六本木のスーパーデラックスにて、「ユーラシアンオペラ東京2018」の最終プログラム「Incredible sound vision of Eurasia in Tokyo」(2018/9/30)。
■ 昼の部
Sainkho Namtchylak (voice)
Michiyo Yagi 八木美知依 (箏)
Kazuhisa Uchihashi 内橋和久 (daxophone)
Jun Kawasaki 河崎純 (b)
顔と頭を覆いサングラスをかけた人物がサインホ・ナムチラックだった(すれ違って誰だと思ったぞ)。副島輝人さんに捧げると告げたあと、彼女は床に身を横たえ、声を発しはじめる。八木さんの箏はかなり強い。サインホは次第に身を起こし、立ちあがる。抑制した唸りが外部に向けられてきて、美しい声も彼女のトレードマークだった素晴らしい倍音や叫びも発する。内橋さんはしばらくはダクソフォンを弾き、それがサインホの声とシンクロし、心の襞を震わせてくれる。やがてギターに持ち替え、潮目も変わり、1時間ほどのパフォーマンスが終わった。かつてのすべてを音波で突き破るような尖った声ではなく、ときに慰撫するような丸く熟した声である。サインホ健在。
■ 夜の部
Marya Korneva (voice)
Saadet Türköz (voice)
Anya Tchaikovskaya (voice)
Sainkho Namtchylak (voice)
Michiyo Yagi 八木美知依 (箏)
Jun Kawasaki 河崎純 (b)
Toshiaki Ishizuka 石塚俊明 (ds)
Choi Jae Chol (韓国打楽器)
Reison Kuroda 黒田鈴尊 (尺八)
Junpei Otsuka 大塚惇平 (笙)
Aki Ozawa 小沢あき (g)
Ami 亞弥 (dance)
Hiroyo Miura 三浦宏予 (dance)
Seika Miki 三木聖香 (voice)
ロシアのマリーヤ・コールニヴァは風の音からはじめてひたすらに透明感のある歌声を披露した。また、ウクライナのアーニャ・チャイコフスカヤは揺れ動きの部分を増幅したような声で、とても可憐なものだった。
しかしこの日の白眉は、明らかに、トルコのサーデット・テュルキョズだ(両親は東トルキスタンからの政治難民らしい)。最初はステージの外で2人、3人とがやがやと歌い話しあい、それが6人になった。その雑踏を持ち込みつつ、ステージ上でみせてくれたヴォイスは文字通り圧巻だった。泥や情をすべて吸いあげ、身体が崩壊するのではないかと思うほどエネルギーを声に転換する。動きもすべて声のために貢献する。そして最後には笑ったとしか言いようがないように笑った。チェ・ジェチェルの韓国打楽器とのコラボレーションも抜群だった。こんな人が世の中にいるんだなという驚きがあった。
最後にサインホがまた登場し、ユーモラスに会話を発展させるかのようなパフォーマンスをみせた。意外なメンバー、石塚俊明もサウンドに一体化せんと工夫していた。
終わってから地上出口にのぼったら、ビールを片手に持ったサインホさんがいた。1997年の来日時にサインしてもらったCDを含め、最愛の3枚にまた書いてもらった。
●サインホ・ナムチラック
サインホ・ナムチラック『Like A Bird Or Spirit, Not A Face』(2016年)
サインホ・ナムチラック『TERRA』(2010年)
サインホ・ナムチラックの映像(2008年)
モスクワ・コンポーザーズ・オーケストラ feat. サインホ『Portrait of an Idealist』(2007年)
テレビドラマ版『クライマーズ・ハイ』(2003年)(大友良英+サインホ)
サインホ・ナムチラックとサックスとのデュオ(1992-96年)