一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

タイトルを獲得したのにA級に昇級できなかった棋士(後編)

2014-08-28 00:24:32 | データ
中村修九段は昭和55年デビュー。昭和53年の「将棋マガジン」創刊号では中村修3級の記事が載っており、このときは「ついに四段昇段したか」と感慨深かった。
中村九段の同期には高橋道雄九段、南芳一九段、島朗九段、塚田泰明九段らがおり、彼らが後に大活躍したことから、「花の55年組」と呼ばれた。ただし、上の4人はすべてA級に昇級andタイトルを獲得したのに対し、中村九段はA級に昇級できなかった。
中村九段は居飛車も振り飛車も指し、その独特の棋風から、「受ける青春」「不思議流」と呼ばれた。
その中村九段の棋歴で特筆すべきは、第35期と第36期の王将獲得である。相手は当時名人の中原誠十六世名人。35期で奪取すると、翌期のリターンマッチも制し、堂々の2連覇となった。
きょうは、王将奪取が濃厚となった第35期王将戦の一局を紹介する。中村九段(当時六段)の2連勝で迎えた第3局である。

昭和61年2月3、4日
三重県二見ヶ浦「朝日館」
第35期王将戦七番勝負第3局・千日手指し直し局
先手・六段 中村修
後手・王将 中原誠

▲7六歩△8四歩▲6八銀△3四歩▲7七銀△6二銀▲4八銀△4二銀▲5六歩△5四歩▲5八金右△3二金▲7八金△7四歩▲6九玉△6四歩▲2六歩△6三銀▲2五歩△3三銀
▲6六歩△4一玉▲6七金右△7三桂▲3六歩△8五歩▲7九角△5二金▲3七銀△4四銀▲2四歩△同歩▲同角△2三歩▲6八角△5五歩▲2六銀△6五歩▲2五銀△4五銀
▲3七桂△5六銀▲3四銀△8六歩▲同歩△6七銀成▲同金△6六歩▲同金△5六歩▲5三歩△6六角▲5二歩成△同銀▲5三歩△7七角成▲同桂△6七銀▲1五角△3八歩
▲5一金△3一玉▲4二銀△2二玉▲2三銀成△同金▲同飛成△同玉▲2四歩△3二玉▲3三金(図)△同桂▲2三歩成△4二玉▲5二歩成△同飛▲3三角成△5三玉▲5二金△同玉
▲3二飛
まで、81手で中村六段の勝ち。

5手目▲7七銀が時代を感じさせる。矢倉模様の立ち上がりに、後手番中原王将の作戦は米長流急戦矢倉。
58手目△6七銀で先手玉が危ういが、▲1五角が不思議流の妖しい手。中原王将は飛車の横利きを消して△3八歩だが、これが敗着。なぜなら後手玉に即詰みがあったからだ。
中村六段は▲5一金から手順を尽くし、▲3三金(図)が妙手。芹沢博文九段は後に、「中原はこの手を見落としたのではないか」と看破した。以下、中村六段の勝ち。そして王将奪取、防衛を果たすのである。

大山康晴十五世名人は、「タイトルは防衛して一人前」と言ったが、中村九段は時の名人相手にこれをやった。それだけでも立派なのだが、その中村九段にして、A級ならず。将棋界はどれだけ厳しい世界なのかと思う。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする