CLASS3103 三十三組

しがない個人ホームページ管理人の日記です。

【読書】赤い月の香り

2023-08-21 21:00:34 | 読書感想文とか読み物レビウー
赤い月の香り  作:千早茜

天才的な調香師のもとで働くことになった男の話
というとなんか違うんだけども、
重い過去と苦しみを抱えた男が、香りによって救われると
そんな予感がする物語で、大変面白かった

事件や、大きな解決といったものが見られるわけでもないのだが、
香りを求める人、それを作る人、その交流とその下積みのような作業が
なんか新鮮に読めて面白かった
植物をちゃんと育てること、そこから得るものの良さというのが
押しつけがましくなく、それでいて強い印象をもって、
料理なり、お茶なりになって出てくるのがよい
読んでいて、どんな香りか、皆目見当もつかないけど
よい匂いなんだろうなと思わせる素敵さで、
美しい世界観が作られていくのが楽しかった

しかし、そこまで匂いをかぎ分けられてしまうというのが、
実際はさておき、嫌なことでもあるが、同時に執着であるというのも
とてもよくわかるなと思った次第
香りというファクターをきっかけにして、人間関係すらも左右されてしまう
結局、好きな人の匂いというものがあると、そんな話でもあったけど
体調やら、感情やらが、様々匂いに立つというのが
面白い描かれ方だと感心して読んだのでありました

過去と、感情とが香りによってリンクするという、
匂いが記憶を呼び起こすなんて、ありふれた話なんだが、
それが中核となって、物語の最後を彩るわけだけども、
それによって救われる主人公と、その場に立ち止まったままのような調香師の姿というのが
なんとなく、寂しいというか、切ないものだと思えるような
静かでよい物語だった
ハーブ育てたくなるな