インドの巨匠、グル・ダットの『渇き(Pyaasa)』(1957年)を観る。DVD 6枚組で20ドルくらいだった。
貧乏な詩人ヴィジェイ。家では兄たちに邪険にされ、相思相愛の女性は金持ちの出版社社長と結婚してしまう。兄には書きためた詩の原稿を古紙として売られてしまい、絶望する。駅で電車に轢かれそうになった男を助けようとして失敗するも、いつの間にか、ヴィジェイが死んだことにされてしまう。自殺した若き詩人の詩集は飛ぶように売れ、ヴィジェイは監禁される。そして、オカネや偶像のみを求め、人間を尊重しようとしない社会に再び絶望し、自分の詩を愛してくれる貧乏な女性とともに去っていく。
いまに続くボリウッド娯楽映画らしく、歌あり人情あり。しかし異常にさえ思われるのは、次々に迫ってくるソフトフォーカスの顔、顔、顔。金持ちの妻となった家でヴィジェイが歌い、女性が動揺して哀しみとともに煽られる動きには、こちらも動揺させられてしまう。罪つくりなほどに無邪気に、すなわち邪気たっぷりに、心象をカメラとシンクロさせる手腕は素晴らしい。