金木犀、薔薇、白木蓮

本と映画、ときどきドラマ。
★の数は「好み度」または「個人的なお役立ち度」です。
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227:酒見賢一 『後宮小説』

2006-10-18 11:15:53 | 06 本の感想
酒見賢一『後宮小説』(新潮社)
★★★★★

第1回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。
子どもの頃、これを原作にした『雲のように風のように』という
アニメを見て泣いたもんです。
恩田陸さんが、小説を書き始めたきっかけとしてこの本を
何度か挙げていましたね。

素乾王朝の末期、庶民から正妃となった少女・銀河。
皇帝を亡き者にしようとする陰謀、反乱軍の蜂起の中で、
後宮軍を組織して戦うことになる。
史料をもとに筆者が想像をふくらませて書いた歴史小説、という
かたちをとっているのだけど、これがとても上手い。
アニメを見ていたときは、子ども心に「架空の物語だ」と
わかっていたのだけど、本を読み始めたら、
「この頃日本は江戸時代なんだよね?」
「こんな王朝あったっけ?」
「こんなおもしろい話があったらさすがに知ってるはずだろう……」
「ってか、どこがファンタジー?」
と、どんどん自信がゆらいできた。
世界史を途中で放棄していて疎かったせいもあるけれど、
史料がばんばん出てくるし、荒唐無稽な話なのに妙なリアリティがあって
すっかりだまされた。
読後、世界史の年表で確認してしまったよ

銀河をはじめとする後宮の少女たちのキャラクターが良い。
滅びゆく王朝の悲しさもあって、銀河と皇帝の別れのくだりでは
思わず涙……
一般的な「ファンタジー」ではないので、苦手な人も
歴史小説のように抵抗なく読めると思います。
名前を知りつつあまり興味を持っていなかった作家さんですが、
ほかの作品も読みたくなりました。
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226:たつみや章 『ぼくの・稲荷山戦記』

2006-10-18 10:39:36 | 06 本の感想
たつみや章『ぼくの・稲荷山戦記』(講談社文庫)
★★★☆☆

昨日読了。
講談社児童文学新人賞受賞作。
何度も図書館で目に留めつつ、並んだタイトルを見て
「この著者の本は合わなさそうな気がする…」
となんとなく手を出しかねていたのだけれど、
文庫落ちしたのを機に購入。
実際、語り口や人物造形は好みではなかったのだけど、
話としてはおもしろかった。

環境問題、自然保護をテーマとしたファンタジー。
ある日家にやってきた、お稲荷さんのお使いだという守山さん。
稲荷山の開発を止めるため、中学生のマモルは守山さんとともに
開発をすすめる四井商事と戦うことになる。
ファンタジーなのだけど、話の展開は現実的。
子供だましになっていないところが良い。
お父さんが本当に都合よく「お留守」なのと、
主人公がただの狂言回しになっているのは気になるけれど、
説教くささをあまり感じさせず、
じんわり感動させるような作品に仕上がっているのは見事。

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225:伊藤たかみ 『アンダー・マイ・サム』

2006-10-18 10:31:40 | 06 本の感想
伊藤たかみ『アンダー・マイ・サム』(講談社文庫)
★★★★☆

昨日読了。
右手の親指が長いことを気にする17歳のしゅんすけに、
うまくいかない家族関係に苛立つ清春、顔に傷を残すみゆき。
それぞれの傷を抱えて、悩み苛立つ17歳の日々を描いた青春小説。
「当時の僕は、これ以上、とても十七歳でいられないと思った」
「十七歳であることを憎んだ」
というのは帯にも抜粋されていた文句だけれど、
テーマはそこなんだろう。
どうすることもできない苛立ち、やりきれなさ、閉塞感。
あったなあ、と思うし、今だってあるなぁ、と思う。
最後がやたら前向きで陽気なのがひっかかるのだけど、
このとってつけたような明るさがあったからこそ、
やりきれないできごとがあったわりには読後感が悪くなかったのかも。

当たり前のように万引きしたり、
ナンパした女の子と簡単に寝ちゃったりしながらも、
父親につきあって買い物に行ったり、
みゆきを気遣ったりする優しい主人公。
毎度のことながら、伊藤さんの描くティーンズの男の子には
胸キュン(死語?)です。
言葉遣いがいちいちかわいいの。
かなりファンモードになってきた。

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224:酒井順子 『負け犬の遠吠え』

2006-10-18 00:27:04 | 06 本の感想
酒井順子『負け犬の遠吠え』(講談社文庫)
★★★★☆

ご存知、流行語にまでなったベストセラーの文庫版。
「未婚、子ナシ、三十代以上」というのがこの本による
「負け犬」の定義。
ずいぶん激しく賛否両論があったようだけど、
そんな目くじら立てるほどのこと??
自他ともに認める「負け犬」予備軍のわたくしですが、
十代後半、二十代前半のうちにこれを読んでいたら、
かなーり心がけも変わったであろうよ!と思う。
読後、かなり神妙な気分になったものね。

著者の冷静な分析と、ときどき差し挟まれるおどけた語り口が
おもしろい。
そうねー確かに「JJ」も読んでなかったし、長期的展望も持たず、
この本に即して言えばずいぶん時間を浪費してしまったものよ。
「負け犬にならないための十ヶ条」では現段階で五つ×がついた。
きゃー!

これを読んで結婚する人が増えた、というのはよくわかります。
結婚した友達に悪気なく差別意識を見せつけられた、という
エピソードのところでは、「絶対言われる……!」と
言いそうな友達の顔とシチュエーションまで思い浮かべてしまった。

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223:小堀杏奴 『晩年の父』

2006-10-18 00:13:23 | 06 本の感想
小堀杏奴『晩年の父』(岩波文庫)
★★★★☆

鴎外が亡くなる直前一年を綴った表題作のほか、
「思出」、「母から聞いた話」を収録。
表題作では冒頭ですでに泣きそうになってしまったけれど、
姉の森茉莉の水飴みたいな甘い思い出話に比べると、
基本的に筆致は冷静。
かといって長男於菟ほど理性的でもなく、
母と祖母との対立については、茉莉よりも感情的?と思わせる。
(まわりに注意が向いているかどうかの違いという気もするけど)
茉莉と不律の安楽死事件についてのくだりなどは、
於菟を擁する祖母&親類たちと、母しげとの間にあった確執の深さを
感じさせて、ちょっとげんなりしてしまった。
誰が悪いというわけでもない、当時の家族制度の弊害だと言いつつ、
祖母を嫌いだと言い、全面的に母の味方であるという著者の姿勢にも
その影響が表れている。



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