けっきょくどんなに自分を虚飾の鎧で包んでも、人は人以上にはなれずに、自分の無力さに怯えその無力さに打ちのめされるのだろう-。
「精霊の守り人」は別にそう言うことをテーマにした物語ではない。
だけれど藤原帝を目当てに歪んだ視点で見てみると、こういう感想になるのだ。
帝には帝の生まれながらの使命がある。
建国神話はしょせん神話に過ぎない。それなのにこの国はその神話に縛られている。その建国神話からして偽りに過ぎないのに、帝はその虚飾の伝説を守り次に伝えていかなくてはならないのだ。
後継の者が病に倒れて、どんなに水晶の玉を用いてキンキンの舞を踊り狂っても、0に0を掛けても0を足しても0に過ぎないのと同様に、何の力にもならない。
ただ無邪気でしかなかった皇太子が死んでしまうと、どんなに忌み嫌っていてもチャグムを呼び戻さなくてはならない。
それでもどうしてもそれを心のどこかで許せない帝は密かにジンにチャグムを「清める」と言う命を与えていた。
そして一方では、息子を失ってうちひがれ憔悴した容貌の帝にふと心を許すニノ妃にチャグムの代わりをそなたが生むのだと迫るのだった。
闇の世界に囚われてそこから抜け出せないままの帝。
精霊の卵産み終えて無事に戻って来たチャグムが、父の帝と対面し、
「父君のお力のおかげで助かりました。」と言う。
「魔物を倒せたのは父君がジンを遣わしてくださったからです。」とも言う。
最大の嫌味かー!?
いや、それは違う。
チャグムの言う通りなのだ。
チャグムを帝が忌み嫌わなかったら、彼は王宮に居て、そして誰も彼を守れずにラルンガに引き裂かれてしまっていたと思う。せいぜい過去の文献を調べに調べたシュガがその卵を空に向かって投げたと言う結末になるのが関の山である。
卵も卵を宿した者も助けるための、自分でも気が付かない負の使命を帝は持って生まれてきたのだ。
負の使命を持つ者の苦しみや悲しみを人は早々には気づき憐れむことは出来ない事なのだ。
夏至の祭りの時、帝と皇太子が再び人々の前に立つ。
その時誰もが待ち望んでいた雨が降る。
民の多くはそれが帝の神である証であり、その力にひれ伏し随喜する。
人々の喜ぶ姿に満足するチャグム。
チャグムが戻った時に帝の掛けた言葉は
「良く戻った。」と言う優しいものだった。そして何か憑き物が落ちたような優しい顔だった。だが音楽が怪しい。
また帝は雨に喜ぶ民をじっと見ていた。その顔からは何を考えているのか全く分からない。
人々が喜ぶその雨は帝にとってどんなものだったのか。
民たちと同じように歓喜の雨に感じたのだろうか、それとも胸に突き刺す冷たい雨だったのだろうかー。
やっぱりこの帝は藤原竜也で良かったと思う。美しき帝は良い所がまったくないのに、嫌いになれずに哀れにさえ思う。
だけれど、(申し訳ないが)例えば温水氏などがこの役をやったならば、そう思えたかは疑問である。
(↓ まだ、続くよ。)
精霊の守り人 (新潮文庫) | |
上橋 菜穂子 | |
新潮社 |
このドラマ、原作を知っている人からは、かなり厳しい評価を得ているみたいです。だからやっぱり原作はドラマを見てから読もうかなと思っていました。
原作知らずの私には、かなりの満足度が高い作品になりました。
なんたって「新ヨゴ国」と説明が入り、バーンと遠くに描かれるその王宮が映し出された段階で、相当の満足。映像が凄いじゃないですか。
そしてバルサのアクションに満足。
俳優がみんな良いのに、なんかつまらないと言う感想も読みました。それって、相当期待値が高いんだと思いました。(私はもともとドラマに対しての期待値が低い人なのかも。)
私的には、今までこんなドラマをドラマで見た事がなかったので、きっと未来にはこの作品が踏み台となってさらに良いものが出来ていくと思うと、またワクワクするんですよ~。
最終回のラルンガとの戦いも迫力がありました。
最後にチャグムに弟子にしてくださいと頼まれたバルサは、この先も二人で旅をつづける事を夢見たに違いありません。ふと今までのチャグムの旅を思い出します。たった四回しかなかったのに、二人の旅の想い出のシーンはたくさんありましたね。
そしてバルサは知るのです。
ジグロが臨終の床で言った、バルサとの旅は楽しくて幸せだったと言った事は真実であったと。
そして最初はただキィキィとうるさく泣きわめくだけだったチャグムも本当に成長しました。
その別れのシーンは、切なかったです。
ただチャグムがトロガイに抱き着いた時は、その目が泳いでいて笑えました。高島礼子さんは凄いです。だけどどうしてこの役が彼女に行ったのか、未だに謎。この先の物語の中でトロガイの過去シーンとかが出てくるのでしょうか。変な所が楽しみになって来てる私です。
だけどこの先と言ってもですね、来年の1月なんですものね。
先が長いよ~。
あっ、そうそう。
「誰がなんと言おうが、この国を助けたのはバルサ、お前だ。」
うんうん、と頷く私。雨降る空を見上げながらひとり呟くダンダ。シーズン1の最終回らしい良いシーンでしたね。
「花燃ゆ」で東出君の事をちょっとだけ嫌いになっていました。
でもこのダンダは彼に凄くあっていて、「嫌い」の文字をゴシゴシと消しました。
第二シーズンでは帝もだけれどダンダも出ないのかも?
そんなところも気になる所ですね。