醍醐寺の五重塔は951年に完成した京都府下最古の木造建築物になります。
先日読んだ『屋根屋』(村田喜代子)に 醍醐寺が登場してきました。
〈三位の昌深という僧による落書きが京都の「醍醐寺の五重塔の上、相輪の所に釘で引っかいて彫り込んである〉
屋根屋の永瀬は「私」にこう教えます。
「京都三条センバ屋与助の娘 天下第一の美人也」
僧・昌深が一人の女性への恋情を屋根の一番上の相輪の所に書き残した、というお話です。
あの反り返った屋根の先端で、姿を消して透明人間になった永瀬が孤独に物を思っている…かもしれない…、ような思いで塔を見上げてみたり…。
やたら寺の大屋根に目が行き、無人の大船に乗った永瀬屋根屋を思うことがあるから、どうしましょ。
醍醐寺総門の屋根にある鬼瓦。永瀬の顔は鬼瓦によく似て見えたようだ。
瓦の落書きは実際に発見されている。瓦職人の遊び心か「自分の存在を残す記念」なのか。
現実と夢とがもつれてしまうのは小説の中の「私」だけとは限らない。妄想と妄念、思いがかなわない中に生きているのが私たち?