オルガンのリューベン・ウィルソン、ドラムスのバーナード・パーディ、ギターのグラント・グリーンJr.が組んだ「マスターズ・オブ・グルーヴ」による新作を買いそびれてから放っといたのだが、気がついたら、なぜか「ゴッドファーザーズ・オブ・グルーヴ」名義になっていた。しかもジャケットは文字以外同じだ。何かあったのだろうか・・・なんにせよ、聴きたかったので入手し、繰り返しかけてツマに呆れられている。
これが以前買いそびれたCD(Amazon.comで品切れになっている)
メンバーはうわっと言ってしまうくらい「コテコテ」である。リューベン・ウィルソンは『Love Bug』(Blue Note)などのジャズの傑作を60年代に残しているものの、その後は、すくなくとも日本においては、なかばリアルタイムの存在としては忘れられた人物だったに違いない。ノリノリで臭い「ソウルジャズ」に、多くのジャズファンが眼を向けるようになるのはそんなに古い話ではない。バーナード・パーディも、ジャズという面から云々されることは少ない(浅川マキが好きなドラマーとして挙げていた記憶がある)。そしてグラント・グリーンJr.は、あのグラント・グリーンの息子であるがために、色眼鏡で見られることが多かったように思う。偉大な親父の磁力圏から逃れるために、グレッグ・グリーンと名乗っていたこともあった。
かく言う自分も、2002年にロンドンを訪れた際、空いた時間で何か聴きに行こうと思ってホテルで調べたら、このトリオの予定を見つけ、リューベン・ウィルソンってまだ健在だったのかと知ったのだった。20時以降まで仕事をした後で疲れていたが、ヨーロッパの夜は遅いから、カムデンタウンにある「Jazz Cafe」というライヴハウスに電話で予約を入れ、地下鉄で出かけた。電話口では、「席はないが入れる」とのこと、意味がよくわからなかったが、到着してわかった。オールスタンディングだったわけだ。
パーディーが前に歩みでてきて「俺たちゃマスターズ・オブ・グルーヴ!!」と大きな身体を揺すりながら叫ぶところからはじまった。パーディーのドラムスが良いのは勿論だが、リューベン・ウィルソンのオルガンには驚いた。ネジが外れているのでもないが、平気で外れていき、オルガンの猥雑さをドバドバと開陳するような勢い、悪ノリも含めてイケイケドンドン。若いのはグリーンJr.だが、余裕があって、アドリブのフレーズを歌いながら弾く格好良さ。フロア中が大興奮とはあのことだった。自分も疲れていて、立ちっぱなしで、空きっ腹にあのロンドンの大きなビールを流し込んでいたので、途中で後ろに倒れそうになって、後ろの人たちがおっとっとと支えてくれたのが哀しい思い出である。
演奏が終って、興奮した皆がステージに上がって、CDを買ったりサインを求めたりした。私も3人のサインを貰い、リューベン・ウィルソンに直接お釣りを貰ったり(笑)して、ほくほくしていると、他の英国人が鼻息荒く「CDはどこで買えるんだ!?」と訊きつつステージに突入していったことを覚えている。
そのときの『MEET DR. NO』(Jazzteria、2001年)では、トリオにベースとゲストを加え、「ジェームス・ボンドのテーマ」なんかを演っているのが楽しい。そして今回の『THE GODFATHERS OF GROOVE』(18th & Vine、2006年)も魅力が爆発している。ロバート・ジョンソンの「Sweet Home Chicago」もいいし、グリーンJr.が歌っている定番「Everyday I Have The Blues」も嬉しい。グリーンJr.は、「Just My Imagination」では、アドリブにあわせて調子にのりやがって歌う。難点は、気持ちが良すぎて聴いていて寝てしまうことだ(笑)。
リューベン・ウィルソンは、自分のリーダー作『Organ Blues』(Jazzteria、2002年)では、同じトリオにサックスのメルヴィン・バトラーを加えている。これが甘いテナーで、好みもあるだろうが、どうも合わない。せっかくの「After Hours」などのブルージーな曲がユルユルのだらしないものになっているのだ。昔の『Love Bug』(Blue Note)では、渋くて固いジョージ・コールマンのテナーサックスを加えて大成功しているのに。この中におさめられた、バカラックの「I Say a Little Prayer」は、ローランド・カークの演奏と並んで、とても好きな演奏である。