雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

分かち合う ・ 小さな小さな物語 ( 1230 )

2019-12-08 14:48:44 | 小さな小さな物語 第二十一部

一昨日のこと、小雀がテラスにうずくまっているのを見つけました。体をふくらませて少し震えています。足で立っているので足は痛めていないようですが、羽を痛めているのかもしれません。
わが家には、わが家をホームグランドに決めてくれたクロネコ君が頻繁に出入りしているので、とても心配です。
そのうち、親雀らしいのが二羽、電線とテラスのすぐ近くまでやって来て、チュンチュンと激しく鳴くと、小雀はそちらにぴょんぴょんと危なげに近づき、しばらくくちばしでつつき合っていたかと思うと、庭の木に飛び移り、そこから屋根の方に親子ともども飛んでいきました。

数年前、ヒヨドリのヒナで同じようなことがありました。その時は、段ボール箱に入れて一晩預かって、翌朝、上のあいた段ボール箱に入れて出しておきました。エサらしいものや水も準備しましたが、まったく口を付けようとしません。
そのうち、親鳥らしいのが近くまでやって来て鳴きかけると、ヒナも大きな声で鳴きかけました。羽もバタバタするのですが、さして深くもない段ボール箱から出ることは出来ないようです。
やがて、親鳥がいなくなったと心配していると、突然ヒナが鳴きだしたので見に行ってみると、親鳥がヒナに虫らしいエサを与えているのです。そして、与えたあともしばらく段ボール箱の淵にとまって、水を飲んでいるのです。するとどうでしょう、ヒナも水を飲んだのです。
それからは、おそらく二羽か三羽の親鳥が、二十分おきくらいにエサを運んでくるのです。その度に激しく鳴き合い、時々は水を飲んでいきます。そして、その日の夕方頃、ヒナは親鳥に導かれるように段ボール箱から出て庭に行き、木に移り、やがて、危げながら数羽の群れの中に入って行ったのです。
あの親鳥たち、自分のエサを得るのでさえ簡単ではないと思うのですが、それをヒナに分け与えるのは、おそらく親として本能的な行動なのでしょうが、胸が熱くなる思いをしました。

ひるがえって私たちの社会を考えた時、一つの物を分配することの難しさを示す例が山ほどあります。
なまじ財産が有るために、相続をめぐってトラブルが発生することは、テレビドラマの定番の一つのようなものです。
一つの物を分け合う場合に、その配分を廻って起こるトラブルは日常生活で再三見受けられることです。その分ける物は、プラスの物に限らず、何かの負担や責任などの分担でも同じことが起こります。

ギリシャで生まれたとされる黄金分割は、最も美しい姿を生み出すものとして考えだされたものらしく、建築や美術界を中心に現在にまで伝えられています。
この黄金分割とはどのようなものかと調べてみますと、「線分を二つに分割する場合、線分全体の長さと大きな部分の長さの比と、大きな部分の長さと小さな部分の長さとの比が、等しくなるようにすること。つまり、算式にすると・・・」と説明されていますが、算式云々となりますと、とても私の手に負えません。
もう少し単純にしますと、黄金分割は、上の説明のようにして求めた黄金比率(1:0.618・・・)を用いて分割することで、日常生活などでは、およそ「1:0.6」の割合と理解されていて、縦・横の長さがこれに近い比率になっている例は多く見られます。ただ、残念ながら、この数字は、物を分け合う場合の役にはあまりたたないようです。
現在のはやりでいえば、「WIN-WIN」の関係があります。もともとは経営学から生まれた言葉らしいのですが、多くの交渉の場で、やたら登場してきています。おそらく、多くの交渉事においては、必ずといってもいいほど、双方ともがいくばくかの不満を抱きながらの妥結というのが実情でしょうから、この言葉には、仲間を納得させるための魔法のような力を持った呪文のような働きがあるのかもしれません。
さて、こじれにこじれた隣国との関係、何とか解きほぐすような呪文が見つかるのか、神風のような奇跡が起こるのか、結局はその場限りの膏薬でも貼って自らをごまかすのか・・・。
人間に、スズメやヒヨドリのような無償の愛を求めるのは、しょせん無理なことなのでしょうねぇ。

( 2019.08.31 )


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