都市と楽しみ

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実力も運のうち 能力主義は正義か?(マイケル・サンデル):教育格差の観点は面白いが、マクロ経済の変化をとらえていない、労働の尊厳が結論だが具体的でない、コミュニタリアンはどうするのか

2021-07-24 02:32:20 | マクロ経済

The Tyranny of Merit: What's Become of the Common Good​? (Tyranny :cruel or unfair control over other people、cruel and unfair government )、(Common Good​:the advantage of everyone in society or in a group)が原題

 取り上げられているのは、格差と、これを是正する機会均等の仕組みづくりだ。

  ロールズの格差原理、2のうち2の初めにあるthe Fair Equality of Opportunity Principle ( https://edeq.stanford.edu/sections/fair-equality-opportunity )に反している状態だ。

 対応策の一つである(積極的是正措置 affirmative action  https://en.wikipedia.org/wiki/Affirmative_action )はコミュニタリアン( https://en.wikipedia.org/wiki/Communitarianism )としてロールズの弟子のサンデルが関わってきた。

 格差の拡大はCEOの給与高騰と、金融業の給与高騰と倫理問題(倒産しても高いボーナス)が典型例だ。経営の専門能力(MBA)か金融工学(数学)を取得する必要があり「能力主義」となっている。これがMeritocracy( https://en.wikipedia.org/wiki/Meritocracy 能力主義、業績主義と訳されるが近代では学歴主義とも読める)である。

 政策決定についてもTechnocracy( https://en.wikipedia.org/wiki/Technocracy 専門職官僚とでも訳すべきか、技術や経営、金融などの専門知識の教育と実践を政策に活用 )になっている。

 専門知識と能力がないと良い職につけず、出世も望めない。能力と功績が運命に反映するという西洋の考え方に基づき、伸長した。

 となると大学教育が職業と出世を決める要点となるが、ハーヴァードなど金持ちは予備校やコネ、下駄など裏口や通用口のメリットを享受して合格率を上げている。アメリカで上位100校の難関大学の学生70%超が所得は上位25%で、下位25%の3%と格差がある。

 ハーヴァードの学生は、裕福の効果を指摘せず勤勉と努力で入学したと思っている。

 Meritocracyに反対するのが、Populism(大衆迎合主義 https://en.wikipedia.org/wiki/Populism )であり「阻害された」、「取り残された」、「昔を懐かしむ」と感じる集団となる。経済政策で製造業は海外に、アウトソーシングもあり職が無くなる。アメリカン・ドリームが無くなった。しかし、女性やマイノリティについては阻害する。裕福ではない白人層などトランプの支持者が例として挙げられている。

 Meritocracyの問題は、効率で考え、福祉的な観点が乏しい。「善良なのが偉大なアメリカ:摂理的な道徳」が能力主義を後押し、「勝てばいい」、「我が身は自分で守る」。上昇志向がある、自己責任で公助を否定、

 ハイエク、ロールズは、功績や手柄を正義の基盤とするのを拒否する。所得の再分配を狙うが現実は、リベラリズムに押され福祉となっても、「成功者のおごりと恵まれない人々の怒り」を引き起こした。

 「自然運」や「選択運」など、貧困を「自己責任」としない、成功も「運」であり能力だけではない。

 

解決策

①大学は入学要件を満たす受験者をくじ引き:入学者が輪くぐりで疲弊してしまうのを防ぐ

②能力のおごりを止める:他人を見下さないエリート

③労働の尊厳を見出す:金融は投機、自分の仕事の価値を問い直す

 読み物として面白い。エリートがエリートを問題だというのが何とも言えない。30年前、ハーヴァードやMITでも学生の日本人は「名誉白人」だが、ボストンに多いWASPの支配するバタフライとサスペンダーの投資顧問には入るのが難しかった。アメリカには、表向きには見えない差別が存在していた。また、MITでも、昔はインターネット、次にメディア、今はゲノムで長者が多い。ウォーターフロントの住宅値上がりの原因になっているくらいだ。世の中、専門性の選択で流転する。能力主義人生も投資ではなく投機に近い。

 今は、白人内部、白人とマイノリティ、経済と教育格差が広がっているのを実感した。アメリカには職人を尊ぶ文化がないのも問題だ。京都では職人と白足袋を重んじる。

 フローは分かりにくいが、読んで面白い。ロールズの正義を事前に読んだ方が良い

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