カニは水から出ている時もエラ呼吸をしているそうです。
体内の水をたくさん空気に触れさせて酸素を取り込もうとして、泡を吹くのだとか。
体内にためている水のおかげで陸上でも何とか呼吸できているとはいえ、
あまり長い間水から出しておくのはかわいそうなので、
カニのための迷路や家を作る際、カルキ抜きをした水を全体にかけています。
自分たちが作った作品が水に浸かる瞬間、
子どもたちのはしゃぎ声がはじけていました。
「カニはね、狭くて暗くてじめじめしていて、切り口がガタガタしてたり、
壊れそうだったりする家が好きみたいよ」とカニの好みを話題にすると、
俄然、子どもたちの工作熱に勢いがつきます。
人間の常識とは正反対のカニの好みを耳にしたとたん
子どもの内面からやる気が溢れてくるあたり
現代の子たちは、何をするにしても、上手さとかていねいさとか正しさとかより
優れていることなどの無言のプレッシャーにさらされているのかもしれませんね。
子どもはもともと、ひとつのことに興味を持って関わりだすと、
自発的に、もっと上手にもっとていねいにもっと正しくやり遂げようと努めます。
でも、そうやってねらいを定めて集中した状態に入る前には、外からの
何の評価もない世界で、気の向くままに遊んで試して感じる時間も必要です。
大人の目がないところで子どもだけで遊ぶ世界が保証されていた時代には、
子どもが実際にやってみて面白いと感じて、自分もやってみたいと思うまで、
上手かとかきちんとできているかとかミスしていないかなんて気にせずに
ただただ遊びに興じる時間がありました。
全然できていなくても、
自分がすごいことができるんじゃないかと思っていることができたし、
できない状態で遊んでいたら、面白いからもっともっとやりたいと感じて、
いつの間にかできていた……という体験もできました。
子どもの世界に大人が侵入しすぎると、
子どもの気持ちをまだ芽も出ないうちから枯らしてしまいますね。
ちょっと失敗したような出来栄えの家を好んだり、
ごてごてと後から付け加えた部分に隠れたりする
カニは、子どもたちを従来の子どもの世界の価値観に戻してくれるようです。
これまでさまざまな年齢の多くの子たちがカニ迷路とカニハウスを
作っていきましたが、どの子も、リラックスした状態で、普段より集中し、一生懸命に
物作りに取り組んでいました。