私は10数分の待ち合わせで、留萌(るもい)行きの留萌本線に乗った。北海道の殆どの路線がそうであるように、留萌本線も大赤字だが、何とか廃線は免れた。
それは線名に「本線」が入っていたからじゃないか、という人もいるが、名寄本線は1989年に廃止になっているから、そうとばかりもいえない。それに留萌から分岐していた羽幌線も、1987年に廃止になっている。留萌本線が生き残ったのは、私には奇跡に思えるのである。
そんな留萌本線ではあるが、線名に「萌」の字が入っているから、回生の道はあると思う。たとえば、列車に萌えキャラをラッピングして、企画列車を走らせるのはどうか。
私はもう広告代理店勤務ではないので深くは考えないが、いろいろ手はあると思う。
定刻の11時23分をやや遅れて、石狩沼田着。私が愛乗している札沼線の「沼」は、ここの沼から取っている。つまりかつては、ここまで鉄道が通じていたのだ。そんな旧札沼線を舞台にした小説に島田荘司の「奇想、天を動かす」があり、これは日本の推理小説で十指に入る名作と信じる。一読をおすすめする。
さらに、恵比島着。昔はここから、留萌鉄道炭砿線が分岐していたが、現在では1999年にNHKで放送された「すずらん」の舞台、というほうが通りがいい。ちなみにテレビでは「明日萌駅」としていた。
同年5月1日から「SLすずらん号」も運行され、私はそのときの一番列車に乗車した。このころの私は、ゴールデンウイークの旅先を固定していなかった。
その列車内はテレビカメラも入り賑やかで、沿線では手を振る住民が続出。主演の遠野なぎこもビデオ出演し、まるで新線が開通したかのごとくだった。
車内の売り子さんの制服はレトロ調で、そのうちのひとりは、顔も私のタイプだった。その1年半後北海道を旅行したとき、別の特急車内でその女性を偶然見かけ、挨拶したら、怪訝な顔をされたものだ。
まあ、そうなるであろう。
「すずらん号」の話を続けるが、恵比島駅で下車するとイベントが開かれており、私は昭和だか大正ルックの方たちと、記念写真を撮らせてもらった。余談だが、そのときの写真が「道内時刻表」に掲載された。
私の半生を振り返れば泣きたいことばかり。このころはそれでも、明るい話題が少しはあったのだ。
留萌着12時04分。時間が許せば北上したいところだが、私は南下する。
12時19分、留萌発。1両の車内は乗客が少ない。しばらく走ると、右手に日本海が見えてきた。羽幌線が廃止になったいま、列車から日本海が見られる区間は貴重だ。
そのままゴトゴト揺られ、12時48分、増毛(ましけ)に着いた。今日の私の目的地である。乗客は私も含めて6人だった。
増毛駅といえば、高倉健が主役を務めた1981年封切りの映画「駅STATION」である。しかしいま、「高倉健と北海道」といえば、根室本線幾寅駅「鉄道員(ぽっぽや)」が真っ先に挙げられ、増毛駅の存在感は薄い。
そこに私がなぜ来たのかといえば、もちろん増毛(ぞうもう)の願掛けをしに来たからにほかならない。苦しいときの髪頼みというわけである。
駅内には売店があり、女性が番をしていたが、残念ながらいま買うものはない。
増毛駅を出て駅舎を眺める。可もなく不可もなくだが、一軒家にも見える。それが逆に素晴らしい。
駅前には「風待食堂」があり、これは映画の忘れ形見と分かる。いまは観光案内所になっていて、中に入ると家人が出てきた。平日の案内はやってないらしい。
駅の看板を頼りに、増毛厳島神社を目指す。道にそれほど雪は積もっておらず、歩きやすい。海鮮料理の店やノスタルジックな建物が林立しているが、まずは神社だ。
小高い丘を登ると、朱塗りの屋根の、小ぶりな神社が見えてきた。これが増毛厳島神社だ。
私はいつもの倍のお賽銭(10円)をほうり、増毛(ぞうもう)その他もろもろのお願いごとをする。もう、中住まいの△5六歩▲同歩△5七歩はイヤだ。神様、どうかお願いします…。
おみくじも引いてみたが、これは大吉だった。
これで今日の主目的は終わりである。あと、今日は旅行貯金をしなければならない。
神社の前でおばちゃんに聞くと、すぐ近くにあった。「味覚の里 増毛郵便局」210円。
その帰り、またもさっきのおばちゃんに会った。
「どこからいらした?」
「東京です」
「増毛はいいところですよ」
地元を自慢できる人は幸せだと思う。
さて、昼めしである。ガイドブックは携行していないのでスマホを繰ると、うまい寿司を食べさせてくれる店が近隣にあった。
何とか探して、入る。屋号を「福よし」といった。
店内はカウンターとテーブルの、いたって普通の内装。しかしこういう店が、うまい食事を提供してくれるのだ。
ランチだろうか、海鮮丼(1,050円)を頼む。これが、ネタが新鮮、豊富でシャリも多く、抜群にうまかった。昨年大晦日に熱海で食べた海鮮丼(1,200円)と比較してしまうが、明らかにこちらに軍配が上がる。
ところで店内にバス時刻表が貼られており、増毛駅前から沿岸バスが出ていた。見ると、次の留萌行きが13時58分である。ちなみにJRは増毛発が15時38分。私は留萌にも寄りたかったので、これはバスを利用したい。
私は若干早く酢飯をかきこむと、バス停に向かった。バスは4分遅れで到着したが、これがさっき私が出た店のすぐ近くを通ったので、クサッタ。
留萌駅ターミナル14時30分着。1時間ばかり時間があるので、駅前をぶらぶらする。
物産館のようなところがあり、ドアの前には、沿岸バスプロデュースの「萌えっ子缶バッジ」のポスターがあった。11種類が掲載されており、1コ200円。なるほど、やっぱりこういうアイテムは、販売するよなあ…。私の「萌え系ラッピング列車」も、誰かが企画していそうである。
館内で120円の大判焼きを買い、買おうか迷っていた缶バッジを1コ所望する。中には売り切れのキャラもあり、私が購入したのは11番「観音崎らいな(これが女の子の名前)+羽幌沿海フェリー」だった。
定刻を4分遅れの15時35分、留萌駅前発旭川行きのバスに乗る。しかしタイム7分、東橋で降りた。
ここに特急バス「はぼろ号」が接続しているのだ。国道の真ン中に下ろされた感じだが、ふと前を見ると、郵便局があった。
私の旅行貯金は原則1日1回なのだが、それは私が勝手に破ることができる。私は郵便局に入り、本日2度目の貯金をした。「留萌南郵便局」210円。
16時02分発の「はぼろ号」が来た。このバスは全席指定だったようで、私が留萌バスターミナルで取った席は「4A」である。
乗り込むと、「4B」に女性が座っていた。??
(つづく)
それは線名に「本線」が入っていたからじゃないか、という人もいるが、名寄本線は1989年に廃止になっているから、そうとばかりもいえない。それに留萌から分岐していた羽幌線も、1987年に廃止になっている。留萌本線が生き残ったのは、私には奇跡に思えるのである。
そんな留萌本線ではあるが、線名に「萌」の字が入っているから、回生の道はあると思う。たとえば、列車に萌えキャラをラッピングして、企画列車を走らせるのはどうか。
私はもう広告代理店勤務ではないので深くは考えないが、いろいろ手はあると思う。
定刻の11時23分をやや遅れて、石狩沼田着。私が愛乗している札沼線の「沼」は、ここの沼から取っている。つまりかつては、ここまで鉄道が通じていたのだ。そんな旧札沼線を舞台にした小説に島田荘司の「奇想、天を動かす」があり、これは日本の推理小説で十指に入る名作と信じる。一読をおすすめする。
さらに、恵比島着。昔はここから、留萌鉄道炭砿線が分岐していたが、現在では1999年にNHKで放送された「すずらん」の舞台、というほうが通りがいい。ちなみにテレビでは「明日萌駅」としていた。
同年5月1日から「SLすずらん号」も運行され、私はそのときの一番列車に乗車した。このころの私は、ゴールデンウイークの旅先を固定していなかった。
その列車内はテレビカメラも入り賑やかで、沿線では手を振る住民が続出。主演の遠野なぎこもビデオ出演し、まるで新線が開通したかのごとくだった。
車内の売り子さんの制服はレトロ調で、そのうちのひとりは、顔も私のタイプだった。その1年半後北海道を旅行したとき、別の特急車内でその女性を偶然見かけ、挨拶したら、怪訝な顔をされたものだ。
まあ、そうなるであろう。
「すずらん号」の話を続けるが、恵比島駅で下車するとイベントが開かれており、私は昭和だか大正ルックの方たちと、記念写真を撮らせてもらった。余談だが、そのときの写真が「道内時刻表」に掲載された。
私の半生を振り返れば泣きたいことばかり。このころはそれでも、明るい話題が少しはあったのだ。
留萌着12時04分。時間が許せば北上したいところだが、私は南下する。
12時19分、留萌発。1両の車内は乗客が少ない。しばらく走ると、右手に日本海が見えてきた。羽幌線が廃止になったいま、列車から日本海が見られる区間は貴重だ。
そのままゴトゴト揺られ、12時48分、増毛(ましけ)に着いた。今日の私の目的地である。乗客は私も含めて6人だった。
増毛駅といえば、高倉健が主役を務めた1981年封切りの映画「駅STATION」である。しかしいま、「高倉健と北海道」といえば、根室本線幾寅駅「鉄道員(ぽっぽや)」が真っ先に挙げられ、増毛駅の存在感は薄い。
そこに私がなぜ来たのかといえば、もちろん増毛(ぞうもう)の願掛けをしに来たからにほかならない。苦しいときの髪頼みというわけである。
駅内には売店があり、女性が番をしていたが、残念ながらいま買うものはない。
増毛駅を出て駅舎を眺める。可もなく不可もなくだが、一軒家にも見える。それが逆に素晴らしい。
駅前には「風待食堂」があり、これは映画の忘れ形見と分かる。いまは観光案内所になっていて、中に入ると家人が出てきた。平日の案内はやってないらしい。
駅の看板を頼りに、増毛厳島神社を目指す。道にそれほど雪は積もっておらず、歩きやすい。海鮮料理の店やノスタルジックな建物が林立しているが、まずは神社だ。
小高い丘を登ると、朱塗りの屋根の、小ぶりな神社が見えてきた。これが増毛厳島神社だ。
私はいつもの倍のお賽銭(10円)をほうり、増毛(ぞうもう)その他もろもろのお願いごとをする。もう、中住まいの△5六歩▲同歩△5七歩はイヤだ。神様、どうかお願いします…。
おみくじも引いてみたが、これは大吉だった。
これで今日の主目的は終わりである。あと、今日は旅行貯金をしなければならない。
神社の前でおばちゃんに聞くと、すぐ近くにあった。「味覚の里 増毛郵便局」210円。
その帰り、またもさっきのおばちゃんに会った。
「どこからいらした?」
「東京です」
「増毛はいいところですよ」
地元を自慢できる人は幸せだと思う。
さて、昼めしである。ガイドブックは携行していないのでスマホを繰ると、うまい寿司を食べさせてくれる店が近隣にあった。
何とか探して、入る。屋号を「福よし」といった。
店内はカウンターとテーブルの、いたって普通の内装。しかしこういう店が、うまい食事を提供してくれるのだ。
ランチだろうか、海鮮丼(1,050円)を頼む。これが、ネタが新鮮、豊富でシャリも多く、抜群にうまかった。昨年大晦日に熱海で食べた海鮮丼(1,200円)と比較してしまうが、明らかにこちらに軍配が上がる。
ところで店内にバス時刻表が貼られており、増毛駅前から沿岸バスが出ていた。見ると、次の留萌行きが13時58分である。ちなみにJRは増毛発が15時38分。私は留萌にも寄りたかったので、これはバスを利用したい。
私は若干早く酢飯をかきこむと、バス停に向かった。バスは4分遅れで到着したが、これがさっき私が出た店のすぐ近くを通ったので、クサッタ。
留萌駅ターミナル14時30分着。1時間ばかり時間があるので、駅前をぶらぶらする。
物産館のようなところがあり、ドアの前には、沿岸バスプロデュースの「萌えっ子缶バッジ」のポスターがあった。11種類が掲載されており、1コ200円。なるほど、やっぱりこういうアイテムは、販売するよなあ…。私の「萌え系ラッピング列車」も、誰かが企画していそうである。
館内で120円の大判焼きを買い、買おうか迷っていた缶バッジを1コ所望する。中には売り切れのキャラもあり、私が購入したのは11番「観音崎らいな(これが女の子の名前)+羽幌沿海フェリー」だった。
定刻を4分遅れの15時35分、留萌駅前発旭川行きのバスに乗る。しかしタイム7分、東橋で降りた。
ここに特急バス「はぼろ号」が接続しているのだ。国道の真ン中に下ろされた感じだが、ふと前を見ると、郵便局があった。
私の旅行貯金は原則1日1回なのだが、それは私が勝手に破ることができる。私は郵便局に入り、本日2度目の貯金をした。「留萌南郵便局」210円。
16時02分発の「はぼろ号」が来た。このバスは全席指定だったようで、私が留萌バスターミナルで取った席は「4A」である。
乗り込むと、「4B」に女性が座っていた。??
(つづく)