高畠通敏『地方の王国』(講談社学術文庫、原著1986年)を読む。
なぜ「王国」かといえば、それぞれの地方においてボスが登場し、オカネや人情を通じた独特な基盤を築きあげてきたからだ。
新潟では、田中角栄と越山会が、あまりにも露骨・直接的な利益誘導型の政治手法を繰り広げ、一時代を築いた。
千葉では、やはり田中角栄的な「ハマコー」が権勢を誇った(ハマコーの地元・木更津の工業化や埋立について記録した、井出孫六・小中陽太郎・高史明・田原総一郎『変貌する風土』についても言及されている)。もとより漁業で食べている地域ゆえ、どこかに出かければオカネを渡すという習慣があり、風変わりな金権政治が成立したのだという。
北海道は、農業の成り立ちや自由化圧力などを理由として、伝統的に社会党王国であった。本書では、その状況も変わりつつあることを示した。
鹿児島も北海道と同様に「低開発地帯」であったが、北海道とは対照的に、保守王国であった。
徳島では、田中vs.三木、あるいは後藤田vs.三木の「戦争」が政治を左右した。
滋賀では、他府県に吸い取られる琵琶湖の水利権や環境問題を背景に、武村正義が「新時代」の知事として登場した。ただ、それも、地方を中心とした政治というよりは、国政をにらんでのものであった。
すでに著者は鬼籍に入っているが、巻末には、五十嵐暁郎氏により、各地域での「その後」が簡潔にまとめてある。
新潟では、田中真紀子時代とその終焉があった。米どころとして重要なTPP問題に対するベクトルは定かでない。
千葉では不安定な政治が続いているが、三番瀬などの問題に取り組んだ堂本知事という新風があった。森田知事はパフォーマンス重視であり、政策が明らかでない。
北海道では、「中川ブランド」や鈴木宗男の勢いの浮き沈みがあった。また本書には言及がないが、現在のTPPへの反対や政権支持率をみても、地域特性は依然としてあるのだなと思う。
鹿児島は農業と観光(新幹線開通)で売りだそうとしているため、選出議員はTPPに反対している。ただ、現政権の動向との整合性が問われているという。
徳島では、第十堰改築反対の住民投票(>> リンク)が、県政に新たな歴史を刻んだ。
滋賀からは、かつての宇野、山下、武村のような強力で安定した政治家が消えた。嘉田知事の「卒原発」の動きも、成果をあげるには至らなかった。
こうしてみると、TPP問題、環境問題、福祉問題、地方議会の旧態依然ぶり、そして衆議院の小選挙区導入による保守強化といった課題・難題がみえてくるようだ。地方の実状を見ずに、国政のみで日本のかたちを捉えることは無意味だということがわかる。