Sightsong

自縄自縛日記

白石隆、ハウ・カロライン『中国は東アジアをどう変えるか』

2013-02-12 23:49:07 | 中国・台湾

白石隆、ハウ・カロライン『中国は東アジアをどう変えるか 21世紀の新地域システム』(中公新書、2012年)を読む。

中国が急速に大国化していることは、誰もが知っている。懸念も反発もある。しかし、それでは、東アジアがどのように変容していくのか、実は、共有されるイメージなど、まだ形成されていないのではないか。多くの者が視るものは、変化の彼方の世界ではなく、その時点での顕著なベクトルであったり、そこから次々にあらわれる衝撃波であったりに過ぎないからだ。

本書では、まず、東南アジアの国々における経済的・政治的な現象の動向を分析し、また、中国が外部において実施している経済的拡大の方法をみる(典型的には、ひも付き援助)。次に、歴史的に中国が世界のなかで置かれてきた位置を説く。さらには、民族の拡散がみられるマージナルな場所における言語的な現象をみる。

その結果提示される結論は、かつてのように、「天下」世界の再現はならないだろうということだ。国境というボーダーが極めてファジーなもので、かつ、同じ価値を共有するヒエラルキーが形成される「天下」(たとえば、朝貢関係など)。しかし、もはや、そのような形のヘゲモニーはありえない、というのが、著者の見立てである。

実際に、東南アジア諸国では、状況の違いこそあれ、それぞれが帰属する経済システムや生産ネットワークの間での「押し引き」が行われており、どの断面でも、さまざまな価値判断と利害が見える。権力のネットワークは、中心を持たない、あるいは、多数の中心を持つのである。

そして、決定的なことに、中国をとりまくマージナルな場所では、英語が大きな価値をもつ。中国という世界の拡大ではなく、既に、外部に接続する形態は異なった形となっている。

なるほど、と、半分は納得する。しかし、日本が地域秩序の中で潰れていかないための方策は、軽挙妄動せず日米安保を維持し、東アジア・アジア太平洋の枠組による地域的ルール作りを推進することだ、という結論には、肩透かしをくらったような気分にさせられる。新たな政治力学・経済力学をゲームのように弄んでいるのではないか。

●参照
白石隆『海の帝国』
汪暉『世界史のなかの中国』
加々美光行『中国の民族問題』
加々美光行『裸の共和国』
天児慧『中国・アジア・日本』
『世界』の特集「巨大な隣人・中国とともに生きる」
『情況』の、「現代中国論」特集
堀江則雄『ユーラシア胎動』
L・ヤーコブソン+D・ノックス『中国の新しい対外政策』
国分良成編『中国は、いま』
ダイヤモンドと東洋経済の中国特集
竹内実『中国という世界』


久高島の映像(6) 『乾いた沖縄』

2013-02-12 07:54:39 | 沖縄

坐・高円寺ドキュメンタリーフェスティバルでは、森口豁さんが手掛けた『乾いた沖縄』(1963年)を、観ることができた。

場所は沖縄本島からほど近い久高島。当時の人口が600人だというナレーションがある。3年後の1966年に行われた神事・イザイホーのときも600人、12年後の最後のイザイホーのとき370人、現在200人。

久高島は琉球開闢神話の島であり、大人の女性はすべて神に仕える。従って、このドキュに登場する女性たちも、子どもを除き、すべて神女である。

しかし、その神女たちが、大変な苦役を強いられている。何しろ水がない。4本の井戸はほとんど枯れ果てた。それでも、生きていくために、夜は井戸の底に残ったわずかな水を行列を作って汲み、ほとんど寝る間もなく、昼は畑仕事や道の整備を行う。男性たちは、出稼ぎに出てしまっている。

この苦役だけを執拗に撮る映像である。ナレーションは、徹頭徹尾、水。飢え。乾き。そして老女の顔のクローズアップ。対象を絞り切っているのか、あるいはもとより絞られた対象しかないのか、ここには世界を伝えんとする凄みがある。

「沖縄本島から水が来た。
水が来た。
しかし、わずかな水だった。
1日1人2ガロン。
喉の乾きは癒るだろう。だが島の乾きはどうする。
枯れたきびは、芋は、もう生き返りはしない。」

ところで、パンフレットには、このドキュメンタリーが黒島で撮られたのだとある。これは、同じ年に撮られた『水と風』のことではなかろうか。


森口豁『復帰願望:昭和の中のオキナワ 森口豁ドキュメンタリー作品集』より

●参照
森口豁『沖縄 こころの軌跡 1958~1987』
森口豁『毒ガスは去ったが』、『広場の戦争展・ある「在日沖縄人」の痛恨行脚』
森口豁『アメリカ世の記憶』
森口豁『ひめゆり戦史』、『空白の戦史』
森口カフェ 沖縄の十八歳
久高島の映像(1) 1966年のイザイホー
久高島の映像(2) 1978年のイザイホー
久高島の映像(3) 現在の姿『久高オデッセイ』
久高島の映像(4) 『豚の報い』
久高島の映像(5) 『イザイホー~沖縄の神女たち~』
吉本隆明『南島論』
久高島の猫小(マヤーグヮ)
久高島で記録された嘉手苅林昌『沖縄の魂の行方』、イザイホーを利用した池澤夏樹『眠る女』、八重山で演奏された齋藤徹『パナリ』


『標的の村 ~国に訴えられた東村・高江の住民たち~』

2013-02-12 01:00:26 | 沖縄

坐・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル最終日。沖縄県東村の高江で起きている事実を描いたドキュメンタリー『標的の村 ~国に訴えられた東村・高江の住民たち~』(2012年、琉球朝日放送、三上智恵ディレクター)を観た。

沖縄県北部の貴重な亜熱帯林・やんばるには、米軍のジャングル訓練センターがある。ベトナム戦争を意識した森林地帯でのゲリラ戦を訓練するための場所であり、地域では、サバイバル訓練中の若いグリーンベレーが迷い出てくるとか、腹を空かして食べ物を乞うてくるといった話をよく聞く。

ジャングル訓練センターの一部の面積は沖縄に返還される予定ではあるが、それと引き換えに、新規ヘリパッドの建設準備が強引に進められている。しかも、東村の小さな集落・高江を取り囲むように。このヘリパッドが新型輸送機オスプレイを使った訓練のためのものであることは、前々からわかっていたことだが、日本政府は、それを最近まで認めようとしなかった。

住民無視の計画を止めるには、座り込みしかなかった。しかし、国(沖縄防衛局)は、座り込みのメンバーを、通行妨害の禁止を求めて訴えた。いわゆるSLAPP裁判、つまり、公共の場で権利を主張する者に対する、圧倒的な権力を有する側による恫喝的手法である。地裁では、その仮処分対象をふたりからひとりに絞った。控訴審はまだその途中である。

ドキュメンタリーでは、そのあたりの経緯を示す。強引に工事を進めようとする沖縄防衛局、怒りを抑えながら対峙する住民たち。

オスプレイ搬入強行となり、2012年9月、住民たちは、普天間基地の全ゲートを封鎖する(>> リンク)。そこでは、警官隊による剥き出しの暴力があらわとなった。近代民主主義国家とはとても呼ぶことができない姿であった。

行動と言葉でぶつかりあう住民も、警官も、メディアも、沖縄県民なのだった。米国の楔は、国家間だけではなく、国家の中にも打ちこまれていた。

怖ろしいことに、ジャングル訓練センターでは、かつて、高江の住民たちをベトナム人に化けさせ、ベトコンを想定しての攻撃訓練をしていたのだった。それを知る住民は、ベトナム風に模した家を「ベトナム屋小(ベトナムやーぐゎー)」と呼んでいたよと証言する。また、ベトナム戦争に運ぶ枯葉剤を、ここでも使っていた。住民たちは枯葉剤を浴びていた。当時も今も、攻撃や戦略の対象としてしか視ないアジアの田舎に打ちこんだ楔かもしれない。

オスプレイは普天間基地に搬入され、やんばるにも飛ぶようになった。住民たちは、いまだ高江での抵抗を続けている。

上映後、三上ディレクターが壇上で話をした。高江は、日米両政府が沖縄を欺き続けてきたことの象徴だが、「本土」はもとより、沖縄県内でも人びとの視線に晒されることはないのだ、と。また、原発と同様に、国家権力が弱いところに何をするのか、うかうかしていると誰もが加害者になってしまうということに注意しなければならないのだ、と。

実際に、高江の問題が全国放送で流されたことはほとんどない。わたしの知る限り、それは、2010年に姜尚中が高江を訪れたときの「サンデー・フロントライン」(テレビ朝日、2010/8/15)がはじめてのことで(>> リンク)、それに2年半遡る『NNNドキュメント'08  音の記憶(2) ヤンバルの森と米軍基地』(2008/1/28)(>> リンク)では、正面から扱うことの限界を示すものだった。その後も、全国的な高江報道はほとんどなされていないと思う。

会場で、元NHKの永田浩三さんにお逢いして、これが何故だろうかという話をしたところ、報道する側の自粛や保守化もあるのではないか、と言っておられた。その意味で、琉球朝日放送のなかでも独自のスタンスを取り続けている三上ディレクターの仕事は、素晴らしいものだと思った。

>> 『標的の村』

●参照
2010年8月、高江
高江・辺野古訪問記(1) 高江(2007年)
沖縄・高江へのヘリパッド建設反対!緊急集会
ヘリパッドいらない東京集会
今こそ沖縄の基地強化をとめよう!11・28集会(1)
今こそ沖縄の基地強化をとめよう!11・28集会(2)
「やんばるの森を守ろう!米軍ヘリパッド建設を止めよう!!」集会  
東村高江のことを考えていよう(2007年7月、枯葉剤報道)
『米軍は沖縄で枯れ葉剤を使用した!?』
エンリコ・パレンティ+トーマス・ファツィ『誰も知らない基地のこと』
高野孟『沖縄に海兵隊はいらない!』
宮城康博・屋良朝博『普天間を封鎖した4日間』
10万人沖縄県民大会に呼応する8・5首都圏集会(オスプレイ阻止)
オスプレイの危険性(2)
オスプレイの危険性
6.15沖縄意見広告運動報告集会
オスプレイの模型