Sightsong

自縄自縛日記

オリヴィエ・アサイヤス『カルロス』

2013-02-10 21:54:36 | ヨーロッパ

オリヴィエ・アサイヤス『カルロス』(2010年)を観る。三部構成、339分にも及ぶ大作である(DVDは付録を含め4枚組)。

カルロスは自ら名付けたコード名。実在のテロリストである。かく言うわたしも、1994年に逮捕された際に、新聞紙面ではじめてその存在を知った。

映画は、まだ20歳そこそこの時期に、PFLP(パレスチナ解放人民戦線)に参加するところから始まる。指導者は、若造が何を生意気なことをぬかすといった態度で応じたが、カルロスは、有言実行を自らに課し、次第にその世界でのスーパースターと化していった。

なるべく歴史的事実に沿って作ったという謳い文句の通り、さまざまなメンバーやグループが登場する。

パリでは、日本赤軍が起こした銀行襲撃による仲間の釈放要求とハイジャック事件をサポートする(実際には合流するはずが、赤軍メンバーが道に迷って、できなかった)。若松孝二『赤軍-PFLP世界戦争宣言』(1971年)という映画に記録されているように、当時、日本赤軍とPFLPとは協力関係にあった。しかし、カルロスは、OPEC本部襲撃事件において、指令にあった暗殺ではなく身代金を選んだことで、PFLPを追放される。

その後、ドイツ革命細胞のメンバーと結婚し、バスク祖国と自由にも武器を提供する。活動の舞台はヨーロッパと中東である。東欧では、東ドイツ(シュタージ)やハンガリーやルーマニアと相互協力関係を築くが、やがて、危険すぎると疎まれ、ベルリンの壁崩壊(1989年)に象徴される東西冷戦の終結とともに拠点を失うことになる。そして、シリアやレバノンさえにも、彼の居場所はなくなった。

シリアにおいて立ち退き通告をされた際に、仲間(ドイツ革命細胞)が自虐的に言う台詞が印象深い。「お前はもう、historical curiosityになるんだよ!」と。その通り、カルロスはもはや存在意義を失い、逃げるように移住したスーダンでは、民族イスラーム戦線に「phantom」という渾名で呼ばれる有様。そして、シリアやスーダンは西側を向き、手術中に逮捕されたカルロスはフランスへと護送される。現在、終身刑服役中。

カルロスは、チェ・ゲバラを信奉し、まっすぐに社会主義や反帝国主義を希求する男として描かれている。極めて人間的で、女好き・酒好きで、かつ、冷静で冷淡という人物像である。勿論、如何に高邁な理想を掲げたとはいえ、爆弾テロなどによって罪のない人びとを殺したテロリストに過ぎない。

しかし、あえてこのように描いたアサイヤスの目に好感を抱いた。支配の形態や構造的な矛盾を正視することなく、トートロジーのように「テロとの戦い」を標榜する西側のポリシーに対する、アンチテーゼのようにも思えたのだ。

また、カルロスをバックアップした、サダム・フセインやカダフィ大佐の姿を映画に登場させない方針も、成功している。そうしていたなら、オリバー・ストーンが手掛けるような下品なスペクタクルに堕していたところだ。

数十年の移り変わりを見ていると、テロという手法の座る場所が、次第に遷移してきたのだという印象を受ける。それは東西冷戦とその終結という要因だけで語ることができるものではないだろう。

●参照
オリヴィエ・アサイヤス『クリーン』
オリヴィエ・アサイヤス『夏時間の庭』


済州島四・三事件と江汀海軍基地問題 入門編

2013-02-10 08:59:17 | 韓国・朝鮮

「済州島四・三事件65周年記念連続学習会」の第2回として行われた、「済州島四・三事件と江汀海軍基地問題 入門編」に足を運んだ(2013/2/9、文京区民センター)。

済州島四・三事件とは、1948年、南北朝鮮の分断に反対した済州島民の蜂起に対し、米国の指示により、韓国警察等が行った島民虐殺事件(白色テロ)である。いま、その済州島の江汀(カンジョン)という村に、海軍基地が作られようとしている。

会場はかなりの人で埋まっていた。100人くらいは来ていたのではないか。在日コリアンの小説家・金石範さんも来場していたとのことだ。

李�促京(リ・リョンギョン、立教大学非常勤講師)さんが、カンジョンの問題を具体的に説明した。

カンジョン村は済州島南部にある小さな村であり、さまざまな絶滅危惧種が棲息する世界自然遺産でもある。

ここに、韓国の海軍基地を建設する話が突然あらわれ(当初は、リゾート地を装っての工作であった)、法的・社会的に異常な手続きであったにも関わらず、2007年にわずか1ヶ月だけで決められてしまった。やがて、海軍と政府関係者のみで工事を強行しはじめ(2010年)、反対者は検察・裁判所に無差別的に罰金を課せられた。地域は分断され、反対派と賛成派は口もきかず、使うコンビニまで別々という状態になっている。

韓国政府は、この海軍基地を、北朝鮮の挑発を抑制し、海上交通路を保護し、機動戦団を収容するのだとしている。しかし、済州島は北朝鮮からもっとも遠く、もとより海上交通を海軍基地が保護するなどという理屈は奇妙で、かつ、調べてみると、機動戦団向けではない基地だという。

つまるところ、これは米国の軍事戦略に沿った基地建設なのだった。既に済州島では海軍のみならず空軍も基地建設を進めている。沖縄と同様、日本軍が「本土死守」のため駐屯していた地であり、戦後も、米国は戦略拠点として重視している。やはり日米安保条約と同様に、韓米相互防衛条約がある。米国は近年東アジア回帰しており、日米韓含めての情勢とみるべきである。

盧武鉉政権では、済州島の「四・三事件」を認めて謝罪し(2003年)、「平和の島」に指定した(2005年)。しかし、李明博政権では一転保守化が進み、朴槿恵大統領も選挙の際に「中断なき海軍基地建設」を公約している。李明博のような強引かつ暴力的な方法はもはや難しい、ならば、新たな「国民統合」の手法とは何か。

そのための上からの動きとして、「基地反対」は「従北」(北朝鮮に従うこと)であり、国の安全保障を妨げるものであり、「四・三事件」は「左派」であるというストーリーを刷りこもうとしている。かつて韓国において「アカ」とみなされることが即「死」を意味するものだったことを考えれば、これは歴史回帰に他ならない。

このことは、日本でもまったく同様なのではないか。沖縄の辺野古や普天間や高江での国家権力の剥き出しの暴力は、ほとんど国民の視線に晒されることはない。東京でのデモにおいても、同じような排外主義的な動きがある。

大メディア(朝鮮日報、中央日報、東亜日報など)も政権の方針に従って論調を変化させている。勿論、済州島という「辺境」の地における暴力事件など報道もされない。「四・三事件」さえ、韓国ではあまり知られているとは言えない。そのため、報道の自由を求めて立ち上げられた新メディアが、「ニュース打破」であり、「ハンギョレ新聞」であった。

―と。

会場では、ゲストとして、東京で働くテキスタイルデザイナーの金志修(キム・ジス)さんも、そこに視線を向けた者としての報告をされた。

まさに、日本や沖縄における状況の相似形だ。保守政治に回帰し、上からの弾圧や排外主義はかつて以上に進められ、大メディアは権力追従以外の役目を果たすことはなく、米国軍事戦略の影が全体に覆いかぶさっている。

○「ニュース打破」の映像 >> リンク

●参照
『済州島四・三事件 記憶と真実』、『悲劇の島チェジュ』
金石範講演会「文学の闘争/闘争の文学」
金石範『新編「在日」の思想』
金石範『万徳幽霊奇譚・詐欺師』 済州島のフォークロア
金時鐘『境界の詩 猪飼野詩集/光州詩片』(詩人は、四・三事件に関わり、大阪に来た)
林海象『大阪ラブ&ソウル』(済州島をルーツとする鶴橋の男の物語)
藤田綾子『大阪「鶴橋」物語』
金賛汀『異邦人は君ヶ代丸に乗って』(鶴橋のコリアンタウン形成史)
鶴橋でホルモン 
野村進『コリアン世界の旅』(済州島と差別)
新崎盛暉『沖縄現代史』、シンポジウム『アジアの中で沖縄現代史を問い直す』(沖縄と済州島)
知念ウシ・與儀秀武・後田多敦・桃原一彦『闘争する境界』(沖縄と済州島)
宮里一夫『沖縄「韓国レポート」』(沖縄と済州島)
『けーし風』沖縄戦教育特集(金東柱による済州島のルポ)
加古隆+高木元輝+豊住芳三郎『滄海』(「Nostalgia for Che-ju Island」)
豊住芳三郎+高木元輝 『もし海が壊れたら』(「Nostalgia for Che-ju Island」)
吉増剛造「盲いた黄金の庭」、「まず、木浦Cineをみながら、韓の国とCheju-doのこと」(李静和は済州島出身)
長島と祝島(2) 練塀の島、祝島(練塀のルーツは済州島にある)