ジョン・サーマン『Flashpoint: NDR Jazz Workshop - April '69』(Cuneiform Records、1969年録画)を観る。同内容のCDとセットになったDVDであり、ジョン・サーマン自身のバンドでの映像作品ははじめてらしい。熱心なサーマンの聴き手ではない私も、好きな『The Trio』録音の前年でもあり、ぜひ観たかった。
モノクロ映像は鮮明である。サーマンの指示でベースのイントロから入る1曲目「Mayflower」では、サーマンの長いソプラノサックスのソロを聴くことができる。それに比べて、マイク・オズボーン(アルトサックス)のソロは流れを先導しきれず今ひとつの印象だ。フリッツ・パウアーのモーダルなピアノはマッコイ・タイナーを思わせる。
2曲目の「Once Upon A Time」では、まず、若き日のケニー・ホイーラー(トランペット)のソロがある。大きな世界を透過するようなヴィジョンが眼前に広がるというのか、やはり独自の世界である。ホイーラーが吹くのは、デイヴ・ホランドの映像でしか観たことがなく、これは嬉しかった。1曲目ではフルートを吹いていたアラン・スキッドモアが良いテナーサックスのソロを吹く。3曲目「Puzzle」はトロンボーンのための曲のようで、作曲したエリック・クラインシュスターとマルコム・グリフィスが順にトロンボーンのソロを取る。グリフィスはクラインシュスターより躍動的で、そのために音がふわふわと浮遊する(トロンボーンだから仕方ないか)。この2曲ではサーマンはバリトンサックスを吹くが、ソロはない。
4曲目「Gratuliere」はパウアーによるメロディアスな曲で、最初のアンサンブルの中でサーマンがときおりバリトンサックスで入れる「ンゴッ」という音がアクセントになる。そしてサーマンはソプラノに持ち替え、気持ちのいいソロを取る。自由で良いなあ。アンサンブルが再開してもソプラノを吹き続けて、クラインシュスターのきっちりしたソロにつなぐのがまた快感。この曲で、はじめてロニー・スコット(テナーサックス)がソロを吹くが、端正なだけでダサい。オリヴァー・ネルソン『The Blues And The Abstract Truth』でのリーダー兼サックス奏者・ネルソンもそうだったが、個性派のなかでのこのようなプレイヤーはまったく目立たず損をしている。アンサンブルの中では、スキッドモアのフルートが優しい味を与えている。終わった後、メンバーの誰かが「Very good!」と叫ぶ。
5曲目「Flashpoint」は全員で寄ってたかって音の洪水をつくった後、オズボーン(アルトサックス)、スキッドモア(テナーサックス)、サーマン(バリトンサックス)が相次いでキレそうな勢いでハードなソロを吹きまくり、周囲は煽りまくる。もうお祭りであり、サーマンはタンバリンさえ鳴らしている。もみあげが巨大なアラン・ジャクソン(ドラムス)もここぞとばかりに叩き続ける。最後に興奮の坩堝、である。
確かサーマンは「もうハードには吹けない」と発言し、穏やかなECM盤を吹き込み続けている。それらにはあまり縁がないのだが、やはりハードなサーマンは素晴らしい。
同じ年にサーマンが吹きこんだアルバムが棚にあった。『Unissued Sessions 1969』というプライヴェート盤で、サーマンの他にはオズボーン(アルトサックス)、ジョン・テイラー(ピアノ)、「probably」デイヴ・ホランド(ベース)、「Probably」ステュ・マーティン(ドラムス)。曲も「Glancing Backwards」以外はわからないようで、音はアンバランスで、かなり駄目な録音である。