東の空に、こーんなぶっとい光が、スーーーッと流れて、消えた。あ、あれは流れ星だったのか?? ずいぶんしっかりした光で、あんな流れ星は初めて見た。
流れ星といえば願い事がつきものだが、見た刹那はそんな余裕はないもの。しかしあの流れ星は、見るだけでご利益がありそうだった。
「稲葉六段」がギターを弾きながら、「島唄」を歌う。彼は八重山フリークだから三線を弾きそうなものだが、ギターと三線は似て非なる楽器で、両方を使いこなすのはむずかしいという。
少年のひとりが、母屋で怪談話を始めた。典型的な真夏の夜、である。即興の創作話らしいが、なかなかおもしろかった。
気がつけば12時。さすがにお開きである。廊下には襖がなく、雨戸も閉めないから、究極の無防備で眠る。しかし島に泥棒はいないから、何の心配もない。
部屋には南洲香の蚊取り線香。これで蚊は一切入ってこない。扇風機を弱にして、その首を振る。静かに風が流れ、いい気持ちになって、すぐ眠りに落ちた。
沖縄旅行最終日・15日(水)は、尿意で目が覚めた。トイレは外にあるので、サンダルをはいて庭に出る。表では「真木」さんが、寛いでいた。さすがに宿の人は朝が早い。時間を聞くと、6時過ぎだった。
再びうつらうつらして、7時ごろ起きる。私は全然気づかなかったが、昨夜はあれから2回ほど、通り雨が降ったという。たしかにサンダルが濡れていた。サンダルはまあいいが、海パンがぐっしょり濡れていたのには参った。こんなことなら、海パンも軒下に避難させておくのだった。
7時半より食事。しかし旅先の朝食は、なぜあんなに美味いのだろう。
さてきょうは、10時45分の高速船で石垣島に戻り、竹富島を日帰りする予定である。八重山初心者でもあるまいし、いまさら竹富島でもないが、ちょっと寄りたい店があった。
まるだいの夏期間は9時45分チェックアウトだが、あってなきが如しのタイムスケジュールである。私は朝食後も、宿でボーッとする。こんな八重山の果てにいながら、きょうの夜には、私は東京にいるのだ。ちょっと信じられない。言い換えれば、東京と八重山は意外に近い、ということでもある。
Tシャツが半乾きである。私は庭のテーブルにTシャツを載せて、最後の乾燥を試みる。
それが済むと、いよいよチェックアウトである。午前の便で石垣に戻るのは私と「丸山九段」。「稲葉六段」は夕方の便で石垣に戻り、ドミトリーの宿に泊まるという。「船江五段」の予定は、聞かなかった。
一足早く港に向かう。やがてたくさんの宿泊客が集まってきた。私が初めて鳩間に訪れたときは、宿泊施設は、民宿が3軒あるのみだった。いまは何軒の宿ができたのだろうか。
島旅の港には「別れ」の演出がある。たった1泊だけれど、宿のみんなが見送りに来てくれ、ちょっと感動的である。
亡きおじいは港までは来るものの、貨客船で運ばれてくる生活物資を取りに来るのが主で、宿泊客にはそっけなかった。しかし私は、それはおじいの照れ隠しだったと思っている。
浜辺では釣り人が釣りをしている。大物がかかったようだ。釣り竿が大きくしなっている。私たちも見に行く。奮闘のすえ吊り上げ、宿泊客から盛大な拍手が起こった。
魚は30センチはあろうかという大物で、全体が緑色をしている。あまりうまそうには見えない。軽トラに乗っていた地元のおばちゃんに魚の形状を説明すると、「ブダイ」との回答だった。
西表上原港を経由した高速船が着岸した。きのう私が乗ってきた船である。「鬼奴」こと、Naomiさんに別れを告げ、私はそそくさと船内のシートに座った。
私も別れはあっさりしているほうである。ただし見送る側に回れば、「1日だけど楽しかった」「いい思い出になりました」「またどこかで会えるといいですね」と大仰に嘆き、感動を演出する。
高速船は定刻を3分遅れで鳩間港を出発、石垣港には11時36分に着いた。
私は石垣バスターミナル近くの「ひらのや」に向かう。本格的な日本そばを食べさせる店で、石垣島に来れば必ず寄る飲食店のひとつである。
入店するが、見慣れない女性が厨房にいた。よく考えると不思議な構造だが、厨房は出入口に接しているのである。あのひとはオヤジさんの奥さんだろうか。
私は精進天丼セットAを頼む。たぬきそばに、野菜天丼のセットだ。天丼はごはんの量が少ないものの、タネは5つ入っていて、これで750円はお値打ち価格である。
さっそく運ばれてきた。そばをすする。美味い! 天丼のタネは6つあったが、1個サービスしてくれたのか。それとも、奥さん?が数を間違えたのか。
しばらくすると、ご主人?が戻ってきた。昼休みだったのだろうか。
つゆも全部飲みほし、配膳係の女性にお代を渡す。この女性が息を飲む美人なのだが、左手の薬指に指環をしていて、いささか興趣が殺がれた。
港に戻り、八重山観光フェリーのカウンターで、竹富往復の切符をもらう。黒島往復2,310円、鳩間往復4,630円、竹富往復1,100円。もし「かりゆし周遊券」がなくてもこの離島ルートは変わらなかったから、都合3,040円もトクしたことになる。これが安栄観光の「アイランドホッピングキップ」だったら、もっとトクしていた。
竹富行きの高速船は、私たちがいつも乗るそれより一回り大きい、豪華なものだった。
竹富島には今年6月、「星のや 竹富島」がオープンした。全48のコテージからなるリゾート集落で、テレビ東京系「いい旅夢気分」でも紹介された。この宿泊客も見込んでの、船の大型化だろうか。
船の収容人数は200近くあるようだが、けっこう人が埋まって、12時31分石垣出発。12時44分、竹富港に着いた。
竹富には各観光地に有料バスが出ているが、竹富ぐらいは徒歩で制覇したい。
まず集落に向かい、竹富郵便局で貯金。郵便局の外観をカメラに収めている人がいたが、竹富島は街並みの景観の保存が義務づけられており、この郵便局も例外ではない。赤瓦の屋根が美しい。
815円を貯金して、今回の旅行貯金は終了した。
コンドイビーチに向かう。洗濯をして衣類から湿気が抜けたせいか、旅行カバンが軽く感じる。途中、カイジ浜に向かう道と2択になり、久しぶりにカイジ浜にお邪魔することにした。
それにしてもカバンが軽い。…あれ? …あ!! ああ!! しまったあ! 鳩間島に、バスタオルを忘れてきた!?
私はカバンを開けて確認する。やっぱり、ない…。あ、そうか…。きのうスコールが降ったとき、バスタオルだけ別の場所に移したのだ。あれでバスタオルのことが、スコーンと頭から離れてしまった。
私は私物に愛着を持つタイプである。いずれ捨てることになろうとも、それを旅先で置き去りにしてくることは耐えがたいことである。私は呆然と立ち尽くした。
(つづく)
流れ星といえば願い事がつきものだが、見た刹那はそんな余裕はないもの。しかしあの流れ星は、見るだけでご利益がありそうだった。
「稲葉六段」がギターを弾きながら、「島唄」を歌う。彼は八重山フリークだから三線を弾きそうなものだが、ギターと三線は似て非なる楽器で、両方を使いこなすのはむずかしいという。
少年のひとりが、母屋で怪談話を始めた。典型的な真夏の夜、である。即興の創作話らしいが、なかなかおもしろかった。
気がつけば12時。さすがにお開きである。廊下には襖がなく、雨戸も閉めないから、究極の無防備で眠る。しかし島に泥棒はいないから、何の心配もない。
部屋には南洲香の蚊取り線香。これで蚊は一切入ってこない。扇風機を弱にして、その首を振る。静かに風が流れ、いい気持ちになって、すぐ眠りに落ちた。
沖縄旅行最終日・15日(水)は、尿意で目が覚めた。トイレは外にあるので、サンダルをはいて庭に出る。表では「真木」さんが、寛いでいた。さすがに宿の人は朝が早い。時間を聞くと、6時過ぎだった。
再びうつらうつらして、7時ごろ起きる。私は全然気づかなかったが、昨夜はあれから2回ほど、通り雨が降ったという。たしかにサンダルが濡れていた。サンダルはまあいいが、海パンがぐっしょり濡れていたのには参った。こんなことなら、海パンも軒下に避難させておくのだった。
7時半より食事。しかし旅先の朝食は、なぜあんなに美味いのだろう。
さてきょうは、10時45分の高速船で石垣島に戻り、竹富島を日帰りする予定である。八重山初心者でもあるまいし、いまさら竹富島でもないが、ちょっと寄りたい店があった。
まるだいの夏期間は9時45分チェックアウトだが、あってなきが如しのタイムスケジュールである。私は朝食後も、宿でボーッとする。こんな八重山の果てにいながら、きょうの夜には、私は東京にいるのだ。ちょっと信じられない。言い換えれば、東京と八重山は意外に近い、ということでもある。
Tシャツが半乾きである。私は庭のテーブルにTシャツを載せて、最後の乾燥を試みる。
それが済むと、いよいよチェックアウトである。午前の便で石垣に戻るのは私と「丸山九段」。「稲葉六段」は夕方の便で石垣に戻り、ドミトリーの宿に泊まるという。「船江五段」の予定は、聞かなかった。
一足早く港に向かう。やがてたくさんの宿泊客が集まってきた。私が初めて鳩間に訪れたときは、宿泊施設は、民宿が3軒あるのみだった。いまは何軒の宿ができたのだろうか。
島旅の港には「別れ」の演出がある。たった1泊だけれど、宿のみんなが見送りに来てくれ、ちょっと感動的である。
亡きおじいは港までは来るものの、貨客船で運ばれてくる生活物資を取りに来るのが主で、宿泊客にはそっけなかった。しかし私は、それはおじいの照れ隠しだったと思っている。
浜辺では釣り人が釣りをしている。大物がかかったようだ。釣り竿が大きくしなっている。私たちも見に行く。奮闘のすえ吊り上げ、宿泊客から盛大な拍手が起こった。
魚は30センチはあろうかという大物で、全体が緑色をしている。あまりうまそうには見えない。軽トラに乗っていた地元のおばちゃんに魚の形状を説明すると、「ブダイ」との回答だった。
西表上原港を経由した高速船が着岸した。きのう私が乗ってきた船である。「鬼奴」こと、Naomiさんに別れを告げ、私はそそくさと船内のシートに座った。
私も別れはあっさりしているほうである。ただし見送る側に回れば、「1日だけど楽しかった」「いい思い出になりました」「またどこかで会えるといいですね」と大仰に嘆き、感動を演出する。
高速船は定刻を3分遅れで鳩間港を出発、石垣港には11時36分に着いた。
私は石垣バスターミナル近くの「ひらのや」に向かう。本格的な日本そばを食べさせる店で、石垣島に来れば必ず寄る飲食店のひとつである。
入店するが、見慣れない女性が厨房にいた。よく考えると不思議な構造だが、厨房は出入口に接しているのである。あのひとはオヤジさんの奥さんだろうか。
私は精進天丼セットAを頼む。たぬきそばに、野菜天丼のセットだ。天丼はごはんの量が少ないものの、タネは5つ入っていて、これで750円はお値打ち価格である。
さっそく運ばれてきた。そばをすする。美味い! 天丼のタネは6つあったが、1個サービスしてくれたのか。それとも、奥さん?が数を間違えたのか。
しばらくすると、ご主人?が戻ってきた。昼休みだったのだろうか。
つゆも全部飲みほし、配膳係の女性にお代を渡す。この女性が息を飲む美人なのだが、左手の薬指に指環をしていて、いささか興趣が殺がれた。
港に戻り、八重山観光フェリーのカウンターで、竹富往復の切符をもらう。黒島往復2,310円、鳩間往復4,630円、竹富往復1,100円。もし「かりゆし周遊券」がなくてもこの離島ルートは変わらなかったから、都合3,040円もトクしたことになる。これが安栄観光の「アイランドホッピングキップ」だったら、もっとトクしていた。
竹富行きの高速船は、私たちがいつも乗るそれより一回り大きい、豪華なものだった。
竹富島には今年6月、「星のや 竹富島」がオープンした。全48のコテージからなるリゾート集落で、テレビ東京系「いい旅夢気分」でも紹介された。この宿泊客も見込んでの、船の大型化だろうか。
船の収容人数は200近くあるようだが、けっこう人が埋まって、12時31分石垣出発。12時44分、竹富港に着いた。
竹富には各観光地に有料バスが出ているが、竹富ぐらいは徒歩で制覇したい。
まず集落に向かい、竹富郵便局で貯金。郵便局の外観をカメラに収めている人がいたが、竹富島は街並みの景観の保存が義務づけられており、この郵便局も例外ではない。赤瓦の屋根が美しい。
815円を貯金して、今回の旅行貯金は終了した。
コンドイビーチに向かう。洗濯をして衣類から湿気が抜けたせいか、旅行カバンが軽く感じる。途中、カイジ浜に向かう道と2択になり、久しぶりにカイジ浜にお邪魔することにした。
それにしてもカバンが軽い。…あれ? …あ!! ああ!! しまったあ! 鳩間島に、バスタオルを忘れてきた!?
私はカバンを開けて確認する。やっぱり、ない…。あ、そうか…。きのうスコールが降ったとき、バスタオルだけ別の場所に移したのだ。あれでバスタオルのことが、スコーンと頭から離れてしまった。
私は私物に愛着を持つタイプである。いずれ捨てることになろうとも、それを旅先で置き去りにしてくることは耐えがたいことである。私は呆然と立ち尽くした。
(つづく)