虹色教室通信

遊びや工作を通して 子どもを伸ばす方法を紹介します。

子どもの自尊感情を伸ばす5つの原則 4

2021-04-25 19:41:20 | 自己肯定感を育む

『自尊感情を伸ばす5つの原則  親から子へ 幸せの贈り物』
玉川大学出版部

の中には、乳幼児時代の子の自尊感情を育てるための
具体的な例がいろいろ載っています。
それらを読んでいると、日本の子育ての場で「そうすべきだ」と信じられている方法の多くは間違っているか、
もっと成長した大きな子のための方法なのです。
そのため親は愛情から
子どもの自尊感情が低くなるように努力することもよくあるのです。

たとえば、赤ちゃんが泣くたびにだっこしている母親に、「泣けば抱いてもらえると思い込んで、ささいなことでも泣いて甘える子になるわよ」と忠告する人がいるとします。その母親は赤ちゃんがしっかり育つように、愛情から泣いても放っておくようになるかもしれません。

こんなとき、自尊感情を育てるという点からすると、乳幼児のうちは、どうすればよいか迷ったら、子どもの要求に応えるのがよいとされています。
子どもは自分の欲求や要求が聞き入れられるので、自分は尊重に値すると感じるようになるのです。

また、早すぎる新しい経験を無理に押し付けると、
自尊感情が低くなると言われています。
この著書には、もうすぐ2歳になる子をプールに連れて行った父親を
例にあげて、どのような場面で子どもの自尊感情が犠牲になるかしるしています。
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はじめてのプールでぐずりだした男の子に水しぶきがかかり、子どもはさらに泣き出しました。
「泣くな。水は怖くないよ。いつもお風呂に入るよね。これはいっしょだよ」
お父さんはそう言って、子どもに水をパシャッとかけました。
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こんな場合、父親は子どもの言葉で表現できないメッセージを無視すべきではなかったのです。子どものしるす興味や準備状態を観察して
体験を用意するか、子どもが新しい体験に慣れるまでもっとゆっくり関わるべきだったのです。

こんな例もありました。
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3歳の子が親の言うことを聞かず、椅子から椅子へ渡っていて、
滑って床に落ちました。「痛いよー」と泣く子に
「だから言ったでしょ」と母親は冷たく言いました。
この母親は「痛かったね」と子どもの話を聞いてあげることもせず、最初に子どもが言うことを聞いていなかったことを叱りました。
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こうした冷たい対応が長期間繰り返されると、
子どもは自分が大切にされておらず、自分は必要とされない存在だと思い込むそうです。
子どもたちがやってはいけないことをして怪我をしても、
心から心配していることをしるすなら、子どもたちは愛されていると自分たちの存在に価値を感じるのです。

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うちの子たちがまだ小学生だった頃、
私は地域の子育て支援の仲間たちと児童館での会議に参加していました。
当時の小学生たちの流行は、バトル用のカードを集めることで、その日、親といっしょに会議についてきていた★くんも、お母さんにとめられるのも聞かず、自慢のカードを大量に持ってきていました。
こうしたカードの一部は、レアものとして、1枚何千円もの値がつくものもありました。
★くんは、お小遣いの全てをこのカード集めにつぎ込んでいて、
他の子が手に入れられないようなレアカードをたくさん持っていることが自慢でした。

この日、親たちの会議が半分くらい過ぎたとき、「あっ、忘れてた!」と言って、★くんが児童館の庭に飛び出していきました。その後、血相を変えた★くんが、今にも悲鳴をあげて泣き出しそうな様子で、「自転車のカゴに忘れていたカードがないんだ」と告げました。

私たちも会議そっちのけで、★くんのカード探しをはじめました。
私が児童館の読書室を覗くと、ちょっとつっぱっている小学高学年のグループがふんぞり返ってマンガを読んでいました。
「自転車の前カゴにカードが入った袋を置いていたら、なくなってしまったという子がいるの。あなたたち何か知らないかしら?」とたずねました。
すると、そのグループのリーダらしい子がニヤニヤしながら、
「おばはん。おれら疑ってんか?」ドスをきかせた声で問い返しました。
「ただ、知らないかたずねているだけよ。このくらいの巾着袋に入っているんだけど、もし見かけたら教えてちょうだい」
ちょと厳しくそう言うと、
あの子たちが関わっているとしたら見つからないかもしれないな……と思いながらその場を離れました。

会議をしていた部屋に戻ってみると、
「だからあれほど持ってきたらダメって言ったでしょう!もう買わないからね」とガミガミと叱られ続け、他所のお母さん方からも、「大事なものは持ってちゃダメよ」と注意を受け続けて、涙を流している★くんの姿がありました。
何だかいたたまれなくなって、私がもう一度、自転車が置いている場に行くと、背後からしょんぼりした★くんが近づいてきました。
小さな声で「カードがなくなって残念だったね」と言うと、目に涙を浮かべながらも気丈に自分に起こったことを受け入れようとする表情が浮かんでいました。

私が、「大事なものを持って来ちゃダメよ」とか、「忘れ物がないか、その場を離れる前にチェックしなさい」と言わなかったのは、
私もよく忘れ物をしては、★くんと同じような苦渋を嘗めることがよくあるからなのです。
自分自身がショックのあまり口もきけないような時に、はたから、「ああしなかったから」とか「こうしておけばよかったのに」とかいろいろ言われるのはよい気がしませんから‥‥‥。

ですから、我が子に同じようなことが起こった場合、取りあえず失った物をいっしょに悲しんでから、「今度からどうすればいいかな?」と子どもにたずねる甘めの対応になりがちです。

でもそれでもいいんだな、それだからこそいいこともあるんだな‥‥‥と思うのは、失敗したときに、「だからこう言ったのに‥‥‥」とぐずぐず言われることなく、ただ共感してもらって、次の改善策を話しあえる状態にしておくと、子どもは勇気を持って自分のした失敗を反省して、「次はこうしよう」と決意するようになるのを見てきたからです。

この★くんも、
自分がこれまで他の欲しいものも我慢して懸命に集めてきたものを
一瞬の判断ミスで全て失ってしまったという事実、
これから友だちとカードを見せ合うときには、一番下の立場になるかもしれないという不安、
世の中には盗みをするような悪い人もいることへのショックなどを、
たったひとりでグッと飲み込んで、乗り越えようとしていたのです。

「もう一度だけ探してみようか?」と問うと、誰を責めるでも、愚痴るでもなく、ただ私の手を取って静かに周囲に目を配りつつ歩いていました。
最後に、「大丈夫? がんばれそう?」と聞くと、こっくりしました。

誰だって失敗やミスはつきものです。
しょっちゅう失敗している人も、ごくたまにしか失敗しない人もいるでしょうが、どちみち失敗をしないで、生きていくことなどできないのです。

ですから誰もがぶつかる失敗に対して、失敗したとたんに「ああしておけば、こうしておけば、ああしないから、こうしないから……」と、
寄ってたかって責めたてても、欠点がなおるどころか、
自尊感情が低くなって、
自虐的になるか、他罰的になるかどちらかにしかならないでしょう。

子どもたちの育ちを支援する大人たちは、

ひとつひとつの出来事から
子どもが自分で生き方の指針を見出していけるように

自尊感情を育てるガイドラインを常に心の片隅に置いておくことが大切だと感じています。




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1 コメント

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Unknown (ジェリー)
2021-05-01 00:32:18
ご無沙汰しております。
★くんは奈緒美先生の温かく受容的な関わりのおかげで
ミスを振り返り、どうすればよかったのかを知ることができたでしょうね。
子どもが大切にしていると知っているからこそ、親は出来るだけ子どもを悲しみから遠ざけたいし、落胆する姿を見たくなくて、探してもらってる人に申し訳なかったり、腹が立ったり…いろんな想いが混じり合って叱責してしまいますね。私にも心当たりあります。
一番に願う、自分ってまぁいいんじゃない?の感情。守りたいものです。
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