Sightsong

自縄自縛日記

羽仁進『初恋・地獄篇』、『教室の子供たち』、『絵を描く子供たち』

2011-08-17 23:30:38 | アート・映画

羽仁進『初恋・地獄篇』(1968年)を観る。以前に最初の部分だけ観たのだが、余りにも青臭くて恥かしくて、途中でやめてしまった。今回は最後まで到達した。


『アートシアター ATG映画の全貌』(夏書館、1986年)より

やっぱり恥かしい。思春期の妄想と暴走(シャレではない)は、きっと誰にとっても恥かしい。思い出すと実に情けない気持ちになる。この映画は素人を使っていることもあって、そのわざとらしさが却ってリアルで、さらに恥かしい。もう初恋の気持ちの揺れ動きや底なし沼を描いた映画なんて観たってしかたがない。

スタッフ陣は豪華で、脚本が寺山修司と共同。美術が金子国義。キャスティングが宇野亜喜良。スチル写真は沢渡朔だそうでこれは探したい。確かに、いかにもこの映画のカラーである。

ついでに、羽仁進の岩波映画時代のドキュメンタリー映画、『教室の子供たち』(1955年)、『絵を描く子供たち』(1956年)も観る。小学校の教室の中に入り込み、子供と共存しながら撮った、骨のある小品である。なるほど、『初恋・地獄篇』も、別に奇を衒って作った映画ではないのだということがわかる気がした。

●参照(ATG)
淺井愼平『キッドナップ・ブルース』
大島渚『夏の妹』
大島渚『少年』
大森一樹『風の歌を聴け』
唐十郎『任侠外伝・玄界灘』
黒木和雄『原子力戦争』
黒木和雄『日本の悪霊』
実相寺昭雄『無常』
新藤兼人『心』
若松孝二『天使の恍惚』
グラウベル・ローシャ『アントニオ・ダス・モルテス』

●参照(岩波映画)
瀬川順一『新しい製鉄所』
高村武次『佐久間ダム 総集編』
土本典昭『ある機関助士』


長島と祝島(4) 長島の山道を歩く

2011-08-17 07:42:01 | 中国・四国

昼の便で祝島をあとにして、再び長島に戻った。タクシーでくねくね道を往く。自動車が入れないところから先は、狭い山道である。

暑いうえに蚊の数がやたらと多い。立ち止まるとすかさず腕に何匹もとまって血を吸いはじめる。他の人の様子を見ると、まるで蚊柱とともに歩いているようだ。森の樹々には、ハンノキ、トベラ、ヤブツバキといった名前を書いた手作りの板が結えてある。


山道 Pentax MZ-S、FA 77mmF1.8 Limited、Velvia 100F、DP

途中に「団結小屋」があったが、残念ながら留守。那須圭子『中電さん、さようなら』(創史社、2007年)によると、2003年に完成した3軒目のログハウスであり、周囲のハヤブサやスナメリなどを観察する拠点にもなっている。横には太陽光パネルも設置してあった。小屋の脇からまた山道をしばらく下っていくと、原発の工事現場に到達する。

いま観察できるのは、資材搬入用の道路であり、ハコは当然まだない。貴重な自然の宝庫と評価されている田ノ浦海岸を見ることはできる。海の向こう側に、つい先までいたばかりの祝島を見ることもできる。しかし、海岸が埋め立て予定地となっており、立ち入りは最高裁判決により禁止されている。

山口県の二井知事は来秋の埋め立て免許期限後の更新を認めないと公言しており、海岸はまた公共のものとなるだろう。


痛々しい Pentax MZ-S、FA 77mmF1.8 Limited、Velvia 100F、DP


田ノ浦と祝島 Pentax MZ-S、FA 77mmF1.8 Limited、Velvia 100F、DP


田ノ浦と祝島 Pentax MZ-S、FA 77mmF1.8 Limited、Velvia 100F、DP

「もしも対岸に原発が建設されたら、島の人たちは無気味な原発を押しこんだ、白いコンクリートの塊を朝夕眺めて暮らすことを強制される。3.5キロメートルの海上には、なんの遮断物もない。もしも、原発で事故が発生したとき、祝島は逃げ場のない、人体実験場になってしまう。」
(鎌田慧『原発列島を行く』、集英社新書、2001年)

●参照
○長島と祝島 >> リンク
○長島と祝島(2) 練塀の島、祝島 >> リンク
○長島と祝島(3) 祝島の高台から原発予定地を視る >> リンク
○既視感のある暴力 山口県、上関町 >> リンク
○眼を向けると待ち構えている写真集 『中電さん、さようなら―山口県祝島 原発とたたかう島人の記録』 >> リンク


長島と祝島(3) 祝島の高台から原発予定地を視る

2011-08-17 01:32:40 | 中国・四国

上関町議の清水さんのご案内で、高台の祝島小学校に足を運んだ。校庭には、「自主・友愛・責任」と彫られた碑がある。これでも島東側の集落に少しのぼった程度である。小学校の遠足では、何時間もかけて山の中をハイキングするという。

全校生徒は7人と少ない。中学校からはみんな「いわい」号に乗って長島まで通わなければならない。部活で遅くなる子どもたちは、チャーター船で帰ってくる。


自主、友愛、責任 Pentax MZ-S、FA 77mmF1.8、Velvia 100F、DP


祝島の山 Pentax MZ-S、Sigma 400mmF5.6、Velvia 100F、DP

海越しに、長島の対岸を眺める。手前の瓦屋根、碧い海、島と素晴らしい眺望である。そして、祝島に面した田ノ浦海岸の少し上には、工事中のブルーシートが見える。原子炉の設置予定地はその少し右側だという。どう見ても悪い冗談だ。しかし、島の住民の方々にとっては、冗談で済みようもない数十年の歴史がある。


祝島の家々 Pentax MZ-S、Sigma 400mmF5.6、Velvia 100F、DP


集落と海と長島のブルーシート Pentax MZ-S、FA 77mmF1.8、Velvia 100F、DP


長島のブルーシート Pentax MZ-S、Sigma 400mmF5.6、Velvia 100F、DP


原子炉の幻視 Pentax MZ-S、Sigma 400mmF5.6、Velvia 100F、DP

1時間や2時間はあっという間に過ぎる。また坂道を下りて、港の寺の門前に腰掛け、船に乗る前に買い込んでいたおにぎりを食べる。Oさんは、祝島に到着した直後にひろった猫に牛乳をやっている。にゃあにゃあという声、よく見たら側溝に生れたばかりの猫がいたのだった。助けなければ死んでしまう猫だった。Oさんは、島の名前にちなんで、「ほうり」と命名した。「Holy」の意味もあるのだ、とのこと。

何軒かある島の寺は、すべて浄土真宗であるという。抵抗の宗教でもあった。


猫の「ほうり」 Pentax MZ-S、FA 77mmF1.8、Velvia 100F、DP


浄土真宗の寺 Pentax MZ-S、FA 77mmF1.8、Velvia 100F、DP


祝島の港 Pentax MZ-S、FA 77mmF1.8、Velvia 100F、DP

本当に短い滞在だったが、来てよかったと思った。「いわい」号の船尾からは遠ざかっていく祝島がよく見えた。そして船窓からは、いくつもの黄色いブイが見えた。そこから中に入って「妨害」すると、1日あたり500万円を請求されるという最高裁判決が出ている。この国の司法を象徴するような話である。


船尾から祝島 Pentax MZ-S、FA 77mmF1.8、Velvia 100F、DP


船窓から500万円ブイ Pentax MZ-S、FA 77mmF1.8、Velvia 100F、DP

(つづく)

●参照
○長島と祝島 >> リンク
○長島と祝島(2) 練塀の島、祝島 >> リンク
○既視感のある暴力 山口県、上関町 >> リンク
○眼を向けると待ち構えている写真集 『中電さん、さようなら―山口県祝島 原発とたたかう島人の記録』 >> リンク