米本昌平『地球変動のポリティクス 温暖化という脅威』(弘文堂、2011年)を読む。
主に、地球温暖化に関する取り決めや国際交渉を追った本である。単に結果としての事実を追うのではなく、その背後にある意味や中長期的な現代史における位置付けを考察している点で、実にすぐれている。
世の中でウケの良い環境関連書のひとつは、「○○のウソ」などの陰謀論だ。すべてがそうだとは言わないが、ちょっと読んだだけでもデタラメであることがすぐに判る。下らないねと棄てることができればまだ良い。ところが、社会的な影響力は結構あり(つまり、テレビ的)、鵜呑みにしてしまう人が結構いるようなのだ。わたしも、そういった受け売りを自分の意見であるかのように喋る人に何度も遭遇した。しかも、良心的な市民運動に共感する人に多い。
環境という価値を尊重し、保守的・強権的な旧来権力に抵抗するならば、せめて、まともなものを読んでほしいと思う。ダニエル・ヤーギン『探求』(日本経済新聞出版社、原著2011年)、吉田文和『グリーン・エコノミー 脱原発と温暖化対策の経済学』(中公新書、2011年)、佐和隆光『グリーン資本主義 グローバル「危機」克服の条件』(岩波新書、2009年)、その他、良書をいくつも見つけることはできる。
本書も、もちろん広く読まれるべき本である。2011年の「3・11」後に書かれていることもあり、原子力に対するスタンスも明確である。また、クライメート・ゲート事件という政治的策動についても、しっかりと検証されている(実は、これに端を発した温暖化懐疑論が日本で盛り上がり、そのまま陰謀論化してしまった)。
本書を読むと、温暖化に関する政治的プロセスが、歴史上異色なものであったことがよくわかる。また、これが、東西冷戦の終結という「脅威の空隙」を埋めるように登場してきたこと、英国などの進める気候安全保障論が大きな影響力を持ってきていること、中国の存在を抜きにして国際的な枠組みを構築できないことなどが、納得できる。
地球規模の脅威への予防主義的な対策という理想と、いびつな国際間交渉と、ナイーヴに過ぎた日本の取り組み。そのようなアンバランスな関係のもとでは、ろくでもない言説がいくつも出てくることは仕方がない。本書は、真っ当な視座のひとつとなるものだろう。
●参照
○ダニエル・ヤーギン『探求』
○吉田文和『グリーン・エコノミー』
○『グリーン資本主義』、『グリーン・ニューディール』
○自著