「身の丈を知れ」など否定的な意味合いで使われることが多いと思いますが、今回は文字通り、自分自身の大きさという意味で考えてみたいと思います。
経営学の有名な法則で、「ピーターの法則」というのがあります。一言で言うと「人間は自分の無能さが証明されるまで昇進を続ける」ということですが、これだけでは何のことか分からないでしょう。組織の中での上級管理職、中間管理職、初級管理職、一般職という職階・地位は、単なる偉さではなく、能力の違いを表してします。主任・係長などや軍隊で言えば曹長・軍曹など下士官は、最前線の現場の指揮するため、現場の技術的能力に長け、部下たちを鼓舞し動かすヒューマンスキルも必要になります。部長・課長、あるいは左官・尉官などの士官は、部下へのヒューマンスキルだけではなく、同僚や上司など横や上へのヒューマンスキルも必要になりますし、戦術的なコンセプチャルスキル(概念化能力)も必要になると言われます。そして、役員クラスや将官クラスの上級管理職は、それらの能力に加えて、戦略的なコンセプチャルスキルや、曖昧な状況においても、使用できる情報と自らの能力を活用して極めて高度な意思決定をすることが求められるようになります。つまり、必要な能力は連続しているのではなく、ステージが変わるごとに、不連続になっているので、例えば、優秀な部長が必ずしも優秀な役員になるとは限らないということです。しかし、それはやってみないと分からないため、優秀な係長は普通課長に昇進し、優秀な課長は部長に、優秀な部長は役員へと昇進していきます。そして、自分の能力にあまる職階に就いた時に初めて昇進が止まる=自分の無能さが証明されるまで昇進を続ける、ということです。
一方で、「地位が人を作る」ということも言われます。つまり、自らの能力よりも少し上の地位についてもその地位に就くことで、人間の器が大きくなり、その地位にふさわしい人間になっていくということです。しかし、これは誰にでも当てはまることではなく、やはりそれにふさわしい能力を持っている人に言えることでしょうね。能力のある人は、早め早めに地位につけていった方がいいという、抜擢人事や早期育成の考え方でしょう。あるいは、戦国武将や軍隊のように、生きるか死ぬかの状況では、地位が人を作るような状況があるような気がします。
しかし、普通の会社組織などでは、地位が人を作るというよりは、やはりピーターの法則が勝っているように思います(って別に私の会社のことだけを言っているわけではありませんが)。役員室や社用車など地位に付随する特権によって「偉い」人が作られるケースが少なくないような気がします。
スポーツ界は実力勝負で普通は地位がないので、こうしたことと無関係ですが、相撲界には明確な地位がありますし、巨人の四番のように擬似的な地位もあります。
その相撲界では、地位を巡る二つの問題が相次いで起きたのは象徴的ですね。まさにピーターの法則そのままに、コツコツ下働きから始めて、定年が見えてきた頃に一門から押されて、理事(役員)に収まるシステムが、改革を求める世論にも影響されて、貴乃花親方が当選したのは記憶に新しいところです。
そして、もう一つの地位は言うまでもなく横綱です。「横綱の地位を汚さぬよう精進します」というセリフが一般的なように、相撲の力だけでなく、その地位にふさわしい人間になることが求められます。白鵬は双葉山を尊敬するなど、その地位にふさわしい人間になろうと「努力」していることは伺えますが、まだまだ努力している段階ですね(その心がけは十分に立派ですが)。その点、朝青龍は相撲をスポーツとしか思っておらず、横綱という地位に求められるものを十分に自覚していなかったと言われても仕方ないでしょう。
巨人の四番も擬似的な地位ですね。川上、長嶋、王という巨人だけでなく、日本球界を代表する選手が据わってきた打順なので、そのように擬せられます。その後を守った原辰徳は非常に苦労しましたし、その後は落合、清原、石井、広沢、江藤、ローズ、小久保などいろいろな選手が四番に座りましたが、真にその地位にふさわしかったのは、松井秀喜くらいですね。そして、今は移籍組ですが、小笠原がその地位を自分のものにしつつあります。
閑話休題。では、このピーターの法則を予防する方法はないのでしょうか。必ず予防できるわけではありませんが、一つには、自分自身の能力や考えていることに自覚的であることが必要でしょう。以前にも書きましたが、「メタ認知」というものです。その上で、その地位にふさわしい人間たるべく努力をすることです。先に地位が人を作るのは、それにふさわしい能力を持っている人だけと書きましたが、松井秀喜ではありませんが、「努力できること」も立派な能力だからです。
散ドラ諸君も努力で自分自身の身の丈を大きくしてほしいですし、私も公私ともにそういう努力をしていきたいと思います!がんばれ!散田ドラゴンズ!!