雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

悲しい性 ・ 小さな小さな物語 ( 1202 )

2019-12-08 15:53:37 | 小さな小さな物語 第二十一部

私たちは、この世に生を受けて、たいていの人はその時の状態は記憶にないと思うのですが、記憶が残る年齢に達した頃には、人間であることを承知することになるのでしょうが、なぜ人間なのかなど意識することなどなく、当然のように成長していくのでしょうが、いつの頃か、自分が人間であることが意識されるようになり、それと同時に、あるいは前後して、かなり早い段階から様々な悩みや苦しみも認識するようになると思われます。
もっともこれは、科学的なデーターなどに基づくものではなく、まったく個人的な意見なのでご承知おきください。

その悩みや苦しみは多種多様で、単純な算式で解くことはもちろん、高度な因数分解を以てしても対処できるものではないようです。因数分解が高度な手段かどうかは個人的な感覚ですが、そうした悩みに対して百発百中といった特効薬はないことは確かなようです。
あるテレビ番組で、コメンテーターの方が、自身の子供の頃の引きこもりの経験をベースに、その当時に原因について討議されていたものは、自分にはどれも当てはまらなかったと話しておられました。
そして、どのようにして引きこもりから抜け出すことが出来たのかという質問に対して、それは自分の問題だと、他の人の参考にはならないといった意思を示されていたように感じました。

かつて、官僚として頂点を極めた人物が、44歳の長男を刺殺するという、何とも痛ましい事件が発生しました。
数日前の、引きこもり状態の男が起こした無差別殺人(?)が影響しているとの報道もありますが、息子を刺殺するしか手段がないと追い込まれた加害者の気持ちを思うと、暗澹たる気持ちになってしまいます。これは、人間なるが故の悲しい性なのか、単なる犯罪に過ぎないと感じるかは人それぞれでしょうが、伝えられている加害者となった人物の経歴から考えれば、この人にアドバイスできる人などいるのかと思ってしまいます。

引きこもりといわれる症状がもたらす問題については、相当以前から社会問題として提起されてきました。ただ、これまでは、若者の問題として取り上げられることがほとんどで、問題を捉える基礎となる調査も、39歳以下のものしかなかったようです。
最近になって、中高齢者の引きこもりの問題が深刻さを増してきて、40歳以上の実態調査が行われ、そのデーターが公表されていますが、その調査結果は、私などが漠然と考えていたものより遥かに深刻なもののようです。
たまたまなのでしょうが、川崎市と東京練馬区で起こった凄惨な事件は、まさにこの延長線上にあるような思われます。
こうした事件に、効果的な対処策などあるのでしょうか。人間の悲しい性の一現象だと考えてしまえばそれまでですが、たとえ僅かでも、発生を未然に押さえる方法があるような気もするのです。
令和という新しい時代、明るい希望を掲げて歩んでいきたいところですが、その一方で、こうした負の遺産に真正面から向き合わなければならない時代なのかもしれません。

( 2019.06.05 ) 


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