一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

感動のフランボワーズカップ(後編)・感涙

2010-12-27 00:33:40 | LPSAイベント
午後3時40分、中井広恵女流六段と、渡部愛ツアー女子プロが登場した。両者が抱負を述べ、3時45分、今年最後の大一番が始まった。
先手中井女流六段☗7六歩。ここで後手渡部ツアー女子プロが☖8四歩なら、矢倉でも角換わりでも何でも来て…となるが、☖3四歩。以下渡部ツアー女子プロの誘導で、中座飛車(☖8五飛)となった。
渡部ツアー女子プロが女流棋士になるためには、1dayトーナメントや天河戦、日レス杯で好成績を取り、LPSAが然るべきところへ推薦する必要がある。本局は渡部ツアー女子プロにとって大きな一番だが、それは中井女流六段も同じである。
両者は「第27回・シュバリエカップ」でも決勝戦で当たっているが、このときは相矢倉の熱戦を渡部ツアー女子プロが制している。今回中井女流六段が負けるようだと、「渡部ツアー女子プロを女流棋士に推薦するために、わざと負けたんじゃないか?」と、いらぬ憶測を呼ぶかもしれないからだ。
したがって中井女流六段は、いつも以上に気合を入れ、渡部ツアー女子プロを叩き潰さねばならないのだ。
横歩取りの将棋は、LPSA同士の対局では滅多に出ない。必ずどちらかが飛車を振るからで、定跡最前線を知らないと指しこなせない空中戦に臨む渡部ツアー女子プロは、それだけよく勉強している、ということになる。
解説の阿久津主税七段は、過去の実戦例を引き合いに出し、分かりやすく説く。聞き手の石橋幸緒天河もハキハキして、聞き取りやすい。
渡部ツアー女子プロ、☖6五桂と単騎の桂跳ね。あまり見ない手だが、研究手だろうか。中井女流六段、角を換わったあと、☗5六角とその桂を取りにいく。
これに渡部ツアー女子プロが☖8三角と打ったのが、才能を見せた一手だった。数手後の十字飛車を見せている。中井女流六段、どう指すかと見ていると、☗2五桂と跳ねた。空中戦らしい、華々しい応酬だ。
これからおもしろくなるところである。…というところで、ポカポカした室内で睡魔に襲われ、私はここで意識がなくなってしまった。
うたた寝のあと目が覚める。中井女流六段はともかく、女子高生の真剣勝負で熟睡するとは、何たる不覚か。
15分くらい眠っただろうか。大盤を見ると、中井陣に渡部ツアー女子プロの馬ができていた。さらに後手の持駒は飛、金、銀、歩とある。これは中井女流六段、ヘタをやったようだ。渡部玉にはまだ余裕があり、これは後手の一手勝ちであろう。
☗6八玉に☖7六歩が、玉の逃げ道を塞いで、一歩千金の一手。以下、粘る中井女流六段を渡部ツアー女子プロが綺麗に寄せ切り、嬉しい優勝となった。
感想戦では、中井女流六段が☗9五角を真っ先に悔やんだ。検討ではほかの手でもすでに難しい形勢だったらしいが、この手が精神的に尾を引いたようだから、これが敗着といえるかもしれない。
準決勝は「☖9五角」が勝着だったので、この日の中井女流六段は、「9五」がキーポイントだったことになる。
渡部ツアー女子プロは大きな仕事をしたが、表情に変化は窺えない。なかなかの大物だと思った。
感想戦が終わって、4時45分である。スケジュールでは5時20分に表彰式予定だから、だいぶ時間がある。ここで閉会式に移ってもいいのだが、この日は夜から同所で懇親会(忘年会)があり、あまり早く終わると味が悪いのだ。
そこで石橋天河が提案を出した。阿久津七段と渡部ツアー女子プロの角落ち戦エキシビション(模範試合)である。
阿久津七段はまだギャラ分の仕事をしていないし、渡部ツアー女子プロにも、格好の勉強となる。我々観客も大いに楽しめるし、一石三鳥の名案であった。
小休憩のあと、5時6分、対局開始となった。持ち時間は、阿久津七段が初手から一手30秒。渡部ツアー女子プロは、持ち時間10分、切れたら一手30秒である。
さて角落ちという手合いは難しい。飛車落ちまでは右四間飛車から☗4五歩、という有名な定跡があるが、角落ちまでになると、下手の作戦もさまざまで、構想力が問われる。渡部ツアー女子プロの採った作戦は中飛車だった。
阿久津七段は、☖5三銀☖4三銀、の二枚銀で中央を厚くする。特別な手を指していないのに、なんだかマギレてきた。ここが男性プロの恐ろしいところである。
しかし☖7三桂はどうだったか。石橋天河が
「そう指すもんなんですねえ」
と感心していたが、ここは☖7七歩成とと金を作って、上手十分だったと思う。
戦前中井女流六段が、
「上手は持ち時間がなくても、相手の考慮時間も利用できるし、それほど苦にならない」
と語っていたが、ここで「初手から30秒」のハンデが現われたかもしれない。
ここから渡部ツアー女子プロが持ち直し、上手王に迫る。飛車を取り、敵陣に竜を作り、必勝態勢となった。
しかし阿久津七段は慌てることなく、淡々と指す。その横顔の雰囲気が、V6の岡田准一にそっくりだ。暴漢に襲われても、守ってくれそうである。
阿久津七段、勝手にしろと☖4六歩。そこで渡部ツアー女子プロに☗5四銀!!の鬼手が出た。これは☖同王の一手。そこで☗6三竜が継続の好手だ。取れば☗7三飛以下詰みだから☖4三王。ここで実戦は☗5三竜と王手をしたが、☗5三竜では3五の角で☗5三角成とし、以下空き王手の筋で、敵駒を排除するのがよかったようだ。
本譜は☖3四王と角の頭に上がられ、これで上手王が妙に寄らない。
下手が一息ついた後は、上手が豊富な持駒にモノをいわせ、下手玉を華麗に詰め上げた。終了5時52分。この日一番の熱局を見せてくれた両者に、温かい拍手が送られた。
閉会式。阿久津七段の総括には、渡部ツアー女子プロの強さを讃える言葉があった。これはお世辞ではなく、本音だったと思う。短時間の将棋で、安全勝ちを潔しとせず、鋭く切り込む姿勢には、若いころの谷川浩司九段を彷彿とさせるものがあった。
表彰式のあと、優勝者予想クイズの当選発表があったが、渡部ツアー女子プロの優勝を当てた方は、わずか6名だった。ちょっと数が少ないが、この日のような将棋を指していれば、これから得票もどんどん上がるだろう。
渡部ツアー女子プロ、喜びのコメントが述べられる。
「1DAYトーナメントで優勝できてうれしいです。7月のマイナビ女子オープンでも…」
…とここまで言ったところで、渡部ツアー女子プロが絶句してしまった。棋風改造、5月のマイナビ女子オープン・チャレンジマッチ参戦、7月のマイナビ初戦敗退など、今年の渡部ツアー女子プロは、山あり谷ありの1年だった。そんな思いが去来し、感極まったのだろう。渡部ツアー女子プロの瞳に涙が浮かぶ。そんな彼女に、会場から温かい拍手が送られる。女子高生の涙は史上最強である。つい私も、もらい泣きをしてしまった。
渡部ツアー女子プロは、スポンサーや私たちに感謝の言葉を述べ、見事にスピーチを終えた。
年末のフランボワーズカップといえば、もはや伝説となった、2年前の船戸陽子女流二段が思い浮かぶ。今年は全体的に一方的な将棋が多く、若干の消化不良は否めなかったが、最後の最後で、大きな感動をいただいた。
私はこれからも渡部ツアー女子プロを見守っていこうと、感慨を新たにしたのだった。
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感動のフランボワーズカップ(中編)・遅刻

2010-12-26 01:58:22 | LPSAイベント
「そ…それは、私たちが指す場所を変えるということでしょうか。それとも、指導の先生が代わるということでしょうか」
私は観念しつつも、一縷の望みを抱いて聞いた。
「いえ、先生が代わります」
アイリスの女性は、散文的に答える。何でだ。一体、何があったのだ…。
ほどなくして、山下カズ子女流五段がいらした。考えてみれば、船戸陽子女流二段には、もう30局以上も指導対局を受けている。ここは山下女流五段に指導を受けられることを、貴重な機会だと考えるべきだ。
私は気を取り直して盤に向かう。
「大沢さん、大沢さん」
背後で私を呼ぶ声がする。振り返ると、W氏が(あれ? あれ?)という口の形をしてゲラゲラ笑っている。どうもおもしろくない。
山下女流五段が
「お久しぶりです。…私の先手ですね」
と、冗談とも本気ともつかないことを言う。
元女流名人を相手に、後手で指せるわけがない。私が強引に先手で指した。
将棋は私の居飛車明示に、山下女流五段のゴキゲン中飛車。山下女流五段の軽い動きに中盤まで苦戦だったが、やはり上手が多面指し(4面)だったのが、こちらに有利に働いた。終盤の入口で山下女流五段に淡泊な手が出て、以下はなんとか勝つことができた。時に午後1時57分。
ちなみに、鹿野圭生女流初段は2面指し、大庭美樹女流初段は4面指しだった。山下女流五段と鹿野女流初段を3面指しにする手はあったかもしれない。
ほかの指導対局も続いているので、私も感想戦を早めに切り上げ、準決勝「第2局」の島井咲緒里女流初段-渡部愛ツアー女子プロの観戦に入る。これも毎年恒例だが、準決勝からはステージに対局者が上がり、解説がついての公開対局である。
その解説は現在、阿久津主税七段が務めている。「現在」と書いたのは、阿久津七段が大幅に遅刻し、先ほどやっと来たからだ。それまでは石橋幸緒天河、中倉宏美女流二段が務めていた。
実はLPSAのイベントなどで、阿久津七段が遅刻したのは今回が初めてではない。3回目である。いわば遅刻の常習者だ。
私は時刻表片手に旅行することが多いが、飛行機や列車の乗り遅れは命取りになるので、時間にはシビアである。だから時間にルーズな人は信用しない。
阿久津七段は、公式戦や日本将棋連盟のイベントには、遅刻はしないのだろう。ということは、阿久津七段はLPSAや私たちを、ナメているのだ。
今回は阿久津七段の遅刻のせいで、準決勝第1局の中井-石橋戦が後回しになった。LPSAの両巨頭が対局に入ってしまうと、ほかの女流棋士には、この将棋の解説の荷が重くなってしまうからだ。よって第2局を繰り上げ、石橋天河を解説のひとりに据えたのである。
島井-渡部戦は、島井女流初段の四間穴熊に渡部ツアー女子プロの銀冠となったが、非勢の将棋を渡部ツアー女子プロが盛り返し、最後は島井玉を鮮やかに寄せ切った。
遠くにHak氏が入場したのが見える。朝は30~40人程度の入りだったが、午後になってかなり客も集まってきたようだ。
さて準決勝「第1局」、中井-石橋戦である。2時30分、両雄が登場して抱負を述べるが、いつものカードなので、お互い苦笑するしかない。こうして事実上の決勝戦は、2時35分に始まった。
聞き手は、船戸女流二段。結局船戸女流二段は指導対局を行わなかったようだが、どうもここで聞き手を務めることと、関係があるらしかった。
私からの席では、解説場所のすぐ横に座っている中井広恵女流六段の容姿がよく見えた。その中井女流六段が、チラッ…チラッ…と、私を2回ほど見たような気がしたのだが、気のせいだろうか。ひょっとしたら、私の粘りつくような視線に、悪寒を感じたのかもしれない。
将棋は、先番石橋天河の、藤井システム風普通四間飛車。中井女流六段は、居飛車穴熊。何でも指す石橋天河の作戦が注目されたが、オーソドックスな振り飛車は、これはこれで意表を衝いたかもしれない。
本日対局でない女流棋士もパラパラと訪れている。このあと5時30分ごろから、LPSA懇親会(5,000円)があるからだ。
2時50分、松尾香織女流初段が訪れた。いつの間にか席を立っていたW氏と、何やら談笑している。私は女流棋士を前にするとアガッてしまうが、W氏は何の屈託もなく話す。彼の話術があれば、私ももう少し女流棋士とお近付きになれたのにと思う。
局面は、中盤の入口である。中井女流六段が考えている。相変わらずアンニュイで、一幅の絵画のようだ。と、右手が動いて、☖3二飛を着手した。今度は石橋天河が長考に入った。
2時52分、Y氏の顔が見えた。来るべき人が来る、という感じだ。
2時56分、石橋天河がとうとう秒読みに入った。中井女流六段はまだ9分も残しているから、大差だ。ふたりは先日の女流王位戦リーグで、ともに苦杯を喫した。決して好調とはいえず、石橋天河のほうに、それは大きいような気がする。
石橋天河、文字どおりノータイムで、☗8八角と引く。これに☖9五角と出られたらどうするのだろう。角成りが受からない。と、案の定☖9五角が指された。石橋天河の手が止まる。どうも先手が苦しくなったようだ。
その前の☗8七飛もどこか違和感があり、この日の石橋天河の指し手は、どこかふわふわした感じだった。
3時6分。中井女流六段、熟考して☖3六歩と決めに出た。阿久津七段が、
「方針を決めるときに時間を使うのが強者の指し方」
と言う。素人目にも、後手を持ちたくなった。
決めるだけ決めて、☖3五飛と浮く。このまま攻めて忙しくせず、アタリの飛車をじっとかわす、落ちついた手だ。
阿久津七段も、
「この手は気づかなかった」
と感心する。これは大差になったようだ。
石橋天河、☗2八角と辛抱する。飛車は「8八」におり、聞き手の船戸女流二段が、
「飛車角を並べ間違えた人みたいですね」
とノーテンキなことを言う。
3時14分、T氏が来た。現在東京・将棋会館では、清水市代女流六段が竜王戦を戦っている。女流棋士会ファンクラブ「駒桜」主導の解説会も行われるが、そちらに行かなくていいのだろうか。
その直後、中井女流六段、☖3七金打。敵歩のアタマに露骨に打ちこみ、ここで石橋天河の投了となった。
感想戦。石橋天河はどこかで☗3六歩とキズを消しておくべきだったが、ここには打たない方針だったというから、仕方ない。反対に中井女流六段は自然に指し、優勢になってからは穴熊の堅さを頼みに、一気に収束までもっていった将棋だった。とにかく中盤の「☗8八角☖9五角」の2手がすべてだった。
さあ、これでいよいよ、中井女流六段と渡部ツアー女子プロの決戦となったのである。
(つづく)
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感動のフランボワーズカップ(前編)・暗転

2010-12-25 15:55:18 | LPSAイベント
12月23日(木・祝)は、年末恒例のLPSA・1DAYトーナメント「フランボワーズカップ」が行われた。
同トーナメントは山青貿易株式会社の協賛で、回を重ねて4回目。3年前の第1回は非公開で、初代1DAY女王・島井咲緒里女流初段が優勝した。
2年前の第2回は文京シビックセンターにおいて公開で行われ、いまや伝説となった、船戸陽子女流二段・涙の優勝で幕を閉じた。
そして昨年の第3回は中井広恵女流六段と石橋幸緒女流四段の決勝戦。コクのある戦いを、中井女流六段が制した。
今年はどんな戦いを見せてくれるだろうかとワクワクしながら、私は会場である文京シビックセンター26階に向かった。
午前10時30分開場、11時開会だが、会場には10時40分ごろに着いた。今回の1DAYトーナメントの組み合わせは、観客が抽選して決める。しかし私が着いたときは、抽選が終了していた。どうも、先着の8名がクジを引いたようである。
11時すぎ、対局者の8名が登場する。向かって右から、石橋天河・大庭美樹女流初段、中井女流六段・船戸女流二段、山下カズ子女流五段・渡部愛ツアー女子プロ、中倉宏美女流二段・島井女流初段と並ぶ。トーナメント表と同じ並びである。
それぞれが一言抱負を述べる。渡部ツアー女子プロは、
「高所恐怖症なので、26階はコワイですぅ」
と言ってみんなを笑わせた。
8名の対局者が、所定の位置にすわる。横長の室内に、手前から奥へ大庭女流初段(先)・石橋天河、船戸女流二段(先)・中井女流六段。そこから窓に並行して、山下女流五段(先)・渡部ツアー女子プロ、中倉女流二段(先)・島井女流初段である。
こうして11時15分、今年最後の1DAYトーナメントが開始された。持ち時間は15分、使い切ったら一手30秒である。
観戦席は用意されているが、私は1局に限定せず、各局を見て回るので、いや正確には各対局者を鑑賞するので、立ち見である。
来年1月20日に行われる女流名人位戦の前哨戦となる中倉-島井戦は、島井女流初段が四間飛車に振った。これは相穴熊になる公算が高い。
山下-渡部戦は、渡部ツアー女子プロが向かい飛車に振った。渡部ツアー女子プロはこのところ居飛車を勉強していたが、個人的見解では、渡部ツアー女子プロの棋風は振り飛車が向いていると思う。私は渡部ツアー女子プロに何局か教わったが、初戦の渡部振り飛車に、最も凄味を感じた。
将棋は自分の指したい手を自由に指せる競技である。渡部ツアー女子プロも、自分が指したい戦法、指したい手をのびのび指せばよい。
将棋は山下女流五段も向かい飛車に振り、珍しい戦いになった。
中井-船戸戦は、2年前の決勝戦のカードだ。戦いながら、ふたりも当時を思い出したことだろう。
将棋は、船戸女流二段が注文をつけて、早くも角交換になっている。しかし席の配置の関係で、船戸女流二段が、背中しか見えない。船戸女流二段の凛々しい表情を見るのが楽しみだったのに、残念である。そんな船戸女流二段にはまことに申し訳ないが、恒例の優勝者予想は、ノータイムで中井女流六段とした。いつも書くことだが、願望と予想は違うのである。
石橋-大庭戦は、これも珍しい相三間飛車。このふたりの戦型は予想がつかなかったが、案の定予想もつかない形になった。現在は石橋天河が考慮中である。大庭女流初段が24秒しか使っていないのに、石橋天河は、すでに3分以上を消費している。今後の方針を綿密に立てているのだろう。
船戸女流二段、☗5六歩。白いスーツの船戸女流二段は背中しか見えないが、ちょっと肩をいからせて、後ろ姿でも「魅せる」。スラッとしていて、モデルのようだ。しかしこの局面、後手には☖5七角と打つ手がある。あえて馬を作らせる作戦だろうが、大丈夫だろうか。
中倉-島井戦は、やはり相穴熊。端歩を突き合っているのがイマ風だ。
11時30分。渡部ツアー女子プロが、口元に白いタオルを当てて考えている。しかし持ち時間は5分を切った。渡部ツアー女子プロも、序盤は心ゆくまで構想を練るタイプのようだ。山下女流五段は10分27秒を残している。こちらは中、終盤に時間を残す方針だろう。
石橋-大庭戦、中井-船戸戦は序盤戦。山下-渡部、中倉-島井戦は中盤にさしかかったところか。
11時37分。中倉女流二段が一番手に秒読みになった。早指しの島井女流初段は8分25秒を残している。
大庭女流初段が秒読みに入った。石橋天河は6分16秒を残している。いつの間にか考慮時間が逆転した。
大庭女流初段☗4五同銀に、石橋天河は☖4六歩と金頭を叩く。やむない☗4八金引に☖4五桂と取り返して、これは石橋天河の優勢となった。
11時43分。渡部ツアー女子プロも秒読みに入っている。しかし渡部ツアー女子プロは早見えである。30秒将棋は苦にならないだろう。
中井女流六段が考えている。長い髪がハラリと頬にかかり、そこはかとない大人の色気が漂っている。林葉直子さんを思いだした。局面は中井女流六段が圧倒的優勢である。
11時52分。中倉女流二段がコメカミに手をあてて考えている。いつものファイティングポーズである。しかし絵になる。頭痛薬のCMに起用したいところだ。
11時57分。中井女流六段が右ヒジをついて考えている。アンニュイな感じで、妖艶さも漂う。
この日の女流棋士のいでたちは、クリスマスイブイブにもかかわらず、総じて地味だ。そんな中で中井女流六段は、ふわふわの派手な洋装で、ひとり気を吐いている。
石橋-大庭戦。石橋天河の勝勢だが、ちょっと寄せをもたついている。大庭女流初段も反撃し、まだひと山ありそうである。
中倉-島井戦は、ようやく駒が敵陣に入り始めた。島井女流初段が優勢か。
船戸女流二段が投了したようだ。船戸女流二段は意欲的な序盤戦術だったが、実を結ばなかった。2年前の覇者が、1回戦で姿を消した。
12時3分、山下女流五段が投了した。終盤の入口まで優勢に見えたが、渡部ツアー女子プロの追い込みにうっちゃられた形となった。
時を同じくして、石橋-大庭戦も終わったようだ。感想戦を見に行くと、大庭女流初段側の対局時計が「End」を示している。これは大庭女流初段、また時間切れをやらかしてしまったのか。追い上げ気味だっただけに、惜しい将棋を落としたというべきだろう。それにしても石橋天河は、不調の波から脱しきれていないようだ。
これで残るはあと一局、中倉-島井の穴熊対決を残すのみとなった。
相穴熊は、当たり前だが、どちらが先に相手の駒をハガすかにある。今回は島井女流初段が先に中倉陣に手をつけた。自玉は鉄壁。こうなると、相穴熊の経験値が高い島井女流初段が優位だ。最後は自玉と相手玉の距離感をしっかり測って、キッチリ一手勝ちを収めた。
こうして12時27分、1回戦の4局がすべて終わった。
ここで昼食。いつもはひとりで摂るのだが、この日はO氏、Is氏、Si氏と一緒に摂った。
一服する間もなく、そそくさとシビックセンターに戻る。昼からの指導対局に空きがあったので、私も昼前に申し込んだ。それを知っている棋友が、配慮してくれたのだ。ただし私はここまでに大きな失敗をしている。ファンクラブ料金は1,500円だったのに、一般料金の2,000円を払ってしまったのだ。
差額の500円は、寄付したと思うことにする。
さて指導対局者は「1回戦の敗者」とあったが、対局テーブルの上の名札を見ると、入口右奥に山下女流五段、左奥に船戸女流二段、鹿野圭生女流初段、大庭女流初段の名前があった。どういう事情からか、中倉女流二段はパスとなった。
ちなみに鹿野女流初段は22日に1DAY予選を指すため、この前々日までに上京していた。
私はこれら4名の女流棋士すべてに指導対局を受けたことがあるので、どなたに受けても構わない。しかし希望の順番でいえば、船戸女流二段→鹿野女流初段→大庭女流初段→山下女流五段、となる。
誰に当たるかは、トランプを引いて決める。私のふたり前が「ダイヤの4」を引き、アイリス(LPSAインストラクター)の女性に「ダイヤは…船戸先生ですね」と言われていた。そうか、船戸女流二段に教えてもらうには、ダイヤを引けばいいのか。
いよいよ私の番である。神経を集中させて、カード引く。表に返すと、「ダイヤのA」だった。よしゃっ!!
「ダイヤは…船戸先生ですね」
アイリスの女性が言う。
確率1/4。小さい可能性の中で、このヒキは、われながらさすがであった。
対局場に入ると、棋友が、誰に当たったか聞いてくる。
「船戸先生ですよ」
私が当然のように答えると、オオーッというどよめきが起こった。
指導対局は午後1時15分からである。すでに鹿野女流初段、大庭女流初段はスタンバイしているが、肝心の船戸女流二段の姿がない。
と、アイリスの女性がきて、
「すみません、先生が変更になりました」
と言い、船戸女流二段の名札を山下女流五段のそれに取り換えた。
エエッ!? 予想もしない展開に、私は激しく狼狽した。
(つづく)
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長崎旅行⑦・どうでもいい話

2010-12-24 02:23:47 | 旅行記・九州編
蓑島大橋を渡ると、和風ファミレスのチェーン店があったので、そこに入る。店のオススメは、牡蠣とチキンカツの定食・豚汁付で、924円。めんどうなので、これを注文する。とはいえ、今回の旅行ではこれが最高値の食事だ。
右のテーブルでは、母子が食事を摂っている。母親が天ぷら定食、子供がかつ重である。ところが、子供のほうはかつ重を美味そうにガッついているのに、母親のほうは、ケータイいじりに夢中だ。
かわいい息子を前にしながら熱々の食事を摂ること以上に、どんな幸せがあるのだろう。この母親はそんな大事な食事時に、ケータイいじりを優先させた。バカじゃなかろうか。
昼の松浦鉄道での女子高生もそうだったが、ケータイは、ヒト同士のコミュニケーションを退化させてしまった。
私は美味しく食事をいただいて、長崎空港に戻る。空港発は20時50分だが、まだ1時間ほどある。搭乗口のテレビで、「さんまのからくりTV・替え歌王決定戦」を観て、ゲラゲラ笑った。
飛行機は、博多からの便が遅れた関係で、約15分遅れての出発となった。飛行機は鉄道より速いが、時間は正確ではない。必ず何分か遅れる。
機内はほぼ満席であった。さすがに日曜の夜は乗客も多い。…あれっ? 中倉彰子女流初段!? あ、違うか…。スッチーが中倉女流初段のわけがない。しかし彼女、よく似ている。あれっ、行きに搭乗していたスッチーか!? いや、さすがに違うだろう。…あれっ? 中倉宏美女流二段?? 彰子女流初段似のスッチーが、今度は宏美女流二段に見えた。
私は、中倉姉妹の顔は似てないと思っていたが、このスッチーを介してふたりの顔に見えたということは、中倉姉妹はお互い似ているのかもしれない。
前の座席ポケットを見ると、機内誌が挿しこんであった。なんだ、スカイネットアジア航空(SNA)でも、機内誌があったんじゃないか。
その雑誌名を「Re+(リプラス)」といった。退屈しのぎにパラパラ見ると、情報ページに、九州内のバスにほとんど乗れる「SUNQ PASS」の企画きっぷが記されてあった。
「飛んで!飛んで!九州キャンペーン」というもので、行きの飛行機でSNAを利用すると、空港の窓口で、「SUNQ PASS」が半額で買える、というものだった。
例えば九州内の全バス(一部を除く)と下関のバスが3日間乗り放題で10,000円のところが、SNAの半券を提示すれば5,000円になるというわけだ。
そういえばネットでSNAのホームページを見ていたとき、この企画を見たような気がした。しかしそのときは行きの飛行機が確定しておらず、見過ごしてしまったのだ。
しまった、と思う。この企画を前もって知っていれば、当然購入しただろう。
私は今回の行程で、バスを使った区間をこのSUNQ PASSに置き換えてみる。するとそれだけで、5,000円近くになってしまった。
あ~、この企画きっぷを見つけるべきだった。しかし行きの飛行機では、機内誌がなかったのだから仕方ない。それに…と思う。
そもそもこの企画きっぷを利用していたら、私の性格からして、島原鉄道や松浦鉄道自体に乗らなかった可能性が高い。とすれば、島原「ホテル南風楼」での絶景露天風呂にも、佐世保の「少女時代・佐世保商業高校」にも、出会えなかったことになる。
反省はしても、後悔はしてはいけない。やはり今回の旅行は、これでよかったのだと言い聞かせた。
飛行機は無事羽田空港に到着した。搭乗口まではバスで移動するが、その距離がまた、やたら長い。まあSNAは激安運賃だから、このくらいの不便には目をつぶるが、カウンター窓口を含めて、若干の改良が必要であろう。
23時03分発の空港快速・浜松町行きに乗る。SNAは羽田空港第2ビル発だから、つねに始発便だ。しかしJALをはじめとした数社は第1ビルからの乗車で、こちらのチケットを買うと、帰りのモノレールで座れない可能性が高い。
JALはこの状況に、ホゾを噛む思いだろう。
ふと前を見ると、ゴマキ(後藤真希)そっくりの、凄まじい美人が乗っていた。始発の時点では見なかったから、羽田空港第1ビル駅から乗車したものらしい。それにしても、何という美しさだろう。
そういえば8月の八重山旅行の際も、帰りのモノレールで外国人の美女を見たが、国際色豊かな空港モノレールには、乗客の美人度も高いのかもしれない。
夜の車内では見るものがないから、ついゴマキに目が行ってしまう。美人は眺めているだけで、時が経つのを忘れる。
あ、顔を上げた。…えっ!? 中澤裕子!? ゴマキが中澤裕子に変化した。見る角度によって、こうも変わるものなのか。
しばらくして、また彼女を見る。エエエッ!? 田中美佐子?? ウソだろう?? ゴマキが、いつの間にか田中美佐子似の女性に変貌していた。彼女の本当の顔は、こんなだったのか…!? それにしても、短時間のうちにスゴイ変化だ。頭が混乱する。…あれっ!? 彼女の隣にわずかに見える髪は…。あれがゴマキか!?
なるほど、事情が飲み込めた。羽田空港国際線ビルでも大量の乗客が乗り、通路側にいたゴマキが窓側に移り、そこに田中美佐子がすわったというわけだった。
ゴマキの向かいに男性がすわっていたので、彼女の顔は終点の浜松町まで、見えなかった。
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長崎旅行⑥・佐世保の女子高生は日本一

2010-12-23 01:47:33 | 旅行記・九州編
「少女時代」だ!!
佐世保駅前に建つ「FRIESTA SASEBO」ステージ前で、韓国のPOPグループ・少女時代が「Gee」を歌っていたのだ!!
…いや違う。彼女らはもちろん、日本人だ。日本の女子高生だ! 9人の女子高生だ!! 今年は無理だと諦めていた佐世保の女子高生に、ひょんなことから、巡り会えたのだ!! しかし何という美脚であろうか! 少女時代といえば、朱里エイコばりの美脚が代名詞である。ステージで少女時代のヒット曲を歌うならば、脚をギリギリまで見せるのが本筋である。
彼女らも当然、ショートパンツにハイヒールという、本家に勝るとも劣らないいでたちである。まったく、嬉しい暗黙の了解ができたものだ。
佐世保の少女時代は、途中で4人退場し、しばらくして6人が加わった。計11人になったわけだが、9人じゃないじゃないか! などと文句を言ってはいけない。出演者は多ければ多いほどよい。
ところで女流棋士会の「少女時代」はどうか。坂東香菜子女流2級が休場、伊奈川愛菓女流1級は休場が明けたものの、女流名人位戦の予選には参加せず、はっきりしない。さらに先ごろ、熊倉紫野女流初段も休場してしまった。こちらの少女時代は、ちょっとばかり危機である。
彼女らの歌が終了し、1年生の女子と思しきMC(master of ceremony)が2人登場した。
彼女らによると、今回の出演は佐世保商業高等学校で、これが2回目のステージとのことだった。1回目もあったのか…!! ま、まあいい。
MCの説明が終わると、今度は制服に着替えた数人の女子高生が現われ、アメリカの音楽に合わせて、バトンを持って踊り始めた。彼女らはバトン部なのだろうか。ともあれこれまた、素晴らしい光景である。踊るたびに超ミニのスカートがひらひら揺れるが、デザインが統一されてないから、私服であろう。しかし制服らしさが出ていてとてもよい。佐世保の女子高生に魅せられて数年、やはり私の見る目は間違っていなかった。
ちなみに女子高生は、制服を着る特権があるのが、一番の強みである。そして「女子高生」を名乗れるのは3年間だけである。制服は、着られる時期に着ておくのがよい。その意味で、室谷由紀女流1級の考えは正しい。
それはともかく、ステージで堂々と美脚を見せつけられると、逆に凝視することができないものだ。私も平静を装って、あえて他所を見たりしている。
しかしカメラ小僧の血が騒いでいることは確かだ。写真に収めたいが、大丈夫だろうか。撮影禁止とは思えぬが、ちょっと勇気が要る。
周りを見ると、同校の生徒と思われる女子や男子、それに老夫婦など、人畜無害の人たちばかりである。一見して怪しいのは、私だけだ。
それでも意を決しカメラを出し、別に撮る気はないんだけど、旅の記念だから…というふうを装い、「ヒキ」でパチリと撮った。
数分のパフォーマンスが終わる。と、今度はチアリーダーと思しきコスチュームを着た女子が出てきて、オリジナルコミックソングを歌い始めた。つ、ついにコスチュームで登場か…!! これは彼女ひとりでは終わらないだろう。ここで時間つなぎをして、先ほどの女子がチアのコスチュームで踊るんだろう!?
ああーしかし、早岐方面行き列車の出発時間が迫っている。腕時計を見ると3時30分だ。次の発車は15時33分である。もし乗るなら、もう切符を買いに行かなければならない。
しかし女子高生のチアリーディングは捨てがたい。だけどそのためにクジラ店を遅刻するのか!? いや、たびら平戸口駅前での電話では、オバちゃんに、4時過ぎに着きます、と断ったのだ。遅れても、店は開けておいてくれている。私は自問自答する。どうする? 決断しなければ!
よし! ここはチアを観ることに決めた。しかしクジラ店に連絡は入れる。
私はケータイを持っていないので、再び公衆電話を探す。これが駅のどこを探しても、ない。数分探して、改札口近くにそれを発見した。
オバちゃんと話がつき、安心して「FRIESTA SASEBO」ステージへ戻る。
すると果たして、10人以上のチアが、バトンとポンポンを持って、踊っていた。
ブラボー!! ブラボーブラボーブラボー!! である。
これも船戸陽子女流二段へお土産を買うために生じた余得だが、船戸女流二段からのご褒美にも思えた。
さらに3枚ほど写真を撮る。もちろんヒキである。本当はズームを目一杯利かせてひとり一人をじっくり撮りたいのだが、それをやると本当に変質者になってしまう。あくまでも旅行中に撮った1枚、というスタンスでなければならない。
どのコも健康的な笑顔でかわいらしい。しかし室谷女流1級には負ける。格が全然違う。
チアのダンスが終了。さあ、次は何の出し物だ!? と期待したら、先ほどのMCが出てきて、イベント終了の挨拶をした。
終わり!? 終わりなの!? 腕時計を見ると3時34分である。何だ…快速が出たばかりじゃないか。これなら早岐へまっすぐ向かうべきだった…。いや、旅で後悔は禁物だ。数分とはいえ、しっかりチアのパフォーマンスを堪能したではないか。旅にしろ人生にしろ、反省はしても後悔をしてはいけない。
私は気を取り直して、隣接している大型スーパーマーケットに入る。
書き遅れたが、このあたり一帯の商業施設は、数年前の駅前再開発で誕生したものである。それまでは、駅前から国道35号線を挟んだバスターミナルの間に地下街があって、数軒の中華料理屋などが店を構えていた。その地下街が再開発で埋め立てられ、私が佐世保名物と認定していた「名所」は、消滅した。
これら料理屋は、「FRIESTA SASEBO」に入居するという話だったが、建物が完成してみると、そのような店はなかったのだった。
スーパーに入ると、刺し身用クジラが置かれている。さすがにクジラ消費量全国一だ。冷凍されているが、これをそのまま買っても融けてしまい、味が落ちる。念のため係の人に訊くと、宅配サービスはないという。
しかし自宅で食す分には、多少融けても構わないだろう。さんざん迷ったが、ここで私は、旅先で初めて、クジラを買った。レジを抜けると、先ほどの女子高生らと何度かすれ違った。軽いカメラ小僧をやってしまったので、何となくバツが悪い。
16時12分発の普通列車で早岐へ向かう。目指すクジラ店は、半分シャッターが開いていた。
ちょっと後ろめたい気持ちで、店に入る。電話のオバちゃんが出てきた。
ここは数年前にも一度訪れ、そのときもこのオバちゃんが応対してくれた。ちょっと懐かしい。
当時は例の喫茶店のことも話したのでそれを言うと、オバちゃんも思い出してくれ、歓迎してくれた。ただし私は、今回の遅刻の理由は言わない。まさかチアを観ていて遅れた、とは言えまい。都合の悪いことは、言う必要はないのだ。
早速クジラを所望すると、赤身は店内に陳列されておらず、奥から凍ったものを数本出してきた。
一見して、スーパーのそれとは違う気がする。スーパーはバラの肉を寄せ集めた、という感じだが、ここのそれは、混じりけのない良質の肉を棒状にスパッと切った、という感じである。
これを数本と、湯あみ用の白身肉を買う。
「あの私、夜帰るんですけど、このまま持って帰ったら融けちゃいますよね。
あ、あの、これ、片想いの女性に贈るんで、より完璧なものにしたいんです。
だからあの、宅配便で送りたいんですけど」
私がそう口にすると、オバちゃんの表情が一瞬くもったような気がした。
(あんたいい歳して、何を言ってるの?)
と語っている気もしたが、気のせいだろうか。
とはいえこの言葉が利いたのか、オバちゃんは端数の20円をおまけしてくれた。
さて、これで今回の旅の目的はすべて終了、というところだが、まだひとつやり残したことがある。川上文旦堂のざぼんの砂糖漬を買うのだ。もう他のメーカーのものは買ったが、どうもこの店の砂糖漬が気になるのだ。動物的カン、とでも言おうか。
実はここ早岐からバスで数キロ行ったところに、川上文旦堂の本店がある。
そこを訪ねてもいいのだが、往復にバス代を使うくらいなら、このまま長崎空港まで行き、そこで買ったほうがいい。
私は16時50分発の長崎行き快速列車に乗った。観光はまったくしていないのに、本当にめまぐるしい。
大村着、定刻2分遅れの17時32分。ここから空港行きの長崎県営バスに乗り換え、3分遅れの17時55分、長崎空港に着いた。
チェックインを済ませ、2階の土産物屋を物色する。棋友や親戚に、買わずもがなのお土産を買う。クジラに比べれば、「真剣度」は50%ぐらいか。
川上文旦堂のざぼんはどこだ。…あった。砂糖漬が、ほかのメーカーと変わらぬ袋詰めで置いてあった。
何だ…ちょっと拍子抜けしたな。と思ったそのときだった。
こ、これは…!! そうだこれを…これも船戸女流二段に買っていこう。そして、船戸女流二段にも苦労を味わってもらうのだ。船戸女流二段の反応を楽しみに、私はそれもレジへ持って行った。
さて、これで本当に今回の旅の目的は完遂した。あとは遅い昼食、いや夕食を摂るだけである。とにかく朝に食事を摂ってからは、佐世保のネットカフェでウーロン茶を飲んだだけだ。いい加減お腹が空いた。時刻はまだ6時30分。時間はたっぷりある。
空港内レストラン横では、ベテランジャズシンガーが、クリスマスコンサートをやっていた。しかし立って聴くのが難儀だ。それにレストランのメニューの値段が高かったので、パスする。
それより空港に架かる蓑島大橋を渡った先に、ネットカフェがあった。いまからそこに入る気はないが、回転寿司は確認していた。ほかにも食事処があるだろう。
私は両手に土産袋を提げ、最後の長崎の街に出た。
コメント (2)
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