Sightsong

自縄自縛日記

イングリッド・ラウブロック(Anti-House)『Roulette of the Cradle』

2015-08-01 09:42:05 | アヴァンギャルド・ジャズ

イングリッド・ラウブロックのグループ「Anti-House」による『Roulette of the Cradle』(Intakt、2014年)を聴く。

Ingrid Laubrock (ts, ss)
Mary Halvorson (g)
Kris Davis (p)
John Hebert (b)
Tom Rainey (ds)
Oscar Noriega (cl)

クラリネットのオスカー・ノリエガが客演している以外は、メンバーは前作『Strong Place』と同じである。そして相変わらず充実し、あっさり淡々と、ヘンな技とアンサンブルを展開している。

ラウブロックのサックスには深みとコクがあってとても好きだ。メアリー・ハルヴァーソンのギターは、何をしても、場の重力を無効化する「軽い破壊力」を持っている。ジョン・エイベアの残響感によってサウンドを作っていくベースは、このグループに合っているようだ。ライヴを観たらきっと愉しくて愉しくて仕方ないだろうね。

●参照
ヴィンセント・チャンシー+ジョシュ・シントン+イングリッド・ラウブロック@Arts for Art(2015年)
アンドリュー・ドルーリー+ラウブロック+クラウス+シーブルック@Arts for Art(2015年)
イングリッド・ラウブロック、メアリー・ハルヴァーソン、クリス・デイヴィス、マット・マネリ @The Stone(2014年)(レイニー参加)
ネイト・ウーリー『Battle Pieces』(2014年)(ラウブロック参加)
アンドリュー・ドルーリー『Content Provider』(2014年)(ラウブロック参加)
トム・レイニー『Obbligato』(2013年)(ラウブロック、デイヴィス参加)
イングリッド・ラウブロック(Anti-House)『Strong Place』(2012年)(前作)
クリス・デイヴィス『Rye Eclipse』、『Capricorn Climber』(2007、2012年)(ラウブロック参加)
イングリッド・ラウブロック『Zurich Concert』(2011年)(ハルヴァーソン、レイニー参加)
『Plymouth』(2014年)(ハルヴァーソン参加)
メアリー・ハルヴァーソン『Thumbscrew』(2013年)
ウィーゼル・ウォルター+メアリー・ハルヴァーソン+ピーター・エヴァンス『Mechanical Malfunction』(2012年)
ステファン・クランプ+メアリー・ハルヴァーソン『Super Eight』(2011年)
ウィーゼル・ウォルター+メアリー・ハルヴァーソン+ピーター・エヴァンス『Electric Fruit』(2009年)
アンソニー・ブラクストン『Trio (Victoriaville) 2007』、『Quartet (Mestre) 2008』(2007、08年)(ハルヴァーソン参加)
ジョン・エイベア@The Cornelia Street Cafe(2015年)
ジョン・エスクリート『Sound, Space and Structures』(2013年)(エイベア参加)
Book of Three 『Continuum (2012)』(2012年)(エイベア参加)
ティム・バーン『You've Been Watching Me』(2014年)(ノリエガ参加)
エド・シュラー『The Force』(1994年)(ノリエガ参加)


四方田犬彦『ニューヨークより不思議』

2015-08-01 08:29:19 | 北米

四方田犬彦『ニューヨークより不思議』(河出文庫、1987、2015年)を読む。

Stranger than New York なものは Strangers in New York。かつては「人種の坩堝」などと表現された地だが、実際のところ、それは決してメルティング・ポットなどではない。世界のあちこちから集まった者たちはニューヨークという物語に回収されることはないのだということが、このエッセイを読んでいると実感できる。スノッブ先生によるスノビズムが溢れた記録、とても面白い。

著者は1987年と今年の2005年にニューヨークに滞在し、流れてくる文化を単に受容するのではなく、探索と交遊によって新たな視点を獲得した。その対象は、韓国や台湾や中国や日本から来た、あるいは、キューバから亡命してきたアーティストたちであった。名を残した人もそうでない人もいる。オーネット・コールマン、ドン・チェリー、ラシッド・アリのようなジャズのアイコンたちも登場する。

今年、グッゲンハイム美術館では河原温の大規模な回顧展が開かれた。わたしはこのコンセプチュアル・アートの大家について過去の人だとしか思われず足も運ばなかったのだが、ここに書いてある河原温のどうしようもない過激さを読んでいると、そんな表層的な判断をしていないで、かれの生涯をかけた執念を多少なりとも受け止めに行くべきであったかと反省する。すべてのstranger はstrange なものなのだ。

マンハッタンは不思議な街である。基本的に丁目 street と番街 avenue とによって整然と分割され、まず道に迷うことはない(エドガー・アラン・ポーが住んだ家を訪ねて200丁目を超えると、空気の薄さに眩暈がするのではないかと思ったとするくだりには笑った)。だが、後からやってきた者たちによるそのような隠蔽は、いまだ、綻びを残している。碁盤目のなかで奇妙に通りが交錯するアスター・プレイスは異なる先住民どうしが交流する場であり、碁盤目を斜めに突っ切るブロードウェイは先住民の道路であった。ブロードウェイの南端かつマンハッタン島の南端にある公園ボウリング・グリーンに面して、国立アメリカ・インディアン博物館が建てられたのも偶然ではないのだろう。

●参照
四方田犬彦『マルクスの三つの顔』
四方田犬彦・晏[女尼]編『ポスト満洲映画論』
四方田犬彦『ソウルの風景』
四方田犬彦『星とともに走る』
亀井俊介『ニューヨーク』
上岡伸雄『ニューヨークを読む』
千住博、野地秩嘉『ニューヨーク美術案内』
鎌田遵『ネイティブ・アメリカン』
2014年6月、ニューヨーク(1) ミッドタウン
2014年6月、ニューヨーク(2) メトロ
2014年6月、ニューヨーク(3) イースト・ヴィレッジ
2014年6月、ニューヨーク(4) ハーレム
2014年6月、ニューヨーク(5) ブルックリン
2014年6月、ニューヨーク(6) 世界貿易センター
2014年6月、ニューヨーク(7) 自由の女神とエリス島
2014年7月、ニューヨーク(8) チェルシー
チャーリー・パーカーが住んだ家
アンディ・ウォーホルのファクトリー跡
2015年4月、ニューヨーク
「ニューヨーク、冬の終わりのライヴ日記」 
ニューヨークの麺
ニューヨークのハンバーガー、とか


『大矢内愛史の世界 wrong exit』

2015-08-01 00:14:37 | アヴァンギャルド・ジャズ

『大矢内愛史の世界 wrong exit』(Armageddon Nova、2014年)を聴く。

大矢内愛史 (sax, p)

この実にユニークなプレイヤーを知ったのは、最近、明田川荘之『ライヴ・イン・函館「あうん堂ホール」』を聴いてのことだった。国立音大出身、松風鉱一さんの先輩にあたる大ヴェテランである。

安易なレッテルを貼ることはすべきではないし、また好きでもないのだが、ここでCD2枚分まるまる展開されるサックス・ソロ(たまにピアノ)を聴いていると、強烈なローカルとはこういうものかと思いたくなる。たまに、アルバート・アイラーの「ゴースト」など覚えのあるジャズが聴こえてくるものの、吹いたあとの力の抜き方、民謡や童謡を思わせる節、そういったうたを愛おしむように締めくくるところなど、どうしても日本を感じてしまうのだ。しかしそれは、函館かもしれないし、究極のローカルたる個人ということに過ぎないのかもしれない。

ささくれた音となにかを探し求めるような息遣いがたまらなくいい。函館に行けばプレイを目の当たりにできるのだろうか。

●参照
明田川荘之『ライヴ・イン・函館「あうん堂ホール」』