オリン・エヴァンスのビッグバンドにおけるシンプルなピアノが気になって、かれのピアノトリオ『"... It Was Beauty"』(Criss Cross Jazz、2013年)を聴く。人気がさほどでもないのだろうか、新しいビッグバンドもこの盤もアウトレット扱い。
Orrin Evans (p)
Eric Revis, Ben Wolfe, Luques Curtis (b)
Donald Edwards (ds)
やはりと言うべきか、限られた音をコキーンコキーンと弾いている。和音もそんなに重ねない。アーマッド・ジャマルに通じるようなブルースのスタイルである。つまり、ダンディでかなりイケている。
かれの手にかかれば、オーネット・コールマンの「Blues Connotation」もまるで別の雰囲気だ。そしてさらに音数を絞った「Rockin' Chair」。『真夏の夜のジャズ』においてサッチモが歌っていた印象が強い曲だが、それがユーモラスで暖かいものであったのに対し、これは本当に聴き手がロッキンチェアと化す。わたしは夜中に聴いていて、突然居眠りをして椅子から横に崩れ落ち、オーディオの棚でこめかみを強打した。まだ痛い。
クリス・ピッツィオコス+フィリップ・ホワイト『Paroxysm』(Carrier Records、2014年)を聴く。
Chris Pitsiokos (as)
Philip White (electronics)
『Maximalism』が持てる霊力をダイレクトに吐いたのに対し、これはまたかなり色彩が異なる。
パートナーはエレクトロニクスの音を駆る。それに抗し、絡みつき、明らかに共存の意思を示さんとしたピッツィオコスのアルトサックスである。エレクトロニクスの偽装というべきか、エレクトロニクスへのメタモルフォーゼというべきか、そのような瞬間がつぎつぎにあらわれる。本能であっても、戦略であっても、驚くべきことだ。
それにしても、ピーター・エヴァンス、スティーヴ・リーマンなど、エレクトロニクスとの対立・共存の音楽を模索する活動が目立っているようで、面白いかぎりだ。傍目にはピッツィオコスのサックスとの類似性について言いたくなるエヴァン・パーカーのエレクトロアコースティック・アンサンブルなどを、かれらはどれほど意識しているのだろう。
●参照
クリス・ピッツィオコス『Maximalism』
クリス・ピッツィオコス@Shapeshifter Lab、Don Pedro