雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

加賀の離れ小島 (1) ・ 今昔物語 ( 巻26-9 )

2016-02-02 13:35:11 | 今昔物語拾い読み ・ その7
          加賀の離れ小島 (1) ・ 今昔物語 ( 巻26-9 )

今は昔、
加賀の国の某(意識的な欠字)郡に住む下賤の者七人は、一党として、いつも海に出て釣りをするのを長年仕事としてきた。
ある時、この七人が一つの船に乗って漕ぎ出した。この者どもは釣りをしに出たのだが、それぞれが弓矢や刀剣などを持っていた。
遥かな沖に漕ぎ出て、陸地も見えない辺りまで来ると、思いもかけず突然大風が吹き出し、どんどん沖の方に吹き流されて行き、自分たちの力ではどうすることも出来ず、どんどん流されて行くが為す術もなかった。櫓を引き上げて、風に任せて、もう死んでしまうのではないかと泣き悲しんでいたが、行く手遠くに陸から離れた大きな島を見つけた。

「島があるぞ。何とかあの島に寄り付いて、しばらくでも命を助けよう」と思っていると、人などがわざと引き付けているように、その島に寄って行ったので、「まずは、しばらくは命が助かった」と思い、喜んで我先に飛び降りて、船を岸に引き上げ、島の様子を見まわすと、水が流れ出ていて、果物の木などもありそうに見えた。
「何か食える物はないだろうか」と見回ろうとしていると、年の頃二十歳余りと見えるたいそう美しい男が歩み出て来た。
この釣り人どもはその男を見て、「さては、人の住む島だったのか」と嬉しく思っていると、その男は近くに寄ってきて、「あなたたちを私が迎え引き寄せたのだと知っているか」と言う。釣り人どもは、「そうとは知りませんでした。釣りに出たところ、思いがけず風に吹き流されているうちに、この島を見つけて、大喜びで上陸したのです」と答えた。島の男は「その大風は私が吹かせたものだ」と言うのを聞いて、「やはりこの男はふつうの人間ではなかったのだ」と釣り人どもが思っていると、島の男は「あなた方はお疲れでしょう」と言い、後方に付いて来ている者たちに向かって、「あれを、用意している物を持ってこい」と声をかけると、大勢がやってくる足音が聞こえ、長櫃を二つ担いで持ってきた。
酒の瓶なども数多くある。
長櫃を開けたのを見ると、すばらしいご馳走などである。それらを全部取り出して食べさせたが、釣り人どもは一日中風雨に苦しめられて疲れ切っていたので、出された物を貪り食った。酒なども存分に飲み、残った食べ物などは、明日の食糧にとして、長櫃にもとのように入れて傍らに置いた。
長櫃を担ってきた者どもは帰って行った。

その後で、最初に声をかけてきたこの島の主の男が近寄ってきた。
「あなた方を迎えたわけは、実は、此処よりさらに沖の方にも一つ島があります。その島の主は、私を殺してこの島を手に入れようと常に攻めてきます。我等も迎え撃って、ここ数年は撃退してきました。それが明日攻めてきて、我等も彼等も生死を決する日なので、『助けてほしい』と思ってお迎えしたのです」と言う。
「その攻めてくる相手はどのくらいの軍勢を率いて、何艘ほどの船に乗って攻めてくるのですか。我等の力では及ばないまでも、こうして参ったからには、『命を棄ててこそ』という気持ちで仰せに従いましょう」と、釣り人どもは言った。

島主の男はこれを聞いて喜び、「攻めてくる敵は、実は人の姿をしたものではなく、迎え撃つ私もまた人間ではありません。今日、明日のうちに分かるでしょう。まず、敵どもが攻め寄せ島に襲いかかろうとする時には、私はこの上から攻め下りてきますが、これまでは敵どもをこの滝の前には上陸させず、波打ち際で撃退してきました。しかし、明日はあなた方を強く頼りにしていますから、敵どもをいったん上陸させようと思います。奴らは、陸に上がれば力が出せますので、喜んで上陸してくるでしょう。しばらくは、私に任せておいてください。私が抗しきれなくなったら、あなた方に目配せをしますから、その時にある限りの矢を射かけてください。決して油断なさらないでください。明日の巳の時(午前十時頃)頃から戦の準備にかかり、午の時(正午)頃に戦端を開きます。十分に腹ごしらえをして、この岩の上に立っていてください。奴らはここから登ってきます」と、よくよく教えておいて、奥の方へ入っていった。

釣り人どもは、その山の木などを伐って庵を造り、矢尻などを十分に研ぎ澄まし、弓の弦などを点検して、その夜は火を焚いて話などして過ごした。
やがて夜が明けたので、十分に腹ごしらえをしていると、はや巳の時になった。

                                              ( 以下、(2)に続く )

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