こんど「中東カフェ」(>> リンク)に登場させていただく関係で、この研究プロジェクトを進めている酒井啓子教授(東京外国語大学大学院)より、本書『イラクは食べる―革命と日常の風景』(岩波新書、2008年)を頂いた。さっそく読んだ。
米英が軍事的に介入したイラクにおいて、さまざまな歪みが生じてきた。歴史的な背景と結びついた必然であったり、新たな解釈を必要とするものであったりするようだ。この、ことあるごとに現象として現れる歪みを、本書では、日常的にイラクの人たちが食べてきた食事メニューとともに提示している。中東に関しては私はトーシロなので、非常に新鮮な切り口として読むことができた。
それにしても、ここで紹介される料理はどれも旨そうだ。羊挽肉の肉団子、野菜の肉ご飯詰め、挽肉を潰した米で包んで揚げたお握り、野菜や肉と米を煮込んだ鍋をひっくり返したドーム状の料理など、手が込んでいる。レシピも付いているので休日に作ろうかな。
興味深いのは、サマーワでの自衛隊の受け止められ方だ。安全に非常に気を使った「見えない軍隊」は、その企図した貢献ではなく、むしろイラクへの経済的支援のシンボルとして捉えられていたということが、検証しながら示されている。また、そもそも日本を含め、イラクの復興ビジネスから利益を得るためにこそ、米国の軍事政策に追随したのだということも。
さらには、日本のメディアにおける報道が、日本の意向に見事に沿ったものとなり、「自己責任論」などを含め世論の形成に大きく影響したことが、特筆すべき点として指摘されている。これが当分風化しないであろうことは、最近また浮上した「自己責任論」とその社会の反応を見てもわかる。「自己責任論」は、個々の市民がミニ為政者化し、権力の中二階に自らの身を置くような、極めてアンバランスで醜いことなのではないか。