わたしは、週に一度だけ、スポーツクラブに行っている。
「通っている」、とまでは言いにくい、そんな程度の運動量だ。
そこは、まさに、老人ワールド。
はじめて足を踏み入れたときから、かれこれ6年9ヶ月になる。
平日お昼間に利用するデー会員は、仕事をしていない人か、
もしくは、その日だけが、仕事がオフの人。
毎日、平日べったり昼間にジムに行く人は、ほとんど日常にさして用事がない人(と思える)。
スタジオで、どたばたインストラクターの指示通り動き、汗を流し、
ジムでは、マシーン相手に黙々と、筋力と会話する。
プールでは、レーンの行き、帰りに、誰かと足や手が衝突したり、
後ろから泳いでくる人に、ガンっとぶつかってこられたり、
隣の水中歩行レーンの人から、波しぶきがかかる、とクレームがきたり、
多くの人が歩くと、その歩行の波が、横のレーンを泳ぐには逆方向の波となり、抵抗力で泳ぐ動きをさえぎられたり、
同じレーンでは、泳ぐ順序を譲り合い過ぎて効率が悪くなり、快適なスイム・ペースが保てなかったり。
どんな場にも必ずいる「教え魔」には、もう何度も同じコトを注意され、その人の顔を見ると逃げ腰になっている。
わたしは、好き好んで、腕が曲がっているわけではなく、
せいいっぱい痛いほど伸ばしても、腕が曲がるのだ。
ほっといてちょーだい。
何度も何度も注意されて、直らないってことは、そういう可能性もあるってこと、察してほしい。
わたしの口から、実際に、「わたし、伸ばそうとしても腕が、まっすぐにならないんです。ほっといてください」
と、ある日、思わず、するりと出てしまわないか、恐怖だ。
でも、先週、別の人にも同じ注意をされた。
やっぱり、誰の目から見ても、腕は曲がっているのだ。
そして、わたしは、頑張って努力しても、腕は曲がるのだ。
これ、どうしたらいい?
プールの水を、ザッブーン、がさっと全部ひっくりかえしたい気分の時もあるが、それは物理的に無理なので、
そのせいか、どうかは知らないが、
予期せず、突然、善人・小市民へのスイッチが入り、右腕を伸ばすよう、努力したりしてみる。
なんだか少し、マシに泳げたような気にもなったが、その腕に気をとられるあまり、プールの壁に激突した。
まあ、なんやかんやで、泳ぎ始めて、約7年。
顔見知りも、ちらほら出てきた。
先週から、スポーツクラブで、ある事件が起きている。
それは、まさに高齢化社会の縮図の出来事。
大浴場やサウナで、めまいや立ちくらみがしたり、倒れたりする人は、ちょいちょいいる。
これは、湯あたりというか、なんというか、長い間、そういうところに居続けるせいだろう。
個人個人の自覚で、制御していただくとして・・・
問題は、・・・あるモノ・・・ブツである。
あるブツが、落ちているのだ。
パリの街路にもよく犬のブツが落ちていて、世界中で悪評が高い。
フランス観光局は、パリの街、背筋をしゃんとして歩こう!!とPRするが、
そんなことしていると、必ず、靴でブツを踏んづけてしまうので、
猫背になって、下をよおく観察して歩かないとたいへんな目に遭う。
パリジャンやパリジェンヌは、馴れきっていて、自動的に踏まずに避けて歩く装置が備わっているようだが、
観光客は、一足一足、一踏み一踏み、注意しなければいけない。
と、これは、まったくの脱線ハナシである。
そのパリの犬のブツではなく、
わたしの通っているスポーツジムの、床に落ちているブツ・・・のハナシだ。
あるときは、トイレで誰か、発見者の困惑声。
要請を受け、清掃係のスタッフさんが、2人で掃除してくれた。ご苦労様です。
「うわ~」と、ふたり、げんなりしながら、協力して力をあわせるスタッフさんは、年配の女性たち。
掃除する側と、される側は、ほぼ同じ年齢と思われる。
あるときは、ロッカーの前。
あるご年配女性(じつは、わたしがあまり好意を抱いていない、ナニサマ風の人)が、
「まあ~??!! なにぃ~?? これぇ??」と悲鳴に近い怒号の声。
ぐちゃっと、素足で踏んづけてしまったようだ。
わわ。
いやあ、お気の毒に。
わたしのロッカーから2メートルぐらい離れていたものの、ひとごとではない。
騒ぐ、騒ぐ、その女性。そりゃあ、そうだろうけれど。
ご自身のおみ足は、シャワーで洗い流し、テッシュやらなにやらで床を拭き、大騒ぎ。
その後も、まだ、小さいブツが点々と見つかったようで、また、ひと騒ぎしていた。
わたしが想像するに、トイレの犯人と同一人物ではないかと思う。
老齢化社会だから、生理現象だから、暖かい目で見るべきなんだろうけれど、
プールの中にも落ちているのではないかと思うと、うっかり目も開けられない。(開けているが)
ご本人は、おそらく自覚がないと想像するので、それだけに、より恐ろしい。
病院の患者さんならともかく、場所が場所なので、まわりの人々も受け入れ態勢や、覚悟が出来ていない。
知人の勤めている医院では、とても上品な美しい老婦人が患者さんとして通院されている。
いつも、彼女が横になったあとのマッサージ用ベッドは、ブツで汚れているそうだ。
シーツだけでなく、ベッド自体や周辺も影響を受け、たいへんなようだが、
彼女だけ特別に、前もって直前に、ベッドに防水シートを敷くのは、はばかられるので、スタッフは、忍の一字らしい。
だが、毎度、彼女が来院する度に、困り果てているとか。
ご本人は、気付いていないことに大きな原因がある。
もし、わかっているのなら、外出用・紙おしめをして、
そのうえに下着を何重にも着用するなり、なんらかの方法があると思う。
ふつうに一般生活を送ってきていて、
意図せず自分が粗相(そそう)するなんて、そんな屈辱的な目に遭うのは、さぞや認めがたい、耐えがたいことだと思う。
かといって、その、人間としての誇りを尊重するあまり、その人の防御努力なしに、
一般の人が迷惑を受けるというのも、どうかと。
誇りと、粗相は、同じもの? 別もの?
自覚するプロセスが大事かも知れない。
もし、自覚すると、おそらく、一歩も外出はしたくなくなるだろう。
外でのいきいきとした活動から、一切、身を引きたくなるだろう。
わたしには、そんな経験がまだないが、いずれ、自分のこととして、とらえる日がくるだろう。
でも、哀しいけれど、それが、潔い身の引き際かもしれない。
あるいは、きっちり、防御して、万全のケアで臨めば、そんなに卑下したり、情けなく思ったりすることではないだろう。
ただ、もしも出先で・・・と、予想すると、そっちのほうが気になって、外出自体を存分に楽しめないかも知れない。
自分の状態にあった楽しみ方ができるよう、徐々に調整するだろう。(仕方ないけれど)
大勢の人が、裸やスポーツウエアで利用する、スポーツクラブは、
お気の毒だけれど、余暇活動の場所から外していただくのが賢明だと思う。
わたしは、利己主義?
もし、自分の親がそうやっていたら、行くのを控えてもらうか、防御ケアするようアドバイスする。
もし、自分がそうだったら、かなしくて、泣けるけど、まあ、今から心準備しておこう。