年中のAくんは三人兄弟の真ん中さん。頭脳パズル好きで集中力や根気のあるお兄ちゃん、
甘え上手で人から学ぶのが上手な弟君にはさまれて、
普段は目立たないことが多いのです。
「家では、ひとりの子の話を聞き終わる前に兄弟が割り込んで、きちんと
聞くこともできないので、たまにこの子だけの時間を作ってあげたい」
というお母さんの希望で、少し前から、
兄弟とは別に、Aくんだけが虹色教室に通う日を設けるようになりました。
そうしたAくんのレッスン日に、こんな出来事がありました。
ブロックをどんどん積み上げるうち、どれだけ高く積めるか確かめたくなったAくん。
Aくんの背より高くなったところで、教室にある1メートルまで測れる長い物差しを出してきて、
天上からぶらさげたバネを使って物差しをブロックのタワーの横に立てると、
Aくんの目がきらきらと輝きだしました。
そして、「こんな長い物差しお家にもあるよ」と言いました。
それを聞いたAくんのお母さんが、Aくんのかわいい間違いを面白がる様子で、
「こーんな長いのはないかなぁ?」と言って笑いました。
「そんなことないよ。あるよ、ほら、お父さんの~」とAくんは必死になって
お母さんに説明していました。
Aくんはとても観察力がある子で、虹色教室でも、2、3歳の頃から、
見たものを正確に表現しようとする姿や自分の頭で考えたことを
別のものと比較しながら言い表そうとする姿がありました。
「そんなAくんが、懸命に『ある』と言い張るのだから、
身長計とか50cmの長めの物差しなど、何か根拠となるものを
目にしたんだと思いますよ」
そんなことを話していると、Aくんのお母さんが急に思い出した様子で、
「そういえば、あります。あります。1メートルの物差しが。
Aの祖母が使っていた洋裁の物差しで~」とおっしゃいました。
やはりAくんは正しかった……!?
算数の時間、子どもは買い物したいだけ(教室の)ATMでお金をおろすことができます。
Aくんは、「500円ほしい」と言いました。
「Aくん、お店の品物は全部10円だから、500円分も買うとしたら、
50個も品物を選ばなきゃいけないよ」と言うと、
それでも、「500円がいい」と言います。
「10円、20円~」とがんばって数えていき、500円分買い終えました。
買い物も大変です。
火山を噴火させる実験をした後で、大好きな水の中の生物を海や川において
遊びました。そして、いっしょにいろいろな魚の載っている本を読みました。
本には、恐ろしいピラニアの写真と説明が載っていました。
それを見たAくん。
「お父さんは前にピラニアを飼っていたんだよ」と得意そうに
言いました。
それを聞いたお母さんが思わず吹きだして、「ピラニアは、ちがうわ。ピラニアは飼っていないと思う。
そんな怖い魚は飼ってないと思うよ。
別のピのつく魚かな~?」とまたもやAくんのかわいらしい間違いを訂正するように、
笑いながら言いました。
「ちがう。ピラニアを飼っていたって、お父さんは言ってたんだよ。ピラニアなんだよ」
Aくんは必死になって、言い張っていました。
その翌日、教室が始まる前にAくんのお母さんから電話がかかってきました。
Aくんの名誉挽回のための電話でした。
何とお父さんは、昔、本当にピラニアを飼っていたそうなのです。
Aくんが正しかったのです。