一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

世田谷花みず木将棋オープン戦を見に行く(その4)・ふたつの下段の香

2013-05-06 01:48:32 | 観戦記
鈴木環那女流二段は鴇色の着物に紫の袴。室谷由紀女流初段は赤紫の着物に紫の袴だった。
ふたりとも第1局と同じく、派手なお化粧こそしていないが、匂い立つような艶やかさだ。昼前に、もうこれで満足だから帰ろうか、などと考えた自分はどうかしていた。
司会の女性がいうには、この着物は玉川高島屋に出店している「鈴乃屋」の提供とのこと。「白瀧あゆみ杯」と違い、「花みず木将棋オープン戦」は服装に頓着しないのかと意外だったが、さすがに決勝戦はキメてくれた。
解説は、このイベントの主催者といっても過言ではない、島朗九段。聞き手は上田初美女王(当時)が務める。
対局場の向かって右に鈴木女流二段、左に室谷女流初段がすわり、午後3時03分、室谷女流初段の先手で、決勝戦が開始された。
▲7六歩△3四歩▲7五歩。室谷女流初段十八番の石田流となろう。棋戦初優勝をこれに賭けた。
鈴木女流二段は左美濃。玉をガッチリ固めて捌く、これもいつもの鈴木流だ。ちなみに鈴木女流二段は、これに勝てば二連覇となる。この棋戦の特徴はよく分からぬが、前回優勝者が次回も必ず出場できる保証はなさそうなので、連覇は稀有なことであろう。
室谷女流初段、▲5六銀と腰掛けて、やや前傾姿勢になる。鈴木女流二段は口元に手をあてて考えている。立ち見の余得で、その光景がよく見える。私の周りにも立ち見は大勢いて、さすがに注目度が高くなっていた。
室谷女流初段、襟元に手をやる。何をやっても絵になる感じである。
聞き手の上田女王は、さすがに手がよく見える。無言でパッパッと駒を進める。
「そういえば、上田さんはあさって(5月1日)がマイナビ女子オープンの第3局でしたねえ」
と、島九段が驚く。「ここに居ていいんですか」
「大丈夫です。きょうは対石田流を勉強していこうと思います」
と上田女王。
対局前のコンディショニングを棋士がどうやっているかは知らぬが、ある程度将棋に触れていたほうが、実戦の勘は上がるような気がする。上田女王も負担にはなっていないだろう。
室谷女流初段、長考で▲6五歩と突っかけ、キッと口を結ぶ。いよいよ開戦だ。
鈴木女流二段はお茶を飲んで△3三角と上がる。アゴをポリポリとかき、体をゆする。意外に動きが多い。
室谷女流初段、▲6七金と上がった。島九段が、あまり指したくないと解説していた手だ。しかし関西流の形に捉われない、森安秀光ばりの力強い手ともいえる。
室谷女流初段に続いて鈴木女流二段も秒読みになったが、慌てず△7四歩と突いた。鈴木女流二段は背筋がピンと伸びて、見ていて気持ちがいい。
室谷女流初段、▲8四銀と突進した。このまま飛車を取り切れればいいが、そう簡単にいかないのが将棋である。
いつの間にか、ふたりとも前かがみになっている。局面は中盤の佳境である。
鈴木女流二段、△9九角成と香を取る。「香を取りながら角成」は私が最も好きな手だが、本局はこれが疑問だったようだ。
盤上に▲8一竜がおり、島九段はとりあえず▲8八歩を推奨する。馬筋を遮断し次の狙いは▲3三香! まさに焦点の捨て駒で、△同金は▲3一角。△同桂は▲2一飛打。△同玉は▲2一飛成で、いずれも先手大優勢だ。
さりとて、前もって防ぐ△3一香では、▲7九飛と打つ手が、△9九馬と△7三桂の両取りとなり、これも後手がいけない。
つまりこの局面で▲8八歩と打てば先手大優勢なのだが、室谷女流初段、ああ、▲7一飛と打ってしまった。これにはホントに△3一香がピッタリで、鈴木陣の囲いがぐっと引き締まった。
室谷女流初段はここで▲8八歩だが、証文の出し遅れ。鈴木女流二段持ちになった。
ところが鈴木女流二段にも疑問手が出る。△5七とと寄ったのがそれで、▲6六角と「王手と金取り」に打たれ、一遍にヨリが戻ってしまった。
本局の棋譜読み上げはM氏。対局前は「読み上げノーミス」を宣言していたらしいが、けっこう間違えている。対局者の熱気に押されているのだろう。
室谷女流初段、袖をたくし上げて▲9三角成。何度も書くが、本当に絵になる。男性棋士は実戦集を出す。女流棋士…イヤ、室谷女流初段は写真集を出せばいいと思う。
傍らに、世田谷区長の姿が見える。さっきは竜王戦の表彰式で賞状を渡していたが、実戦も見物しているとは、やはり将棋がお好きなのだろう。
「先手、7一竜」とM氏の声。しかしここは「右」を付けるのが正しい。鈴木女流二段は、小刻みに体を揺らして考えている。
室谷女流初段、▲6三歩と攻めるかと思いきや、▲5九香と受けた。意外に室谷女流初段も我慢強い。
ふたりの下段の香。どちらがより働くかが、本局の焦点となった。
(8日につづく)
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