鈴木則文『文学賞殺人事件 大いなる助走』(1989年)を観る。
わたしが間違っておりました。傑作でした。
筒井康隆による原作『大いなる助走』(1979年)は、中学時代に出逢い、爆笑しながら何度も読んだものである。それだけに、映画化され、テレビで山城新伍(文芸誌編集長の役で登場)が宣伝している姿を観ると、幻滅するだろうと思い込んでしまって、これまで近づかないでいたのだ。
物語は、同人誌での文学活動を生きがいとする人たちのカリカチュア化した姿。興味を持って参加した男(佐藤浩市)は、自分が属する会社の内幕を暴露した小説を書いて、会社をクビになる。ところが作品は中央の文芸誌に掲載され、さらには直本賞(笑)の候補にさえなってしまう。受賞するためにあらゆる手を講じるが、落選。怒りに狂い、男は選考委員を次々に殺していく。
この小説が出たとき、地方の同人誌で活動する人たちは勿論、中央の文壇の作家や編集者たちも、きっと不快に思ったに違いない(確か、松本清張が出版社に怒鳴りこんできたとか)。映画もしかりだが、ここまで鈴木則文によって徹底的にアホっぽく描かれれば、怒る気にはならないだろうね。
それにしても奇人・変人・ダメ人間を演じる役者たちがことごとく芸達者。小松方正、由利徹、天本英世、梅津栄(佐藤浩市を熱っぽく視る顔!)、山城新伍、石橋蓮司。しかし、作家になる前に役者を目指していた筒井康隆の演技は、自意識ばかりが目立っていまひとつ。
●参照
○鈴木則文『ドカベン』(1977年)
○鈴木則文『忍者武芸貼 百地三太夫』(1980年)