金史良の作品集『光の中に』(講談社文芸文庫、1936-42年)を読む。短編が9作品収録されており、そのいくつかは青空文庫で読むことができる。
これらの短編に登場する人物は、極限状態にあるといえるほど貧困で、祖国を占領している国に抑圧され、卑屈であったり、弱気であったり、感情過多であったり。読んでいてあまりにも辛い。
しかし、ことさらに醜い人間の姿を描きながらも、それも人間だからこそなのだろうな、と思わせるような愛情が込められているようだ。すなわち、作者自身の情が過剰であり、それが描写のすみずみにこぼれている。どちらかといえば、物語の構成がわかりやすいわけではなく、個々の特別な人びとの挙動や懐かしい風景にのみ、情の眼というレンズが向けられているような感覚だ。
金史良は朝鮮戦争に従軍し、行方不明となった。もし生き長らえていたら、どこで小説を書き続けただろうか。日本で、日本語を使った小説ということはありえない。北朝鮮か、中国か。
●参照
○青空文庫の金史良