Sightsong

自縄自縛日記

テレンス・ブランチャード『Breathless』

2015-08-29 22:43:44 | アヴァンギャルド・ジャズ

テレンス・ブランチャード『Breathless』(Blue Note、2015年)を聴く。

Terence Blanchard (tp)
Charles Altura (g)
Fabian Almazan (p, syn)
Donald Ramsey (b)
Oscar Seaton (ds)
PJ Morton (vo)
JRei Oliver (Background vo, Spoken word)
Donald Ramsey (Background vo)

何しろ前作の『Magnetic』が鬼のようにカッチョ良く、昔のブランチャードの記憶を刷新してくれるものだった。そして、さらにこの新作は輪をかけてカッチョ良い。テクノロジーとストリート感でバキバキに固めまくった音楽である。

そんなわけで、もうどうでもいい気になっている。だってそうでしょう。「時代と寝る」音楽なんて、それがカッチョ良ければ良いほど、時の流れとともに風化していくに違いないのだ。(と断言してみる。)

●参照
テレンス・ブランチャード『Magnetic』


ミゲル・ゼノン『Identities are Changeable』

2015-08-29 20:11:46 | アヴァンギャルド・ジャズ

ミゲル・ゼノン『Identities are Changeable』(Miel Music、2014年)を聴く。

Miguel Zenón (as)
Luis Perdomo (p)
Hans Glawischnig (b)
Henry Cole (ds)
Identities Big Band:
Will Vinson, Michael Thomas (as)
Samir Zarif, John Ellis (ts)
Chris Cheek (bs)
Mat Jodrel, Michael Rodriguez, Alex Norris, Jonathan Powell (tp)
Ryan Keberle, Alan Ferber, Tim Albright (tb)

ミゲル・ゼノンはプエルトリコ生まれ。ここでは、プエルトリコにルーツを持つNY在住者たちへのインタビューを行い、それを音楽の中に切り貼りするという試みを行っている。人の声や雑踏の音をサンプリングして都市の音楽を作り上げる方法は新しいものでもないのだが、ゼノン自身のアイデンティティを探る意思が直接的に出ていて、とても面白い。

1920年代以降、プエルトリコ人のNYへの移住が本格化し、最初はイースト・ハーレムやロウワー・イースト・サイドに、その後マンハッタン島の外に増えてゆき、いまでは約120万人にも及ぶという。この音楽のなかには、ピックアップされた声には、「最初の言葉は」、「スペイン語は、英語は」、「生まれは、育ちは」といった言葉がある。また、プエルトリカン二世・三世も自身のルーツや伝統文化を意識していることに、ゼノンはショックを受けたという。まさにタイトル通り、アイデンティティは単純に血や生まれだけで決まるものでなく、遷移し、二重にも三重にも持ちうるということを示し表現している。日本でもこの手法を使ってみてはどうかな。

ゼノンのアルトサックスは、M-BASEの流れを受け継ぐようなクールなものでもあり、だが、前面にそれを押し出すというより少し引いたような感覚と、強弱の付け方のうまさもあって、なんだかしっとりとしている。ビッグバンドの入れ方にもやや控えめな印象があって、聴いていてリラックスする。


澤地久枝『14歳 満州開拓村からの帰還』

2015-08-29 14:49:40 | 中国・台湾

澤地久枝『14歳<フォーティーン> 満州開拓村からの帰還』(集英社新書、2015年)を読む。

作家・澤地久枝は、満州国、現在の吉林省において、戦時を体験し、14歳のときに敗戦を迎えた。日本の戦争遂行のためにつくられた大きな物語を信じながらも、そのことと、ひもじい思いや妙な戦争協力とを実感的に結び付けられなかった。また、平等を掲げているはずの社会にあって、中国人の同級生がもってきているお弁当との差に、拭い去ることのできない違和感を抱いている。

敗戦を迎え、日本は、国民の命を最優先する政策を取ることはしなかった。そしてソ連軍が侵攻し、中国共産党軍が奪い返し、その中で地獄のようなレイプの連鎖があった。著者は必死に逃げ隠れしながら、ひどい状況をすべて把握した。著者はそのことを、「日本人の歴史の負債のようなことが、実際に起こったのだ。人間の欲望と征服欲の分かちがたい行為として。」と書いている。

著者はまた、時代の隔絶、権力の隔絶、情報の隔絶のなかで、確実に、「遠い日の戦争が、つぎの世代の不幸とむすびついている」という。まさにこのことが、いまになって「昔話」を語らざるを得ない理由であっただろう。

●参照
澤地久枝『もうひとつの満洲』 楊靖宇という人の足跡
澤地久枝『密約』と千野皓司『密約』