三角洋一 校訂・訳注『石清水物語: 中世王朝物語全集5』
★★★★☆
【Amazonの内容紹介】
武家の伊予守が主人公の異色作。上下二巻から成る中編。
成立は後嵯峨院時代とされる(在位1243~46、院政~72)。
父大臣に知られず、常陸国で生まれ育ったヒロイン木幡の姫君は、
父大臣に知られず、常陸国で生まれ育ったヒロイン木幡の姫君は、
兄妹とは知らぬ秋の君の接近、後見役の伊予守との密通、
入内取り止め、老人の中務宮との結婚、
帝による略奪という曲折を経て女御にまで昇り、
伊予守は出家する。
男主人公の側から見れば悲恋遁世談で、
男主人公の側から見れば悲恋遁世談で、
女主人公の側からいうと女の出世を描いた物語。
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鎌倉時代の物語。
「主人公が武士。ひとりの姫君をめぐる
恋敵同士の男たちがなぜかBL展開」
という噂を聞いて読んでみた!
栞に解説がついていたのだけども、
モデルとなった人物について、
男主人公:木曽義仲、源通親
女主人公:松殿基房の娘・伊子、承明門院在子
とされていてびっくり。
最近、興味しんしんの人々。
さて、本編について。
「主人公は武士とされているけど、
描かれ方は公家とそうかわりない」
みたいな評を見かけたことがあったけど、
わりとしっかり武士してる。
そもそも、姫君に恋したのが、大番役で上洛したときのこと。
東国の兵乱にも出兵してる。
ただ、「イケメンだからすべて許される」みたいなとこが
公家の価値観なのかもね……。
冷え切った関係の妻も「イケメンだからいいわ」みたいな。
あとね、BL展開については、正直、
「憎い恋敵なのに、何? この気持ち……」
みたいなのを期待してた!!
違った!!
「姫に言い寄ってたけど、実の妹だとわかって
恋をあきらめざる得なくなった公達(秋の君)」と
「血はつながってないけど、父が姫を養育していた縁で
後見人となった武士(鹿島)」が姫を介して出会い、
初対面で好感度マックス(互いにイケメンだから……)。
公達のほうが
「なんか好きになっちゃった! そばにいて!」
って言いだし、主人公の鹿島も、
姫と関わりを持ちたい下心はあったにせよ、
秋の君に惹かれる気持ちもあって、
何の葛藤もなくBLな世界に突入。
鹿島「姫のこと諦めてないんだろうな……」
秋の君「ひょっとして密通した……?」
と薄々感じつつも、ぶつかり合うことなく、
割と平穏に関係が維持されている。
「イケメンだから許される」展開は、他にもある。
「だれかと密通した」というお告げによって
入内が取りやめになった姫が、
老人の中務宮に嫁がされるんだけど、
無理矢理関係を持った鹿島を嫌がっていたのに、
老人の夫に比べたら若くてイケメンだったといって
急に評価が上がってしまうんである。
この中務宮、本当にかわいそう。
口では言わないけど、みんな彼を馬鹿にした
振る舞いをするんだもん。
「老人なのに若い後妻を望んだ」のがよくないのか?
でも求婚を受け入れたの、姫の父じゃん。
養女だったのに左大臣の後妻になった女性が、
女性としての評価はあまり高くないんだけど
実務能力に優れているのは、おもしろい。
当時、女性の性格として良しとされたのは、
「おっとりしている」
「恥じらいを持っている」
なんだな。
意外にしっかりとストーリーに起伏があり、
おもしろかった。
ただ、古典文学の常で、名称が一定しないので
一読しただけでは登場人物やその関係が
なかなか頭に入ってこない。
この本では、家系図と現代語訳、梗概、すべてで
登場人物に番号が振ってあって、
名称が変わっても同一人物であることが
わかるように工夫がされている。