Sightsong

自縄自縛日記

『A POWER STRONGER THAN ITSELF』を読む(1)

2008-06-02 23:59:17 | アヴァンギャルド・ジャズ

シカゴAACM(the Association for the Advancement of Creative Musicians)の歴史に関する書、『A POWER STRONGER THAN ITSELF』(George E. Lewis、シカゴ大学出版、2008年)は、600頁をゆうに超える大著である。とりあえず読み始めたが、何しろ時間がかかるので、ちょっと読んでは印象的な部分を記しておきたいとおもう。

著者のジョージ・ルイスはAACMのトロンボーン奏者だ。1997年12月、AACM創始者のムハール・リチャード・エイブラムスにインタビューを始めたというから、10年以上をかけたプロジェクトということになる。その前には、1981年に、ワダダ・レオ・スミスとジョセフ・ジャーマンが同様のことを行い始め、AACMの歴史を編纂しようとしたものの未完に終ったようだ。

なぜ通史の作成が難しかったかといえば、AACMのメンバーが、それは内部の者こそがまとめるべきだと考えていたことにもあるようだ。それと関連して、ジョージ・ルイスは、オーラル・ヒストリーのようなものにこだわっている。このあたりの事情や思いが、序文や導入部で繰り返し述べられている。

第1章は、設立と前史。1930年生まれのエイブラムスや、1927年生まれのマラカイ・フェイヴァースなどが、幼少時のシカゴの様子について語っている。貧困、子どもの犯罪、狭い家、白人寄りの教育。そんななかで、当初は音楽よりもスポーツなんかが好きだった彼らだが(とは言っても、お互いに知っていたということだ)、チャーリー・パーカーやディジー・ガレスピーなどビバップとの出会いを契機に、音楽に没入していく。教育環境はといえば、黒人の学校においても、ジャズは教える対象ではなく、「悪魔の音楽」であったという。

面白いのは、フェイヴァースがベースを習ったウィルバー・ウェアについての感想だ。ウェアからの影響が多大であったとしつつも、「ウィルバーは何も教えることができなかった。どうやって説明するのか知らなかったのだ」と語るように、「耳の音楽家」だった。現在から考えれば、このような偉大さが成り立っていた土壌がそこにはあったということか。

1929年生まれのサックス奏者、フレッド・アンダーソンについての逸話も面白い。「誰からも影響されず、誰にも追随しない」ことを公言するこの魅力的な人物は、一度たりともダンス・バンドやスクール・アンサンブルで演奏しなかった。いまだ健在、ぜひ一度演奏を目の当たりにしたいとおもう。このような独立独歩の人が寄り集まったAACMが、コレクティヴ・ミュージック的な力を発揮し続けたのだ、と言うことができるだろうか。

時代は1950年代、次第に経済の力が音楽の場をも支配しはじめてくる。商売になりやすいジャズ以外の音楽には、成立が難しい面も出てくる。そのような目で、商売そのものであるノーマン・グランツの「Jazz at the Philharmonic」を眺めることは興味深い。


私の好きなアンダーソンのアルバム、スティーヴ・マッコールとの凄絶なデュオ『Vintage Duets』(Okka Disk、1980年)