「半七捕物帳」シリーズというとホラー要素が入っているのが定番だった。典型的なパターンとしては、前半でホラー的な話を持ってきて、これは怪談話かと思っていたら、半七親分が見事その謎を解決するというものだ。もちろん解決できるのだから、超自然的なものはなにもなく、人間がやったことだったというのが定番だった。
この話は珍しく、ホラー要素は少ない。ホラー要素というと侍たちが持っていた風呂敷包みに入っていたもの。これを怖いと感じる人もいるかもしれないが、私の場合には、あまりホラーな感じは受けなかった。
この話の中心になるのは半七の子分で湯屋すなわち風呂屋をやっている熊蔵。半七親分、いったいどれだけの子分がいるのかとも思わないでもないが、この熊蔵、仲間内からは湯屋熊と呼ばれている。粗忽ものでよく間違いや出鱈目を報告するので、法螺熊との異名がついていた。
当時は大抵の湯屋には二階があり、若い女が茶や菓子を売っていたのだが、そこに二人の武士が毎日入り浸っていた。この武士たちの正体は?このうちの一人が風呂敷づつみを湯屋に預けていたが、中を検めると、幾千百年を過ぎたか分からない人の首と、なんだかよく分からない動物の首が入っていた。また、会津屋という刀屋に、汚い泥鮫(汚れた鮫の皮)を売っていたのだ。
これに挑むのが、半七親分というわけだ。最後にすべての経緯が明らかになるのだが、今回はあまり事件性はなかったと思う。いや事件はあったのだが、それは半七が絡む大分前。湯屋の2階に二人の武士が入り浸ることやヘンなものを持っていたことのついては事件性はなかったのだ。
☆☆☆
※初出は、「風竜胆の書評」です。