二の丸方面への道路は封鎖されており、私は左手の城彩苑に向かう。「桜の馬場・城彩苑」は土産物屋や食事処の集まりで、伊勢神宮・おかげ横丁のコンパクト版だ。
入口を抜けると、どこかのテレビ局が取材に来ていた。角兵衛獅子みたいな恰好をしたオニイサンがインタビューを受けている。ひごまる、なるゆるキャラもいる。しかし何より目立ったのは、その左手にいるサンタ姿のお嬢さんたちだった。
可能ならば彼女らを写真に収めたいが、そうもいくまい。彼女らを尻目に各店をぶらつくが、何も買わない。その奥に天守閣方面に抜けるルートがあったので、登っていく。
城といっても天守閣だけではなく、いくつかの櫓が建っている。中には石垣の崩れがないものもあり、ここだけ見れば何事もなかったように見える。
しかし大広場に出ると、石垣の一部が盛大に崩れている場所に出くわした。これが悲しい現実なのだ。
「どこから手を付けていいか…」
後ろにいた若い観光客がつぶやく。まさにその通りで、これは巨大な立体ジグソーパズルだ。これから気の遠くなる年月をかけて修復していくが、完全復旧までは20年かかるという。こんな地震は予期していなかったから仕方ないが、過去に来訪した時、もっと天守閣に登っておけばよかったと思う。
大広場は広く、冬の陽光が降り注ぎのどかだ。地元の女子学生と思しきグループがジョギングをしている。広場をぐるっと回ると、多くの石垣がひとまとめにされていた。これらが収まるところに収まる日が来るのかと思う。
加藤神社に出る。その名の通り、加藤清正を祀った神社であろう。とりあえずお賽銭を納め、おみくじを引いた。吉。御朱印所もあったが、今回は御朱印帳を忘れてきたので、いただかないことにした。
その先が通行止めになっており、私はいま来た道を引き返す。ここまで熊本城復旧の募金箱はあったものの、城内への入場料は取らなかった。
だけど結構観光客は来ていて、彼らから少しでも入場料を取れば、少しは復旧費用の足しになると思うのだが…。焼け石に水だが。
大広場ではところどころで、無料ヴォランティアの人が案内をしている。団体客に紛れて聞いても構わないのだろうが、私は城彩苑に戻った。
100円で饅頭とお茶を出してくれる店があったが、入店しても無視されたので、そのまま店を出た。
大道路を引き返し、さっきのクリスマスイヴェント会場に戻ると、さすがに開演していた。だが、このイヴェントの本質は日暮れ以後だろう。クリスマスツリーはライトアップされたほうが映えるからだ。各テナントでは各種軽食を売っていたが、ここも冷かして終えた。
私は対角のアーケード街に入った。この入口手前に美味いうどんを食べさせる店があった。昼にはやや早いが、そこで昼食を摂るつもりだ。
…が、そのうどん屋を通り過ぎてしまったようだ。?? そんなはずはないのだが…。
イヤな予感がして、戻ってみる。
ここ…。この不自然な空き地、以前うどん屋があったところじゃないか?? そうに違いない!
おー、もう勘弁してほしい。釧路のラーメン屋、鹿児島の山ちゃんラーメン、旭川の日本蕎麦屋、その他もろもろ…。私が馴染みにしている店が、どうしてことごとく消えてゆくのだ!? みんな代替わりをせず、閉店してしまう。それがおのが将来を暗示しているようで、なおさら私は凹むのであった。
その先の居酒屋で、食事にする。居酒屋のランチがなかなかで、新潟県のそれで食べた時、白飯のあまりの美味しさに感激したものだった。
今回はステーキランチとする。2日前の夜、ガストのステーキで失敗したので、ここで取り返すつもりだった。
出てきたステーキは写真よりも小ぶりだったが、ガストほどではない。玉子スープとサラダ、食後のコーヒーがついて830円?はおトクだ。
実際は、コーヒーはセルフサービスだったようで飲まずに店を出たが、値段はランチ一律価格だったようで、780円という安さだった。ガストももう少し勉強してほしい。
水前寺公園に行こうと思う。同公園は学生時代に訪れたことがあるが、大きな池に小山がポツポツあって、えらく地味だった印象がある。しかし同公園の先の大地震で甚大な被害に遭っており、当初は池の水が枯れた、という報道があった。
最近池の水が復活したようなので、「快気祝い」に向かおうというわけであった。
アーケード街を縦断し左に折れると、通町筋電停に出た。水前寺公園行きはこの系統である。
本日2度目の熊本市電に乗った。電車はかなり年季が入っており、戦前の造りと思われる。ウチの会社のポンチング機械と同じだ。電車は大事に使われていて、動く博物館になっているのは頼もしい。
7つ先の水前寺公園で下車した。と、その先にバス停があり、福岡行きの高速バス乗車場もあった。…ということは、もう市電に乗るチャンスはないだろう。ここ水前寺公園の入園料の値引きは利かないみたいだから、結果的に160円を損することになる――。まあ熊本市電も儲かってないだろうし、この赤字は目をつぶる。
水前寺成趣園は入園料400円だった。入ってすぐ右で、鯉のえさが50円で売られていた。だが買わない。
先に進むと、池にはなみなみと湧水がたたえられていた。元に戻っていたのだ。自然の回復力は素晴らしいと、私はひとり静かに感動していた。
目を左にやると、橋の袂で、晴れ着姿のお嬢さんを、キャメラマンが撮影していた。成人式の写真かもしれない。私がしっかりした人生を送っていたら、彼女くらいの娘がいてもまったくおかしくない。私ほどの親不孝はいないと思う。
池の周りを反時計回りにまわると、鳥居が立ち並ぶ神社があった。いわゆる稲荷神社だ。が、先の加藤神社と同じく、お賽銭のみで御朱印はいただかなかった。
その先ににもまた神社がある。今度は徳川家を祀る出水神社だ。しかしここも同様に、お賽銭のみのお参りとした。
少し迷ったが、やはり高速バスに乗ることにした。バス会社に電話で確認すると、乗車予約はいらないとのこと。水前寺公園を出て、13時53分のバスに乗った。
熊本交通センターからの先客は6人。恐ろしいまでの閑散ぶりである。
高速バスはちょこちょこ止まる。そのたびに客が乗ってきて、けっこう混んできた。やはり熊本―福岡間は需要があるのだ。
さてこのまま福岡まで行ってもいいのだが、まだ明るい。それで、今さらという感じだが、太宰府天満宮に寄ることにした。
ただ、天神バスセンターから西鉄に乗ると、かなり電車賃がかかってしまう。太宰府天満宮に近いバス停があってもよいのだが、それがどこか?
私はスマホを繰るが、今一つよく分からない。
こんなに迷うんだったら、そのまま天神まで行って西鉄に乗る方が簡明だ。だがそうしないのが私の面倒なところで、結果的に見れば損するのを承知で、どこかで降りてしまうのだ。
筑紫野・二日市温泉入口、なる高速バス停が近づいている。ここで下車すれば、しばらく歩いて西鉄の駅に着きそうである。
降りるか、降りないか?
(27日につづく)
入口を抜けると、どこかのテレビ局が取材に来ていた。角兵衛獅子みたいな恰好をしたオニイサンがインタビューを受けている。ひごまる、なるゆるキャラもいる。しかし何より目立ったのは、その左手にいるサンタ姿のお嬢さんたちだった。
可能ならば彼女らを写真に収めたいが、そうもいくまい。彼女らを尻目に各店をぶらつくが、何も買わない。その奥に天守閣方面に抜けるルートがあったので、登っていく。
城といっても天守閣だけではなく、いくつかの櫓が建っている。中には石垣の崩れがないものもあり、ここだけ見れば何事もなかったように見える。
しかし大広場に出ると、石垣の一部が盛大に崩れている場所に出くわした。これが悲しい現実なのだ。
「どこから手を付けていいか…」
後ろにいた若い観光客がつぶやく。まさにその通りで、これは巨大な立体ジグソーパズルだ。これから気の遠くなる年月をかけて修復していくが、完全復旧までは20年かかるという。こんな地震は予期していなかったから仕方ないが、過去に来訪した時、もっと天守閣に登っておけばよかったと思う。
大広場は広く、冬の陽光が降り注ぎのどかだ。地元の女子学生と思しきグループがジョギングをしている。広場をぐるっと回ると、多くの石垣がひとまとめにされていた。これらが収まるところに収まる日が来るのかと思う。
加藤神社に出る。その名の通り、加藤清正を祀った神社であろう。とりあえずお賽銭を納め、おみくじを引いた。吉。御朱印所もあったが、今回は御朱印帳を忘れてきたので、いただかないことにした。
その先が通行止めになっており、私はいま来た道を引き返す。ここまで熊本城復旧の募金箱はあったものの、城内への入場料は取らなかった。
だけど結構観光客は来ていて、彼らから少しでも入場料を取れば、少しは復旧費用の足しになると思うのだが…。焼け石に水だが。
大広場ではところどころで、無料ヴォランティアの人が案内をしている。団体客に紛れて聞いても構わないのだろうが、私は城彩苑に戻った。
100円で饅頭とお茶を出してくれる店があったが、入店しても無視されたので、そのまま店を出た。
大道路を引き返し、さっきのクリスマスイヴェント会場に戻ると、さすがに開演していた。だが、このイヴェントの本質は日暮れ以後だろう。クリスマスツリーはライトアップされたほうが映えるからだ。各テナントでは各種軽食を売っていたが、ここも冷かして終えた。
私は対角のアーケード街に入った。この入口手前に美味いうどんを食べさせる店があった。昼にはやや早いが、そこで昼食を摂るつもりだ。
…が、そのうどん屋を通り過ぎてしまったようだ。?? そんなはずはないのだが…。
イヤな予感がして、戻ってみる。
ここ…。この不自然な空き地、以前うどん屋があったところじゃないか?? そうに違いない!
おー、もう勘弁してほしい。釧路のラーメン屋、鹿児島の山ちゃんラーメン、旭川の日本蕎麦屋、その他もろもろ…。私が馴染みにしている店が、どうしてことごとく消えてゆくのだ!? みんな代替わりをせず、閉店してしまう。それがおのが将来を暗示しているようで、なおさら私は凹むのであった。
その先の居酒屋で、食事にする。居酒屋のランチがなかなかで、新潟県のそれで食べた時、白飯のあまりの美味しさに感激したものだった。
今回はステーキランチとする。2日前の夜、ガストのステーキで失敗したので、ここで取り返すつもりだった。
出てきたステーキは写真よりも小ぶりだったが、ガストほどではない。玉子スープとサラダ、食後のコーヒーがついて830円?はおトクだ。
実際は、コーヒーはセルフサービスだったようで飲まずに店を出たが、値段はランチ一律価格だったようで、780円という安さだった。ガストももう少し勉強してほしい。
水前寺公園に行こうと思う。同公園は学生時代に訪れたことがあるが、大きな池に小山がポツポツあって、えらく地味だった印象がある。しかし同公園の先の大地震で甚大な被害に遭っており、当初は池の水が枯れた、という報道があった。
最近池の水が復活したようなので、「快気祝い」に向かおうというわけであった。
アーケード街を縦断し左に折れると、通町筋電停に出た。水前寺公園行きはこの系統である。
本日2度目の熊本市電に乗った。電車はかなり年季が入っており、戦前の造りと思われる。ウチの会社のポンチング機械と同じだ。電車は大事に使われていて、動く博物館になっているのは頼もしい。
7つ先の水前寺公園で下車した。と、その先にバス停があり、福岡行きの高速バス乗車場もあった。…ということは、もう市電に乗るチャンスはないだろう。ここ水前寺公園の入園料の値引きは利かないみたいだから、結果的に160円を損することになる――。まあ熊本市電も儲かってないだろうし、この赤字は目をつぶる。
水前寺成趣園は入園料400円だった。入ってすぐ右で、鯉のえさが50円で売られていた。だが買わない。
先に進むと、池にはなみなみと湧水がたたえられていた。元に戻っていたのだ。自然の回復力は素晴らしいと、私はひとり静かに感動していた。
目を左にやると、橋の袂で、晴れ着姿のお嬢さんを、キャメラマンが撮影していた。成人式の写真かもしれない。私がしっかりした人生を送っていたら、彼女くらいの娘がいてもまったくおかしくない。私ほどの親不孝はいないと思う。
池の周りを反時計回りにまわると、鳥居が立ち並ぶ神社があった。いわゆる稲荷神社だ。が、先の加藤神社と同じく、お賽銭のみで御朱印はいただかなかった。
その先ににもまた神社がある。今度は徳川家を祀る出水神社だ。しかしここも同様に、お賽銭のみのお参りとした。
少し迷ったが、やはり高速バスに乗ることにした。バス会社に電話で確認すると、乗車予約はいらないとのこと。水前寺公園を出て、13時53分のバスに乗った。
熊本交通センターからの先客は6人。恐ろしいまでの閑散ぶりである。
高速バスはちょこちょこ止まる。そのたびに客が乗ってきて、けっこう混んできた。やはり熊本―福岡間は需要があるのだ。
さてこのまま福岡まで行ってもいいのだが、まだ明るい。それで、今さらという感じだが、太宰府天満宮に寄ることにした。
ただ、天神バスセンターから西鉄に乗ると、かなり電車賃がかかってしまう。太宰府天満宮に近いバス停があってもよいのだが、それがどこか?
私はスマホを繰るが、今一つよく分からない。
こんなに迷うんだったら、そのまま天神まで行って西鉄に乗る方が簡明だ。だがそうしないのが私の面倒なところで、結果的に見れば損するのを承知で、どこかで降りてしまうのだ。
筑紫野・二日市温泉入口、なる高速バス停が近づいている。ここで下車すれば、しばらく歩いて西鉄の駅に着きそうである。
降りるか、降りないか?
(27日につづく)