友人のアレズ・ファクレジャハニさん(中東研究者)が、「世界」誌(岩波書店)に、『一家族三世代の女性から見たイラン・イスラム共和国』というルポを書いている。(上:2013年12月号、中:2014年2月号)
イランのある家族、3世代の女性3人。80代の祖母はアゼルバイジャン近くの地方都市に住み、60代の母はテヘランに住み、そしてイラン国外に住む孫は5か国語を話し、イスラム教を必ずしも厳格に守ってはいない。この3人に加え、イラン・イスラム革命(1979年)のときに逮捕された祖父を含め、世代も住む場所も異なる者たちの体験や視線を通じて、現在のイランを描いたルポである。
歴史をいくつかのキーワードでまとめて構造的に提示するものとは大きく異なり、実態に基づくものであり、とても興味深い。
たとえば、以下のような視点。
○イラン・イスラム革命のとき、市民たちはパーレビ王朝の何が不満で、追放先のフランスから戻ってきたホメイニ師に何を期待したのか?
○シーア派とスンニ派との実際の違いはどのようなものか? シリアのアラウィー派は、シーア派のなかでどのように位置づけられているのか?
○現在の(近いと考えられている)イランとシリアとの関係は、宗教や、イラク、イスラエルとの関係がいかに影響して出来あがったものなのか?
○アフマディネジャド前大統領が再選された2009年の大統領選にどのような不正があったのか? また、ロウハニ大統領が選ばれた2013年選挙に、米国のどのような影響があったのか?
連載の第3回(下)は、アレズさんによると、「イランと米国」をテーマとしているのだという(いつの号か未定とのこと)。当然、イスラエルや、シリアのアサド政権への今後の接し方についても、見通しを示してくれることを期待してしまう。
シリア、イスラエル、パレスチナにおいて、国家的犯罪は終息しない。この1月22日から開かれたシリア和平会議には、イランは招聘されなかった。その一方で、ロウハニ大統領は米国との関係改善を図っているとの報道がある。著者が「世界第三位の経済大国である日本の市民も、この家族同様にその国際政治に関わっている」ことはまさに的確であるが、中東地域については、しっかりとした視点と判断基準を持つことこそが難しい。
前政権により軟禁され、映画撮影を禁じられたジャファール・パナヒや、イランに戻ることができないバフマン・ゴバディへの扱いがどのように変わっていくのかも、気になるところだ。
●参照
○酒井啓子『<中東>の考え方』
○ソ連のアフガニスタン侵攻 30年の後
○ジャファール・パナヒ『これは映画ではない』、ヴィジェイ・アイヤー+マイク・ラッド『In What Language?』
○バフマン・ゴバディ『ペルシャ猫を誰も知らない』