内理絵子女流四段が対局者を紹介し、NHK杯恒例の、対局前インタビューが流れる。もう、ビジュアルから衝撃的だ。別人のようである。
矢内女流四段「豊島六段の印象はいかがですか?」
紳哉六段「トヨシマ? 強いよね。序盤・中盤・終盤、スキがないと思うよ。だけど、オレは負けないよ」
矢内「本局への抱負をお願いします」
紳哉「えぇ、駒が、駒たちが躍動するオレの将棋を、皆さんに見せたいです」
出た! 改めて観たが、やっぱり面白い。NHK杯で対局前に棋士インタビューを始めたのは数年前からだが、当たり障りのないコメントを残す棋士ばかりの中で、これは久々にウケたコメントだった。少し噛んで、緊張気味の紳哉六段が微笑ましかった。
これを聞いた解説の佐藤天彦六段(当時)も、
「なかなかこう、斬新な抱負でしたよね」
と感心していた。
紳哉六段はデビュー時、「歌って踊れる棋士」を目指していた。それは志半ばで頓挫したようだ。しかし昨年7月に行われたマイナビ女子オープンの一斉予選対局では、解説場にカブリモノをかぶって登場し、その一端を見せてくれた。
将棋のほうは、竜王戦は2組まで上ったが、順位戦はいまだにC級2組。棋士になって14年、まだこのクラスでくすぶっているとは思わなかったろう。
それ以上にショックなのが頭だったはずで、これは人生設計において、大きな誤算だったに違いない。しかしこればかりは神様のいたずらなので、どうしようもない。まあそれはともかく、今回はついに本業で踊る、というわけである。
紳哉六段の先手で対局開始。しかしその手つきが、若干素人っぽい。この手つき、全然記憶にないがそれもそのはずで、紳哉六段は何と11年ぶりのNHK杯出場と、のちに矢内女流四段が語っていた。
将棋は豊島六段のゴキゲン中飛車となった。紳哉六段は超速▲3七銀から二枚銀を繰りだす。
対局場が映る。いつもだったら、棋譜読み上げの藤田綾女流初段に目がいくところだが、今回ばかりは紳哉六段の頭に目がいってしまう。
矢内女流四段「きょうも、ふだんとちょっと、姿がネ、違う部分がありまして、こう…なんていうんでしょう、オシャレに気を遣っているというかこう、見られてる意識っていうのがひじょうに強い方なんですよねえ」
やうたん、そこに触れてしまうのか? さすが司会者である。私たちの期待を裏切らない。
すると天彦六段が、
「まあちょっとこーう…まあジャケットもこーう…黒ですし、まあ、シャツじゃないじゃないですか。―――そういうのはちょっと珍しいかなと」
と応じた。
そっちですか? 別でしょう。頭でしょう? と私は、テレビにツッコミを入れた。
局面は、△4五歩▲同銀△6五歩▲7七銀△5五歩▲9七角△4二角で、早くも後手が指し易くなった。この順でゴキ中がよくなるなら、ラクなものだ。
しかし苦戦に陥ってからの、紳哉六段の表情がすごい。仁王様のようで、実に絵になっている。テレビカメラは、よくこの表情を捉えた。
だが局面はいよいよ芳しくない。天彦六段の解説は小気味よく、「豊島優勢」と明快だ。
△3四歩と角取りに打たれて、私なら投了するところだが、紳哉六段は▲4三銀成と指し続ける。しかし豊島六段の追及は厳しく、紳哉六段、無念の投了となった。紳哉六段、駒を踊らせるどころか、踊らされてしまったようだ。
しかし紳哉六段、指し手以外の部分で、大いに魅せてくれた。ニュースタイルで、新たなファンを開拓できたのではないか。私もいっぺんに、紳哉六段のファンになってしまった。
晩年の芹沢博文九段や神吉宏充七段のように、パフォーマンスが目立つ棋士は往々にして勝ち星が伴わないものだが、紳哉六段は毎年安定した成績を残している。これはニュータイプの棋士といえる。
紳哉六段の、さらなる活躍を祈るものである。