天児慧『中国・アジア・日本 ― 大国化する「巨龍」は脅威か』(ちくま新書、2006年)を読む。
長いスパンでのマクロ的な視点を保つスタンスには好感を持つ。そのため、4年以上前の本だが古びてはいない。その半面、白書のようでもあり、演説のようでもあり、実はさほど面白くはない。
中国のGDPが日本を逆転する時期は、既に本書の予想より早く到来した。GDPは所詮「ぐるぐる回ったときに生れた付加価値」、経済をドライヴするという意味はあっても、国力を表す指数などではない。そうは言っても、今回、大国としての示威が凄まじい効果を持つことが示されたわけであり、本書にまとめられているように、多極化とソフトバランシングを進めてきた中国の現体制がなぜこのような面を見せたのか、まともに考える必要がある。その点では、『週刊金曜日』最新号(2010年10月8日/818号)の「尖閣諸島 中国漁船衝突事件」特集は、狭隘で近視眼的な国際交渉論ばかりを集めていて、がっかりさせられるものだった。
しかし、本書が至極真っ当に指摘しているような点が外交姿勢に冗談のように顕れていることは事実であり、日本としての多極化とソフトバランシングが欠落しているとの批判は仕方がない。
「当面しばらくはこれでやりくりでき、ある意味で米国の傘のなかに入るという非常に楽な選択である。しかし実は、中国に対する不信感の増幅は、将来的には摩擦、不安定が予測されるかもしれないことを認識しておかなければならない。
「何があっても日米同盟、日米同盟があれば何も問題ない」という融通性のない硬直的な発想を持っている人が、有力政治家に影響力を与えていることを耳にするが、それは嘆かわしい。どうしてそこまで米国を信じ切れるのか、中国不信の固まりになるのか。もっと柔軟な幅を持って状況を想定しておくべきであろう。」
●参照
○天児慧『巨龍の胎動』
○沙柚『憤青 中国の若者たちの本音』
○『世界』の特集「巨大な隣人・中国とともに生きる」
○『情況』の、「現代中国論」特集
○加々美光行『裸の共和国』
○加々美光行『現代中国の黎明』 天安門事件前後の胡耀邦、趙紫陽、鄧小平、劉暁波
○加々美光行『中国の民族問題』
○堀江則雄『ユーラシア胎動』
○竹内実『中国という世界』
○藤井省三『現代中国文化探検―四つの都市の物語―』