カーラ・ブレイ+スティーヴ・スワロウ『DUETS』(WATT、1988年)が好きでよく聴いている。というのも、渋谷毅オーケストラ(渋オケ)が頻繁に演奏していた曲を探して辿り着いたわけで、1990年代半ばに大好きだった渋オケが自分にとっては先である。
それにしても何とも言えないジャケット。このふたりは手をつないで歩いてみたり、ラブラブである(死語?)。やはりデュオによる映像を持っているが、写真などより凄まじい。ピアニストとベーシストがお互いに見つめ合い、目を潤ませ、切ない顔で身をよじらせながら官能的に演奏する。見てはいけないものを見てしまったような気分になるのだ。それに比べれば、CDならば落ち着いて聴くことができる。
ここに収録されている渋オケのレパートリーは、「Reactionary Tango」、「Utviklingssang」(ライヴでは、渋谷さんは大体誤魔化して発音していた)、「Soon I Will Be Done With The Troubles Of This World」の3曲。2曲はカーラのオリジナル、「Soon・・・」のみトラディッショナルをカーラがアレンジしたものである。どれも哀しさと悦びが混じっていて良い曲だ。
渋谷毅が『DUETS』を聴いて演奏しはじめたことは、『LIVE '91』(Carco、1991年)の「Soon・・・」のキャプションにわざわざそう書いてあることでわかる。「Soon・・・」では、石渡明広の蛍光ペン一色のような(と、昔誰かが表現していた)ギター、峰厚介のテナーソロが聴きどころである。この盤には「Reactionary Tango」も入っており、松風鉱一(師匠)のフルートソロを聴くことができる。
「Utviklingssang」は、『酔った猫が低い塀を高い塀と間違えて歩いているの図』(Carco、1993年)に登場する。林栄一のノイズをまき散らす、切ないようなアルトソロが嬉しいところ。
そして「Soon・・・」は、『ホームグランド・アケタ・ライブ』(AKETA'S DISK、1999年)でも演奏している。石渡明広のギターソロはより個性的に聴こえる。また、松風鉱一のバリトンサックスが支えているのも耳が悦ぶ。この曲のあとに、渋谷毅のピアノソロ「Lotus Blossom」で盤が締め括られるのだが、これが切なくて素晴らしく、涙腺さえゆるむ。
聴き比べていると、カーラ・ブレイと渋谷毅に共通点があるような気がしてくる。シンプルなメロディ演奏と絶妙な和音、融通無碍な間、コードを移動して循環するピアノ。ストップ・アンド・リッスン。
渋オケは最新作『ずっと西荻』(Carco、2003年)からも7年も録音していないし、ライヴも月一ではなく少なくなっているようだ。来月は行こう行こうと思いつつ何年も経っている。何だか取り返しのつかないことをしてしまったような気がしている。
●参照
○渋谷毅のソロピアノ2枚
○浅川マキ+渋谷毅『ちょっと長い関係のブルース』