・野村宗弘
広島出身の作者が、広島弁で描いた「溶接工あるある」。講談社の漫画雑誌「イブニング」に連載されていたもので、実際に作者が溶接工をやっていた時の体験がもとになっているらしい。
舞台は、広島のどこかにある鉄工所「のろ鉄工」。ここで働く溶接工たちの悲喜こもごもが、ユーモラスなタッチで描かれる。
主人公は、一応北さんという新婚の溶接工だが、小島さんという工場の責任者や、北さんの後輩の吉っちゃんなども作品の中で大きな役割を占めている。
溶接工というのは大変な仕事なようだ。スパッタ(溶けた鉄の玉)が服の中に飛び込んできて、体はいつも焼けどだらけ。溶接の光で、顔面は日焼けでボロボロ。目もやられるため、激痛で涙ボロボロ状態も珍しくない。
「のろ鉄工」の責任者の小島さんは、数年前に、サンダーという針金のブラシが高速回転する機械で、ちぎれて飛んだ針金が突き刺ささり左目を失明。ご隠居と呼ばれる社員は、若いころ機械でスッパリやったそうで、右手の指がない。おまけに、「山ちゃんの幽霊」まで出るらしい。
こんな過酷な労働環境に輪をかけているのが、「のろ鉄工」の社長だ。安全第二でイケイケの工場だから、労災隠しなど当たり前。しかし、その一方で、社員のことを思って、色々物入りだろうと仕事を取ってくる。しかし、その仕事というのが、無茶な納期だったりで、ますます社員を過酷な状況に追い込むという空回りぶり。
しかし小島さんの娘であるさと子ちゃんはとってもいい娘だ。父親の弁当を作ったり、入院している祖母のめんどうを見たり。地元の国立大への進学を希望しているが、これも父親のめんどうをみるため。親父の小島さんと血が繋がっているとはとても思えないような美少女である。
こういった面々が繰り広げる溶接工ドラマは、笑いとペーソスで溢れているが、これに一層の面白さを与えているのが、担当編集者のK添嬢が欄外に書いているコメントだ。作者に何でも自由にやりたい放題にマンガを描かせてくれる代わりに、自分も自由に欄外でやりたい放題している。このコメントが爆笑ものでつい吹き出しそうになる。
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※本記事は、
「風竜胆の書評」に掲載したものです。